41 愛する彼女と一緒に異界へ迷い込み、忌むべき女と再会する。
淡いピンクブロンドの髪、炎のように揺らめく紅色の瞳。
触れるだけで折れてしまいそうな細い腰に、思わず顔を埋めたくなるたわわな胸が目を引く、可憐な少女がそこにいた。
「……コニー」
買収したメイドに連れられ辿り着いた先、久々に赴いた男爵邸にて、私を出迎えた少女の名を私は呼ぶ。
そしてギュッと抱きついた。
「グレゴリー様ぁ!」
コニーは小鳥の囀りのごとき声を上げ、私を強く強く抱きしめ返してくれる。
「一体どこ行ってたんですかぁ! わたし、わたしぃ、すっごく心配したんですからね……!」
泣きそうな笑顔を見せるコニーはとても可愛い。
ずっと恋しかった彼女の体温を感じながら、私は歓喜に震える。
「すまない。父にダニエラを追放したことに関して誤解を生んでしまい、長らく謹慎させられていたんだ」
「そっかぁ、そうなんですね。本当に、ご無事で良かったぁ……」
私は抱き合ったまま、数ヶ月ぶりの再会を喜び、静かに唇を重ねた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コニーとの出会いは、婚約者であったダニエラの小言にうんざりしていた頃のこと。
城の中をぶらぶらと歩き回っている途中、王城の庭園で見知らぬ少女と出会したのだ。
「……何をしているんだ? 見かけない顔だが」
「あっ、す、すみません。花を、見ていて」
うっすらと頬を桜色に染めるコニーはとても美しく、一瞬で心を惹かれた。
私は思わず彼女の元へ歩み寄り、名を訊いていた。
「お前の名は」
「わたし、ラダティ男爵家令嬢、コニー・ラダティって言いますぅ」
普通の令嬢は自分のことを令嬢と言ったりしない。名乗る場合は、『〇〇家の娘』などと言うものだ。
だから私はすぐにわかった。彼女が近頃社交界で噂になっていた、平民上がりの男爵令嬢なのだと。
――彼女と話してみたい。
気づけば私は、そう思ってしまっていた。
「私は王太子のグレゴリーだ。どうだ、花に興味があるならここよりたくさん咲いている温室がある。そこへ連れて行ってやるぞ」
「えっ、いいんですかぁー!? グレゴリー様、ありがとうございますー!」
そう言いながらコニーが見せた笑顔はどこまでも純粋で、輝いていて。
この瞬間、私はきっと初めての恋をしたのだろうと思う。
そこからはあっという間だった。
日に日に嫌悪感が増していくダニエラに対して、コニーのことは好きになる一方だった。そして今も――。
「ダニエラ様のお屋敷に行く、ですかぁ?」
「そうだ。きっと私が不当に謹慎させられたのは彼女のつまらない復讐に違いない。だから私が正しく、彼女こそが悪女なのだと世に知らしめなければならない。そこでセデカンテ邸ならば何か掴めるはずだと考えたのだ。
妙案だろう? そうすれば私とお前の結婚もできる」
「はい! じゃあ早速、グレゴリー様とわたしで行きましょう」
そんなわけでやって来たセデカンテ侯爵邸。
令息も令嬢もいなくなってしまい、残るは侯爵夫妻と使用人のみ。
脅威となるイワン・セデカンテは不在だから、不意打ちすれば侵入可能だろう。
そう思い、私たちはこの屋敷を強行突破することにした。
コニーを私の背中に庇いつつ、「セデカンテ夫妻に会いに来た」と言って門番に門を開けさせる。
そこからは全力疾走で、屋敷の二階にあるダニエラの部屋と思わしき一室へ向かった。そこであれやこれやとまさぐり、彼女の悪事の証拠となるものを探し回る。
じきに侯爵夫妻がやって来る。その前に、早くしなければ――。
「……あっ、グレゴリー様グレゴリー様」
「どうしたコニー。何か見つかったか?」
「見てくださいこれ。青い宝石がキラキラしてますぅ! これを売ったら絶対高くなりますよぉ!」
コニーが叫び、私に見せつけたのは金色の装飾が施された、大きな壺だった。
コニーの父親は元は商家の者で、娘であるコニーも金目のものには目がない。
ダニエラの部屋の隅に置かれていたそれは確かに非常に高くつくだろうものだった。
「だが、今は金になるものを探してるわけじゃ――。ん……?」
コニーをやんわりと嗜めていた最中、私はその壺が普通の骨董品ではないことにようやく気づいた。
壺の中が光っている。淡い金色の光を放ち始めていた。
直後、「逃げろ!」と私は叫んだが、もはや手遅れだった。
その時にはすでにコニーの体がスルスルと壺の中に吸い込まれてしまっていた。
「うわぁっ、何ですかこれぇ〜!?」
「コニー! クソッ、これが噂の魔道具か!」
一気に部屋の中に溢れ出す眩い光の中、私はコニーの手を探し、強く強く掴んだ。せっかく再会できたばかりなのだ、別れ別れになどなってなるものか……!
そう思った直後、私の意識は急速に薄れ、消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に気がついた時、真っ先に探したのは最愛のコニーの姿だった。
辺りを見回す。幸いすぐに彼女は見つかった。
「コニ――」
しかし叫びかけた私は、途中で絶句してしまう。
なぜなら気を失って倒れるコニーを、背の高い女……いいや、少女が見下ろしていたのだ。
美しい青髪に、鋭いスカイブルーの瞳。
衣装こそ私の国では見たことのないものを纏っているが、その少女の名を私は知っている。知り過ぎている。
――ダニエラ・セデカンテ。
二度と会いたくなかった忌々しい女が、そこにいた。
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