45 なんだかんだで仲良くなる悪役令嬢と男爵令嬢。
暴力系ヒロインというのがいるらしい。
好きだからこそ照れ隠しで、というのは同じだが、ツンデレヒロインが好かれるのに対して暴力系ヒロインは嫌われがちだと明希は言っていた。
ダニエラの場合グレゴリー王子に鉄拳制裁したのもシスコン野郎を張り倒したのも学校四大美少女の一人飯島由加里に膝蹴りを与えたのもそれなりに正当な理由があったのだが、もしも何かの間違いで理不尽な暴力系ヒロインに進化を遂げられると困るなぁと俺は思う。
仮にそうなったとしてもきっと俺はダニエラに好意を寄せ続けてしまうのだろうが。
「何考えてるの誠哉」
「あ、何でもない」
「ふーん? 今度は泥棒猫令嬢ちゃんのお胸にご執心だったりしないよね?」
「それはないそれはない」
確かにたわわなあれは魅力的ではあったが、俺は断じて寝取り趣味はないので。
話が脱線してしまった。元に戻そう。
現在、ダニエラがグレゴリー王子の鉄拳制裁を終え、気絶した王子と「グレゴリー様ぁ、グレゴリー様ぁ」と泣きじゃくっているコニーの処遇に困っているところだ。
幸いグレゴリー王子の怪我の程度はそこまでひどくないようだが、問題は彼らの今後だった。
例によって戸籍取得と住居の確保が必要なのである。
「シスコン野郎に頼るしかない、か」
「でもダニエラさんは嫌がるだろうし、誠哉の話も聞いてもらえなさそうだしね……。仕方がないか、私が呼んでくるよ」
「明希はシスコン野郎と親しいのか?」
「まあ、それなりにはね」
何か含みのありそうな口調でそう言うと、明希はイワン・セデカンテとサキの住む場所へ走っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして残されたのは、俺とダニエラ、そして気絶中の王子に覆い被さるようにいて泣きじゃくるコニーだけとなった。
……とてつもなく気まずい。
別に俺が泣かせたわけではないものの、女の子が泣いているという状況には良心が痛んだ。しかし何か言える雰囲気でもない。
そう思っていたのだが。
「――ラダティ男爵令嬢、でしたかしら」
ダニエラは重苦しい空気を破り、コニーに声をかけた。
紅色の瞳からポロポロ涙を流しながら、コニーが顔を上げる。彼女は泣き顔さえも愛らしく、こういうところに惹かれたのだろうなぁと俺は勝手ながらグレゴリー王子に共感した。
「ひどいっ、ひどいですぅ! わたしたち、何もしてないのにぃっ……」
「申し訳ございません。先ほどはワタクシも冷静さを欠いておりましたわ。少しやり過ぎたと反省しておりますの」
「どうして、ですかぁ? わたしがグレゴリー様を好きになっちゃって、グレゴリー様がわたしを好いてくださったことが、いけないんですかぁ……?」
肩を震わせながら、コニーが言う。
こんなに庇護欲を掻き立てる少女ならどんな男でも陥落して不思議ではないだろう。……まあもちろん、ダニエラの方が何倍も良いと、俺は思うわけだが。
ダニエラは彼女に毅然とした態度で答えた。
「あの場でも申しましたが、ワタクシがあなたに行っていたということの数々は冤罪でしたのよ」
「で、でもっ、本当なんですぅ。本当にわたしはぁ……」
「別にワタクシ、あなたが全面的に誤っているとは断定しておりません。可能性としては、あのクソ兄、もといイワン・セデカンテ侯爵令息がワタクシと殿下を別れさせるため、あえて演出したということが考えられます。そしてワタクシの冤罪を証明し、グレゴリー殿下を貶めるつもりだったのなら、辻褄が合いますわ」
「そ、そんなぁっ!?」
「すでに縁を切ったとはいえ、もしワタクシの考えが正しければ、セデカンテ侯爵家の責も少しはあるということになりますわね。
セデカンテ侯爵家の行い、そして先程のワタクシの鉄拳制裁、そしてあなた方のワタクシの追放計画。どちらも正しくないことをした。そしてそれはもうすでに責任は取り合った。
そこでワタクシ、あなたとの関係を一からやり直したいと思いますの。この世界に不慣れなメロンディック王国の者同士、仲良くなれるとは思わなくて? それにあなたも、見知らぬ世界にやって来てしまって心細いでしょう」
「本当ですかぁ? 本当にダニエラ様は、わたしとお友達に、なりたいんですかぁ?」
「ええ、あなたにその気があるのなら、ですけれど」
手を差し出すダニエラ。
コニーはそれを、じっと見つめながら、震える声で言う。
「で、でもわたし、グレゴリー殿下のことは諦められません。たとえここがわたしたちの住んでいたのと違う世界であったとしても、もうメロンディック王国に戻れなくても、わたしは」
「ワタクシに気を遣ってくださっていますのね。ありがとうございます。
ですが遠慮は不要ですわ。実はワタクシ、この世界で好きな殿方に出会いましたのよ。たとえ相応しいお相手がいたとしても奪いたい気持ちが理解できるようになりましたの。ですからあなたがどのような恋をしたとしても、ワタクシは憎んだり恨んだりいたしませんわ」
「……わかり、ました」
コニーがダニエラの手を取った。
「よろしくお願いいたしますわね」と静かに微笑むダニエラ。「はい!」と元気よく答えるコニー。
立ち尽くす俺と、気絶するグレゴリーという情けない男どもさえいなければ、美しい女同士の友情の誕生シーンとなったかも知れない。
つい先程まで敵対していた二人がこんなにあっさり仲良くなっていいのか、とかダニエラは本当はコニーを自分の意のままにしたいだけなのでは、などというツッコミは野暮なものなのだろう。
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