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29 朝起きたら、幼馴染と悪役令嬢が両腕に抱きついていた件。

 予想に反して、夜中は何事もなく、静かな朝を迎えることができた。

 それは非常に喜ばしいことだと思う。なぜあのシスコン野郎が大人しくしていたかの理由はさっぱり不明だし、そう簡単に諦めたともまるで思えないのだが、それは一旦置いておかなければならない。


 なぜなら今、決して無事だとは言えない状況、いいや惨状が目の前に広がっているからだ。

 ズバリ――年頃の少女二人が俺の腕に思い切り抱きついてスヤスヤと眠っているという、あまりに異常過ぎる光景が。


「昨夜一体、何があったんだ……」


 そう言わずにはいられなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 彼女らがきちんと寝間着を着ているのを見るに、寝ぼけて色々といけないことをやらかした後という最悪の事態ではないらしい。

 だが、まともと言える状態ではなかった。右腕に身を擦り寄せるダニエラは涎を俺の服にべっとりとつけて爆睡しているし、左側の明希などは半ば被さるようになっている。彼女の胸が俺の胴にぎゅっと押し当てられていた。


 時刻は朝六時半。今日も休日なので時間的にはもう一寝入りしてもいい時間だが、さすがにこれでは二度寝なんていう気分になれるはずもなかった。

 とりあえず叩き起こして事情を聞くべきなのか、サンドイッチ状態をグッと堪えて彼女らが目覚めるまで待つのがいいだろうか。


 悩んだ末、根性なしの俺は後者を選んだ。


 どうしたらこんな状況に至るのか、考えてみるがさっぱりわからない。

 ダニエラも明希も俺のベッドで寝ていたはずで、たとえどれだけ寝相が悪かったとしても揃ってベッドを転がり落ち、俺のところまでやって来るということはどう考えてもあり得ないように思える。


 かといって俺が二人をベッドから下ろし、腕に抱いたかと考えてみたが、それはおそらく違うだろうと自信を持って言える。

 彼女たちは俺の両腕に自らの意思で抱きついたのだ。


 明希は若干スキンシップが多い。もとより幼馴染であるし、子供の頃は普通に抱き合ったりしていた。お泊まり会というシチュエーションでそれを思い出し、深夜テンションでやってしまったという可能性もある。

 だがダニエラは明らかにおかしい。おかし過ぎる。シスコン兄のせいで心細くなって、俺に縋ってきた? でもダニエラはそういうキャラじゃない気がする。

 いや、それは単なる俺の思い込みか。ダニエラとて俺と同い年くらいの少女だ。不安になる夜もあって当然だろう。


 いまいち納得いかないが、ひとまず納得しておくしかあるまい。

 まさか彼女たちが俺のことを好いているわけもないから、これは完全なる事故なのだ、多分。


 ……涎を垂らして眠りこけているダニエラのお嬢様らしくない姿は見なかったことにしようと決めた俺なのだった。

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