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エピローグ 俺の平凡な日常。

 ――春休みが明け、新学期になっていた。

 部屋に差し込む心地良い朝日で俺は目覚める。窓の外に目を向ければ、清々しい四月の青空が広がっている。


 着替えて朝食をとった後、家を出る。そこには明希が待っていた。


「おはよう」

「誠哉、おはよう。じゃあ学校行こっか」


 俺たちは並んで歩き出し、学校へ向かう。

 そんな、どこまでもいつも通りの何気ない朝が今日も始まった。


 彼女、ダニエラ・セデカンテがこの世に存在しないことを除けば。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ダニエラ・セデカンテの転校はここ数日の学校中の噂の的だ。

 ダニエラにもう一度会いたがる者、そして彼女自身に断られたというのに諦めず、手紙を寄越したいと言って俺や明希にしつこく彼女の住所を聞いてくる者もいたが、俺たちが答えられるわけがない。

 ――知っていたら、今すぐにでも会いに行きたいというのに。


「ダニエラはきっと遠い遠いどこかの故郷で幸せにやってるだろ」


 そう言って誤魔化し笑いを浮かべるしかなかった。


 三年生の教室に、ダニエラの席はない。

 当然ながらイワンやサキ、それにルイス王子の席もないわけだが、存在ごと消えてしまった彼らを知るのはもはや俺と明希だけだ。


 イワンに関する一連の事件も、塁と俺が料理の腕を競った日々も、全て最初から存在しなかったことにされた。

 そのことをひどく寂しく感じるのはなぜなのだろう。


「アニメとか漫画とかでは周囲から忘れ去られるなんてのは結構ありがちな話ではあるけど、実際体験するとなんか辛いよね」


「……そうだな」


 俺は三年生になってすぐに料理部を辞めた。

 入部動機だったダニエラもいなければ、切磋琢磨し合っていたルイス王子も消えた。なのに彼らの残り香が漂う部室が耐えがたかったのだ。

 前部長が卒業したことで新たに部長となった海老原凛は俺の退部をすぐに認めてくれた。


「そうですか〜。残念ですけど、仕方がありませんね。次の部活、どうするんですか〜?」


「帰宅部にでも戻ろうかと」


「そうですか。……彼女の転校は悲しいことですが、どうか気を落とさないようにしてくださいね〜」


 気を落とすなというのは無理な話である。

 だが俺は「わかりました」と頷いて、料理部を後にした。




 朝起きて、学校に行って、部活をせずに帰って。

 三年生になってからというもの、穏やかとしか言いようのない日々が過ぎていった。

 ダニエラがこの世界にやって来る前までは当たり前だった、平凡で人並みな毎日が戻ってきたんだなぁと実感する。


 だというのに、気づけばダニエラの住まいだった場所に赴こうとし、隣の席に彼女の姿を探してしまう俺は、本当にダメな男だ。


 ダニエラと過ごした一年間は、全ては夢でしかなかったのだ。

 はちゃめちゃで、幸せで、時に悩ましく、楽しい――そんな夢だった。


「誠哉、帰ろ」


「ああ」


 俺には今、明希という可愛い自慢の幼馴染兼彼女がいる。

 高校の放課後、明希はアニメ部の活動を終えると、外で待っていた俺の元へと慌てて駆け出てくる。そして恋人繋ぎをして、家まで帰るのだ。


 これこそが俺の日常。

 ダニエラのことはきっと、一生忘れられないだろうと思う。もしも彼女と想いを通わせていたらどうなっていただろうなどというくだらない妄想をすることもある。


 それでも俺は、明希の彼氏として……ゆくゆくは夫として生きていくつもりだ。


 俺らしく何の特筆もない平凡な人生になるかも知れないし、思いの外山あり谷ありの人生になるかも知れない。

 それはわからないが、何があったとしても明希とならば乗り越えられる気がした。


「あ、今なんか心の中でかっこつけてたでしょ」


「バレたか」


「そりゃあわかるよ。だって私、誠哉の彼女なんだから!」


 えっへんと胸を張った明希が俺に抱きついてくる。

 俺はそんな彼女を心から愛しく思いながら、彼女に囁いた。


「……可愛い。好きだ」

「知ってる。私も誠哉のこと、大好きだよ。早く結婚したいな」


 俺たちは笑い合い、静かに互いの唇を重ねた。




〜完〜

 これにて完結です。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!!

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