表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/100

47 告白する勇気は持てないけれど。

「ああ、格好悪いよなぁ、俺」


 ――梅雨も明け、夏の盛りに入りつつある七月中旬。

 学校の教室で、誰にも聞こえないほどの小声で俺は呟いていた。



 最近の俺は自分でもおかしいと思う。

 気がつけばダニエラのことを考えているのだ。もちろん今までだって振り回されっぱなしだったのでダニエラの存在は常に頭の片隅にはあったが、そういうのとはまるで感覚が違う。


 これが恋というやつなのだろうか。

 朝に顔を合わす度、学校で隣の席から彼女の視線を感じる度、そして帰り道で並んで歩きながら話す度に何とも言えない感覚に襲われてしまうのだった。


 でも俺は、なかなかそれを口にすることはできないでいた。

 いつまでも黙っていたらダニエラを誰かに盗られてしまう。わかっている。わかっているのだが、もしも告白したとして断られたらどうしようかと思うと、なかなか口にできないのだ。


 そんな中、ダニエラは近頃、部活のない日や休日などは決まってコニーをマンションへ誘って茶飲み話をするようになったらしく、俺と接する時間が減っていた。

 だがそれはあくまで俺に言っているだけの嘘でしかなく、実は学校で出会った見知らぬ異性と濃厚なデートをしているのではないか、なんて考えてしまうものだから気が滅入る。


 要するに、俺はヘタレなのだった。


 普段は強がって隠しているつもりのヘタレな俺だが、一人だけにはどうしても見破られてしまうようだ。

 常に共に日々を過ごし、育ってきた幼馴染、明希だった。


「……誠哉、最近なんか悩んでるでしょ」


 ある日の昼休み、ダニエラがシスコン野郎に絡まれている隙を狙って俺を教室から連れ出した明希は、さりげない様子で俺に尋ねてきた。

 だが、それを話したいがために俺を呼び出したのは明白だった。最近は部活が忙しいのか帰りは一緒ではない日が多かったので気づかれていないと思い込んでいたのだが、どうやら違ったらしい。


 明希に全て相談してしまえればどれだけ気が楽になるだろう。

 だが、いくら幼馴染とはいえ思春期男子の悩みを打ち明けるのは恥ずかしい。俺は咄嗟に誤魔化した。


「別に」


「何か誤魔化してない〜? あっ、もしかしてダニエラさんがコニーちゃんと仲良くしているのが面白くないとか」


「…………。そんなわけないだろ」


「やっぱりそうなんだね。誠哉の浮気者!」


「だから俺、浮気してないから。ちゃんと人の話聞けよ」


 そう言いつつも、俺は「はぁ」と肩を落とした。


 情けない。本当に、情けなさ過ぎる。

 ダニエラや明希も含め、周りの奴らは恋に友情に部活など高校生らしい青春を謳歌しているというのに、俺はまるで違う。告白の勇気を持てず、ずっとウジウジしながら状況に流されるように生きているだけだ。

 部活だって、本気でやっているわけじゃない。ダニエラには友人どころか護衛扱いされていて、友情なんて育めていようはずもないし、そしてこの歳になって初めての恋はこのままでは叶わないだろう。


 そう考え、思わず泣きそうになってしまった……その時のことだった。


「――ねえ、誠哉」


「何だよ」


 うるさいな、と続けようとした言葉は、明希に遮られた。


「色々、うまくいかないこともあると思うんだ。

 私だってそう。好きな人に全然振り向いてもらえないし、なのに恋敵は現れるし他人の恋愛相談に付き合わされるし……。でも、でもね。自己嫌悪に陥っちゃったらなかなか這い上がれないでしょ。

 だから、きっと自分は大丈夫だって心を強く持って、前を向くの。そしたら絶対上手くいくから。私はそう、信じてるから」


「明希……?」


 急に何を言い出しているのだろう、と思ったが、彼女なりに俺を元気づけようとしてくれているのだとわかった。


「それでもダメなら、私を頼ってほしい。私は誠哉に頼られたいの。そしたらきっと誠哉の力になる。約束するからさ。だから誠哉には、元気でいてほしいの」


 いつも俺を振り回してばかりだった明希は、この時ばかりはまるで女神のように優しく見えた。

 その笑顔に、先程まで沈んでいた心が明るくなるのを感じる。


「ただそれだけの話。あっ、いけない、もうすぐ昼休み終わっちゃうね。じゃあ先に教室戻ってるから!」


 セーラー服のスカートを翻しながら、明希が教室へと歩き出して行ってしまった。

 一体何だったんだ、と俺は思う。あの一瞬、明希が俺を見つめた目は慈悲に溢れていて、俺を愛しんでいるように思えた。


 ――私を頼ってほしい。私は誠哉に頼られたいの。


 しかし、このことだけは話せない。

 同年齢で幼馴染の異性になんて、思春期の恋心を打ち明けることは、やはりできなくて。


「……そうだよな。心を強く持たなきゃ、ダメだよな」


 それでも、明希の言葉に力づけられたことだけは確かだった。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

 ご意見ご感想、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


作者の作品一覧(ポイント順)



作者の連載中作品
『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜

両刃の斧のドワーフ少女はダークエルフの姫君に愛でられる

乙女ゲームのヒロイン転生した私、推しのキラキラ王子様と恋愛したいのに相性が悪すぎる



作者の婚約破棄系異世界恋愛小説
【連載版】公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます


あなたをずっと、愛していたのに ~氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~

【連載版】婚約破棄なんてしたくなかった。〜王女は婚約者を守るため、婚約破棄を決断する。〜

この度、婚約破棄された悪役令息の妻になりました

婚約破棄なさりたいようですが、貴方の『真実の愛』のお相手はいらっしゃいませんわ、殿下

悪役令嬢は、王子に婚約破棄する。〜証拠はたくさんありますのよ? これを冤罪とでもおっしゃるのかしら?〜

婚約破棄されましたが、私はあなたの婚約者じゃありませんよ?

婚約破棄されたので復讐するつもりでしたが、運命の人と出会ったのでどうでも良くなってしまいました。これからは愛する彼と自由に生きます!

公爵令嬢と聖女の王子争いを横目に見ていたクズ令嬢ですが、王子殿下がなぜか私を婚約者にご指名になりました。 〜実は殿下のことはあまり好きではないのです。一体どうしたらいいのでしょうか?〜

公爵令嬢セルロッティ・タレンティドは屈しない 〜婚約者が浮気!? 許しませんわ!〜

隣国の皇太子と結婚したい公爵令嬢、無実の罪で断罪されて婚約破棄されたい 〜王子様、あなたからの溺愛はお断りですのよ!〜

婚約破棄追放の悪役令嬢、勇者に拾われ魔法使いに!? ざまぁ、腹黒王子は許さない!

婚約者から裏切られた子爵令嬢は、騎士様から告白される

「お前は悪魔だ」と言われて婚約破棄された令嬢は、本物の悪魔に攫われ嫁になる ~悪魔も存外悪くないようです~

私の婚約者はメンヘラ王子様。そんな彼を私は溺愛しています。たとえ婚約破棄されそうになっても私たちの愛は揺らぎません。
― 新着の感想 ―
[一言] 明希ちゃん……!!(ブワッ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ