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36 生徒会長からのお咎め。

「なんてことをしでかしましたのよ、この愚か者がっ!」


 今まで徹底的に無視を決め込んでいたダニエラが、さすがに許せないと言った様子で実兄を罵っていた。


「そんなにワタクシに迷惑をかけたいんですの!? 曲がりなりにもワタクシへの愛を語るなら、どこかの路端でクルマにでも轢かれて死んでしまわれたらいかがですかしら。その方がよほどお似合いですわ!」

「ダニエラ様、そこまでおっしゃらなくても。イワン様は素晴らしい方でございますから……」

「サキは黙っていてくださいまし。ワタクシは今、この忌まわしき血縁上の兄と話しておりますの」


 サキにシスコン野郎を抑えてもらって、その間に俺たちは急いで魔道具を回収しに走った。

 しかしそれはなかなかに大変で、特に恋のお守り――という名の魅了の魔道具らしいが――などは、学校中にばら撒かれ普及しまくって手遅れだった。


 それでもできるだけ回収し処分して、最大限の火消しを行った俺たちは、ようやっとシスコン野郎と向き合ったというわけである。


 だがダニエラがいくら激しい罵倒をしても、シスコン野郎は素知らぬ顔だった。それどころか、


「ああ……ダニエラ、やっと私を見てくれたんだな。私もお前のことをこの世の何よりも愛している」


 この有様である。

 ダニエラが今までのどの表情よりも恐ろしい鬼の形相で、シスコン野郎を無言で張り倒したのも、致し方ないと言えるだろう。


 ちなみにその後、頭を(したた)か打って半日ほど意識不明になったイワン・セデカンテを、サキが丁寧に丁寧に看病したのだった。




 そして六月半ばのとある放課後、現れてしまったのである。

 学校四大美少女の一人――そしてこの学校の生徒会長でもある彼女、銭田麗花が。


 銭田麗花はストレートの黒髪を後で一つに束ね、セーラー服を少しの乱れもなくきちっと着こなした、いかにも生真面目そうな少女だった。

 化粧っ気の一つもないのにアイドルとしてテレビに出ていてもおかしくないほどの美貌を持つ彼女は、銭田財閥という大金持ちの娘でもある。


 ダニエラと並ぶハイスペック美少女だった。


 飯島由加里、海老原凛、ダニエラ・セデカンテ、そして銭田麗花、これで俺はなんと校内四大美少女の全員と会ってしまったわけだが、それはさておき。


 どうして生徒会長がわざわざ俺たちの前に現れたのかと考えれば、原因は一つだけ。

 魔道具騒動関連である。


あなたがた(・・・・・)、少しお話ししたいことがあります。ついて来なさい」


 しかしおかしいのはシスコン野郎だけでなく、彼の隣のサキ、そしてさらに俺やダニエラ、明希まで呼び出されたこと。


 火消しして回ったせいでシスコン野郎との関係性がバレた可能性が高い。


 本当は無関係であると主張した方が良かったのかも知れない。

 その感情のこもらない冷たい声に逆らえる者は、誰一人として存在しなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして十分後、案内された空き教室にて。


 俺たちを席につかせ、教壇の前に立った銭田麗花は口を開いた。


「――少し前の校内新聞で、この魔道具というものが学校内に出回っていると書かれていました。出所を辿った結果、あなたがたに行き着いたのです」


 そう言いながら銭田麗花が取り出したのは、赤い宝石が埋め込まれた小さな箱のようなもの。

 俺たちが回収をしきれなかった魔道具の一つであろう。


「……先ほどから気になっていたのですけれど、あなたは『あなたがた』としきりにおっしゃいますが、ワタクシがこのことに関与したとおっしゃいますの? 証拠はおありでして?」


「ダニエラ・セデカンテさん。あなたが伊湾彰人さんと言い争っているところは多くの生徒が見たと証言しています。それでも関与を否定すると?」


「ただの腐れ縁ですわ。忌々しい」


 吐き捨てるように言ったダニエラだが、確かに彼女の言い分は不利だろう。

 実際、無関係ではないのだから、関与を疑われても仕方がないのだ。実際関与しているわけだし。


 それから一度全員外に出され、一人ずつ空き教室に連れ込まれては一対一で事情聴取のようなことが行われた。

 魔道具関連のことだけではなく、ダニエラに関してのことや俺自身の生い立ちなど、一見関係なさそうなことまで話させられたが、おそらく彼女にとっては大事な情報だったのだろう。

 明希に聞いてみると「私はそこまで色々聞かれなかったけどなぁ」と言われたが、詳しいことはよくわからない。


 ともかく、事情聴取の中で彼女は、この魔道具騒動を起こした犯人を確信したようであった。


「伊湾さん。やはりこれらはあなたのものなのですね。学校に私物を持ち込んではならないと校則にあったはずですが」


「校則だか何だか知らないが、私はダニエラ……失礼、セデカンテ嬢以外には興味がないのでね」


「私物の持ち込みの校則違反を犯した上、この魔道具というのがただの恋のお守りではないと生徒たちは証言しています。不正な麻薬等ではないことは調べさせていただきましたが、これが一体何なのかを教えていただかないと最悪停学処分にせざるを得なくなる可能性もあります」


「どうでもいいな。どうしても執拗いようなら君を消すことになる」


 そしてシスコン野郎は、何でもない様な顔で恐ろしいことを言う。

 銭田麗花は知らないが、おそらく彼がそれを実現できるのだろうと理解してしまっている俺はゾッと背筋を凍らせた。


 これから二人の舌戦が繰り広げられる、あるいはシスコン野郎が暴走して銭田麗花の身にとんでもないことが起こるかも知れなことを覚悟した俺だったが――。


「……わかりました。そういうことなら一週間の停学処分といたしましょう。異論は認めません。そしてダニエラ・セデカンテさんを筆頭に、関与した疑いがある方たちは様子見とさせていただきます。次、何か怪しい行動を見せた場合は厳しい処分が下りますから、そのつもりで」


 生徒会長のお咎めは、拍子抜けするくらいあっさりしたもので終わってしまったのである。




 それからシスコン野郎は銭田麗花の言葉通りに一週間の停学、そして俺たちはふとした瞬間に視線を感じるようになった。

 だが……魔道具が世に出されて大騒ぎになるということだけは避けられたようなので、文句を言わずに我慢しようということになった。

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