40 一方その頃異世界では。
――日本へ渡ったイワン・セデカンテが日比野明希と手を組み、そして佐川誠哉がダニエラ・セデカンテへの想いを自覚したのより二ヶ月ほど時は巻き戻る。
ダニエラ・セデカンテがこの世界を追放された数日後の真昼時、異世界にある王国メロンディックの王城の一室にて国王と王太子が対面していた。
いいや、対面というのは正しくないかも知れない。なぜなら国王が王太子の背中を思い切り踏みつけていたからである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぜです、父上ッ! 私はただ、コニーを不当に虐げるあの悪女、ダニエラ・セデカンテに正しき裁きを与えたまでのこと!」
ああ、最悪だ、と私は思っていた。
私はメロンディック王国で国王に次いで高貴なる身。つまり王太子である。
それがこうして床に這いつくばらせられているなど、屈辱以外の何者でもなかった。
本当なら不敬罪で処してやりたいところだが、それができないのは私を組み伏せているのが他ならない国王、つまり父だからだ。
「痴れ者が! ダニエラ・セデカンテには王妃教育をほぼ受けさせていたのだぞ。それを平民上がりの男爵令嬢を正妃にしたいだと!? 冗談も休み休み言え。
お前を一時的にとはいえ国に一人で残したのがいけなかった。リリアンが死んでからというものお前は馬鹿をやらかしてばかりだ」
リリアンというのは五年ほど前に亡くなった母上のことだ。
だが、どうして今母上の名を持ち出されなければならないのか、私には理解できなかった。
私は先日、ダニエラ・セデカンテに婚約破棄を告げた。
十年間婚約者として振る舞ってやり、彼女の可愛げのない冷たい態度に耐えてきたがとあることをきっかけに我慢ならなくなったのだ。
それは、私が心より愛するコニーを傷つけたことだった。
ダニエラを正妃に据え、コニーを妾として愛でようと思っていたが、そうなれば話は別だ。
ダニエラ・セデカンテを異界に送ると、コニーは心から喜んでくれた。そこで私はプロポーズをし、正真正銘彼女と心が一つになった。
……残念ながら王族としてのしがらみ上、まだ体は一つになれていないが。
しかし喜びも束の間で、外遊に行っていた父が慌てて帰って来て、かと思えば私を無理矢理呼び出しこうして踏みつけにしたというわけだった。
正直、わけがわからない。
「ダニエラ嬢はこの国の宝と言ってもいい才媛だったのだぞ。それにセデカンテ家の長男、次期侯爵イワン・セデカンテが彼女を溺愛しているのは周知の事実ではないか。彼女を異界送りだと? セデカンテ侯爵令息に魔道具でこの城ごと消されてしまうではないかッ!」
「で……でも、悪いのはダニエラで」
「言い訳など聞かぬ! お前はしばし自室での謹慎処分とする。コニーとやらとは二度と会うな!」
父は私を強く蹴り飛ばし、吠えた。
部屋の隅までゴロンと転がされた私は屈辱で顔を赤くしながら父を見上げる。だが、すぐに鬼の形相で睨みつけられたので大急ぎで部屋を出て行った。
なぜだ。なぜだなぜだなぜだ?
私の行動は全て正当なものだったはずだ。ダニエラはコニーを虐げ、果ては暗殺しようとした悪女だ。異界追放処分にするべきなのではないのか。なぜ私が罰せられなければならない。なぜ――。
私は部屋を出るなり護衛騎士に捕まり、自室へと連行された。
鍵をかけられ、自室に閉じ込められる。「コニーを呼べ!」と大声で叫んだが、近衛騎士たちが私の言葉を聞き入れることはなかった。
それから一ヶ月半ほど私は謹慎させられていた。
外から入ってくる情報は少ない。たまに私の弟の第二王子ルイスがやって来て、愚痴混じりで私に一方的に聞かせることがあるくらいなものだった。
「ああ、畜生。魔道具の使い方がわからないんだ。今すぐにでも彼女のところへ行きたいのに。馬鹿な兄さんに言ってもしようがないけどね。
本当に兄さんは馬鹿だよ。兄さんはただ、婚約破棄をするだけで良かったんだ。なのにどうして追放なんてした。父の外遊について行かなければ良かった。本当なら僕が、僕が……」
ルイスがぶつぶつ呟く内容の中からかろうじて知れたのは、イワン・セデカンテが妹を追って自ら古代の魔道具を再現して作り異界へ渡っていったということくらいなもの。
そんなことは私にとってはどうでもいいことだった。ダニエラのことも、もはや興味がない。
ただコニーに会いたかった。
謹慎させられてからというもの、彼女の声すら聞けていなくて、もう限界だった。
ある日、私はルイスが私に愚痴を漏らしにくるため扉を開ける隙を狙い、彼を突き飛ばして扉の外に出た。
ルイスが護衛騎士を傍に置いていなかったのが幸いだった。途中でメイドに見つかったりしたが、買収してコニーの男爵家へと連れて行かせた。
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