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13 悪役令嬢は部活を選ぶ。

「ねえ、そういえばダニエラさんは部活ってどうするの?」


 飯島の一件から数時間後のこと。

 次の授業のために三人で歩いていると、ふと明希がそんなことを言い出した。


 そういえば忘れていたが、ダニエラはまだ部活を選んでいないのだった。

 俺みたいに帰宅部を選択するのもありだが、あれだけ人気が出ると部活への勧誘が殺到するだろう。そうなる前に確かに決めておいた方がいいかも知れない。ただ、どこかに入部したら入部したで問題を起こすのは目に見えている気もするが……。


「ブカツ? それは何ですの?」


「ああそっか、異世界人は部活知らないか。倶楽部活動だよ。ダニエラさんは好きなことある? 私のイチオシはアニメ部。ダニエラさん、絶対アニメにどハマりするタイプだと思うんだよっ。それを同胞たちと一緒に語り合うの! めっっちゃ面白いからおすすめ!」


 グッと前傾姿勢になった明希が早速勧誘を始めた。

 ちなみに彼女はアニメ部の部員である。実際どんな活動をしているのか俺は知らない。が、明希を筆頭とした数人のアニオタな生徒たちが無理を押して作った部活と聞いており、相当変な部であることは間違いないだろう。


「それはただ明希がオタク仲間を増やしたいだけだろ。ダニエラは絶対ついていけないと思うぞ」


「いいからとりあえず放課後にアニメ部へ直行ね! ダニエラさんのこと部のみんなにも知らせなきゃだし。きっとみんな驚くよ! ああ今から楽しみ!!」


 俺の反論は明希の叫びにかき消されてしまったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして放課後、やって来ましたアニメ部。


「やあ、君が日比野君の言っていた転校生だね。初めまして。僕は新谷。この世に闇をもたらすものだ。よろしく頼むよ。……ああ、右目が疼く」


 俺たちはいきなりやばい人に出迎えられていた。


 H高校三年生にして明希のアニオタ仲間、新谷先輩。たまに明希から話は聞いていた。かなり独特な人だと。だが彼は俺の想像を遥かに超えていた。

 眼帯。真っ黒なダサい衣装。どれだけの大怪我をしたのかと言いたくなる数の包帯。俺はこういうコスチュームの名を知っている。

 厨二ファッション。彼はそういう病に侵された類の人間なのだろう。


「新谷先輩、今日も絶好調ですね! あ、ダニエラさんの前なので邪眼発動はしないでくださいね」


「わかっている。だが、僕は今にも闇に呑まれそうだよ」


「……もう呑まれてると思いますよ」


 俺がボソリと口の中で呟いたのとほとんど同じ頃、新谷先輩の厨二さについていけなかったらしいダニエラがおずおずと口を開いた。


「お初にお目にかかります。ワタクシ、ダニエラ・セデカンテと申しますの。アキ様のお誘いを受けてここへやって参りました。これがブシツですの?」


「そうさ。ここが僕らの集いの場……。悪魔の声が聞こえてくるだろう?」


「翻訳機能がおかしいのでしょうか。アキ様、この方はなんとおっしゃっていらして?」


「ちょっと新谷先輩の言葉は難しいけど慣れるとすぐわかるようになるから大丈夫。新谷先輩、部長に会わせたいんだけど部長どこですか?」


「ああ、我ら闇を好む者たちを束ねる者ならもうすぐこの魔境へ足を踏み入れるはずだ。ほら」


 新谷先輩がそういうか早いか、俺たちが入ってきたばかりの部室のドアが外側からガラリと開けられる。

 そして現れたのは――。


「皆の衆、楽しくやっておるか?」


 明らかに校則違反な猫耳カチューシャを頭に飾った、ロリ忍者コスプレ少女だった。

 俺も、そしてこの世界の常識を知らないダニエラでさえも悟ってしまったことだろう。この部活にだけは間違いなく入らない方がいい、と。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それから三十分ほど、猫耳コスプレなアニメ部部長――ちなみに明希の友人でもあるらしい。こんな人物とどうやって話せるのか甚だ疑問だ――と重度の厨二病患者な新谷先輩、その他にもアニメの世界と現実の区別がついていない男子部員や某アニメキャラになりきっている女子部員など変人に絡まれまくった後、やっと俺たちはアニメ部の部室から逃れることができた。

 今まで明希のことを内心変人だと思ってきたが、今日をもってその認識を改めねばならないらしい。明希はまだ常識人な方だ。上には上がいる。そして俺は、そういう人種と付き合っていける能力はやはりないようだ。それはダニエラも同じだった。


「楽しそうなところでしたけれど、アキ様たちはワタクシにはどうやら理解の及ばない高みにいらっしゃるようですわね。やはり他のところにいたしますわ」


「えー。絶対面白いのにー」


 残念そうにしながらも無理強いはしない明希。さすがにあの部員たちが普通人とはうまくやっていきづらいことは自覚しているのかも知れない。


 アニメ部がダメとなると、他の部活を選ぶ必要がある。

 俺的におすすめなのは――。


「ダニエラが部活を選ぶなら運動部系がいいと思うぞ。泳ぎはわからないから陸上部とかどうだろう」


 しかし俺のその考えはすぐに却下された。


「それよりダニエラさんはお嬢様なんだからそれ(淑女)っぽい感じの部活とかが向いてるんじゃない? 茶道部とか弓道部とか。いかにも深窓の令嬢がしてそうなイメージじゃん?」


「イメージと実際問題は違うだろ」


「イメージ大事でしょ、お嬢様なんだし。学校三大美少女の一人の銭田麗花先輩も華道部だったと思うよ」


「ふぅん」


 でもダニエラにそういうのがあまり似合うような気がしない。彼女は清楚だが活発系なのだ。馬術部なんかが似合いそうであるが生憎うちの学校にそんな部はない。


 などと話し合っていたその時だった。


「そうですわね……。あら、セイヤ、こちらの部屋では何のブカツをしていますのかしら?」


 ふとダニエラが興味を示した先、そこは。


「うん? ああ、ここは料理部だな。名前の通り料理をするんだとは思うが」


「ならワタクシ、ここにいたしますわ」


「え!?」


「貴族の娘として今まで料理などしてきませんでしたけれど、これからは侍女も雇わず暮らすことが必要でしょう? いつまでもデマエとやらをとっているわけにもまいりませんし、ワタクシ自ら作った方が良いかと考えましたの」


 全く考慮に入れてなかった選択肢。でも考えてみればありかも知れない。

 絵面的にも悪くないし、そして万能なダニエラならきっとこなせてしまうだろうし。


「ダニエラさんがそう言うなら私はそれでいいと思うよ」


「俺も同意」


 そんなわけで、ダニエラを先頭に俺たち三人は料理部に突撃することになった。

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