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38 なぜか悪役令嬢のお兄様に恋愛相談される私。

 ここ最近は本当に色々と大変だった。


 しばらく大人しくしていたと思ったダニエラさんのお兄さんが、急に問題を起こし始めるんだもの。

 そりゃあ油断した私たちも悪いけど、さすがに異世界の物の持ち込みはナシでしょう。うっかりすると大騒動になる可能性だってあった。


 現に生徒会長の銭田さんには捕まってしまったわけだし。

 一応、何事もなかったから良かったようなものの……。それにしてもまさか生徒会長と向かい合って話すことになるとは思わなかった。しかも銭田さんは中小企業の社長の娘の私とは比べ物にならないくらいの金持ち娘で大和撫子なお嬢様だから緊張せざるを得なかった。


 まあそれもなんとか乗り切って、私はまた誠哉やダニエラさんとの高校生活を過ごすことになった。

 二年生になって――具体的にはダニエラさんが異世界から現れてからありふれた物ではなくなってしまった毎日も、誠哉といられるだけで楽しい。もう少しイチャイチャしたいなというのが本音だけれど。


 ダニエラさんは今お兄さんに絡まれ続けて余裕がないみたいだから、誠哉を私のものにするなら今がチャンスだ。

 でも、それがなかなかうまくいかない。学校の行き帰りなどはできるだけ身を触れ合わせるようにしたり、それとなく好意を伝えたりしているのに、鈍感な誠哉の中では私はまだ『ただの幼馴染』なのだ。


「ダニエラのお兄さんの恋の魔道具、使えば良かったかもなぁ……」


 そんな風に呟きながら、授業が終わりたてのせいかまだ誰も来ていないアニメ部の部室でぼんやりしていると、ふと背後から声をかけられた。


「君、ええと、ダニエラの友人だったな」


「あ、はい?」


 咄嗟に答えながら振り返ると、そこに立っていたのは短い黒髪にほっそりとした長身、そして女の子ウケしそうなイケメンな顔立ちをした男の子。

 何も知らなければ普通の男子高校生にしか見えない彼は、魔道具で姿を変えているダニエラさんのお兄さんだった。一週間の停学期間を終えて、昨日戻って来たばかりだ。


 いつの間に部室にいたんだろう。考え事をしていたせいで全く気が付かなかった。


「どうしたんですか?」


 彼が私に話しかけてきたのなんてほとんど初めてだったので驚いた。

 この人、ダニエラさん以外もちゃんと視界に入っていたんだ……と、少し失礼なことを思ってしまったくらい。


「いや、最近ダニエラが私の前に姿を見せなくなったんだ。もちろん教室では目の前にいるが、それ以外の時はすぐ煙のように消えてしまうから探すのが大変でね。異世界に放り込まれたばかりだから不安なのだろうということはわかるが、ぜひとも兄である私に素直に甘えてほしいんだ。そこで君に意見を求めたいと思ってね」


 うわあ、またか。

 やはり私に話しかけてきたのはダニエラさん関連らしい。

 魔道具の一件があって以来、ダニエラさんはお兄さんのことがさらに大大大嫌いになったようで、誠哉に頼み込んで徹底的に避け続けている。でもそれを正直に言ったところで聞いてもらえないだろうし、反応に困る。


「えっと、それは恋愛相談ってことでいいです?」


「恋愛相談、か。そうだな。私のこの熱い想いがどうすれば真正面から、気恥ずかしがらずに受け止める気にさせることができるのか、その点では私は悩んでいると言えるかも知れない」


 絶対の絶対にダニエラさんが彼に好意を抱くことはないとは思うけれど、面倒臭いからわざわざ言わない。


 それにしても私、なんで恋愛相談されているんだろう。

 自分の恋愛だって順調というわけじゃないのに……。


「とりあえず距離を取ってみたらどうですかね」


「距離?」


「ほら、よく言うでしょ。押してダメなら引いてみろ……って」


 言いながら私は、これが完全なるブーメランだと気づく。

 誠哉が振り向いてくれないのは、私の好意が通じていないわけではなく逆に伝わり過ぎているからだったりしないだろうか。いなくなって初めて気づく愛おしさ、みたいな。

 でも引いていたらダニエラさんに盗られてしまうかも知れない。それだけは嫌だ。


「だが、美しく可憐なダニエラがその間にうっかり攫われてしまったらどうする。そうなればこの世界を滅ぼしてでもダニエラを見つけ出さねばならなくなるだろう?」


 この人も私と同じような考え方らしい。もっとも私は、たとえダニエラさんに誠哉を盗られても世界を滅ぼしたりまではしないだろうけれど。


 そんな風に考えていた時、ふと、とんでもない案が閃いてしまった。


「……あの」


「何だ」


「私、伊湾さんのこと、お手伝いします」


 言ってしまってから、自分で「何を言っているんだ」と思った。

 でもなぜか言葉は止まらず、口から勝手に溢れ出す。


「私は兄弟とかいないんですけど、兄妹愛って尊いじゃないですか。だから見届けたいなと思って」


 嘘だ。私はただ、誠哉を狙う恋敵をなくしたいだけ。

 なんて醜いんだろう。私はこれでも、彼女の友人のつもりでいたのに。


 でも仕方ない。だって私は、ダニエラさんに負けたくないのだから。


「君は理解してくれるのか、私の愛を!!!」


 ダニエラさんのお兄さんは、目をギラギラさせながら身を乗り出した。

 それに若干引きつつ、私は頷く。


 その直後に猫耳忍者な部長がやって来て、私たちの会話は終わった。




 ごめんねダニエラさん。

 異世界からあなたが来てからずっと協力し続けてきたし、正直言ってお兄さんのことはあまり好きになれないけど、今回だけは別。

 ……せっかくだから、利用させてもらうよ。

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