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生き残ってはみたものの

「あーあ」

 最悪だった。

 乗ってる宇宙戦闘機はエンジンをやられて漂流中。

 仲間はほぼ壊滅。

 戦闘には勝ったが、このままでは漂流確定。



 一応、救難信号は出している。

 だが、それがいつ届くのか。

 届いても救助されるのか。

 救難作業も簡単にはできない。

 最悪の場合、見捨てられる事もある。



 例え救助が来るとしてもだ。

 それまで生きていられるかどうか。

 生命維持装置で生きのびられる時間は限られている。

 その間に救助される可能性は低い。



 なにせ最前線だ。

 敵がいつあらわれるか分からない。

 そんな所に危険を承知で救助が来るかどうか。

 これが貴重な戦力ならともかく、一人か二人くらいの生存者のために。

「他にも生きてるのがいればいいけど」

 生存者の数がそれなりなら救助が来る可能性もある。

 戦力確保のためにだ。

 だが、これが本当にわずかしか生き残っていなかったら。

 その為に戦力を割いてまで救助しにくるととは限らない。



 一応、軍も生存者の救出にははげんでる。

 しかし、いかんせん戦力が足りない。

 やらねばならないと分かっていても、救助にかける余裕が無い。

 敵との戦争は熾烈で、常にギリギリの戦いを強いられている。

 どうしても救助は後回しにされがちだった。



 もし救助が来るとしたら、この戦線の回復。

 その為に新たな戦力を投入した場合くらいだろう。

 そうなれば、ついでに漂流してる者も助けてくれるかもしれない。

 その可能性もかなり低いものだが。



 おそらく、この方面に投入する部隊を急いで編制してるところだろう。

 それが終わるのにどれだけ時間がかかるか。

 それこそ、生命維持装置が命をつなぐ期間より長くなる可能性がある。



 何より、編成するべき艦艇などがない。

 搭乗員の養成も間に合ってない。

 様々なものが不足してるのが現状だ。

 そんな状態でまとまった戦力を作り出せるわけがない。



「終わってんな」

 色々と考えるが、どうしても悲観的になってしまう。

 楽観的になる材料がない。

「駄目かなあ」

 それでも救助がこないかと思ってしまう。

 なんなら奇跡でも良かった、助かるなら。



 それらを全く期待出来ない以上、あとは死ぬのを待つしか無い。

 奇跡が起こればいいが、そんなものをあてにする事は出来なかった。

「あとはどうするかな」

 悩みは別の事にうつっていく。



 遭難や漂流。

 こういった場合にどうするか。

 それは軍人にとって避けてはとおれない問題だった。

 何かの拍子に度々話題にでる。



 だいたいは二つに分かれる。

 たとて絶望的でも、ギリギリまで生存にかける。

 あるいは、無理と諦めて最後の瞬間まで楽しく過ごす。



 前者は、冷凍睡眠技術を応用する。

 宇宙戦闘機にも最悪の事態を想定してこの機能が付けられている。

 これにより、長期間の生存も可能になっている。

 救助をまつ場合に用いる事を想定して。



 とはいっても、最大でも一ヶ月ほどしかもたない。

 現在、救助は期待できない。

 来るとしても一ヶ月でやってくるわけもない。

 ほとんど無意味な機能になっている。



 それくらいなら、生命維持装置の機能が停止するまで楽しく遊ぶ。

 この時代、ゲームの持ち込みくらいは簡単にできるようになっている。

 ポケットにゲーム機を入れるだけで良いのだから簡単なものだ。

 本来なら規律違反なのだが、兵士のストレス軽減のために軍も黙認している。

 そういう遊びに残った時間の全てを使う。

 その為に使うエネルギーは冷凍睡眠よりも大きい。

 当然、それほど長い時間もつわけがない。

 せいぜい数日といったところか。

 その数日を楽しく過ごす。

 どうせ助からないなら、最後は娯楽に時間を費やす。



 そのどちらが良いのか。

 こんな事で兵士は盛り上がる。

 真剣に考える。

 実際に起こりえる事だからだ。



「さて、どうすっかな」

 さすがに迷った。

 生き残る可能性なぞ無いに等しい。

 それでも僅かな可能性にかけるか。

「本当にどうしよう」

 悩んでしまう。

 絶望を前に。



 そう、絶望していた。

 絶対に助かりっこない。

 そんな状況に。

 破れかぶれになっている。

 冷静を保とうとしてるが、出来るわけがない。

 とっくにパニック────混乱してる。



 どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい…………。

 頭のなかはそれだけだ。

 助かりようのない状況で、なお助けを求めてる。

 死にたくないという一念が頭をしめている。



 それでも選ぶしかない。

 楽しく遊んで残り少ない時間を満喫するか。

 わずかな可能性にかけて、ほんの僅かでも生きながらえるか。

 あるいは、このまま悩み続けて、それこそ時間を無駄にするか。



 どれか一つにしかならない。

 迷ってる時間も惜しい。

「そうだなあ……」

 その果てに選択する。

 自分がどうするか。

 どうしたいのかを。



 それから半年後。

 戦闘によって部隊が壊滅した宇宙空域。

 そこに新たな戦力が到着した。

 かつて戦闘があった場所には、まだ残骸が残ってる。

 それらの回収がはじまる。

 残骸も貴重な資源である。

 少しでも回収して再利用されていく。



 その中に、エンジンの壊れた戦闘機があった。

 その操縦席には死体が一つ。

 戦闘による死亡ではなく、その後に漂流しながら死亡したものだった。

 冷凍睡眠による延命はしていない。

 おそらく、最後の時間を娯楽に費やしたのだろうと思われた。

 だが、操縦士の遺品からそうではない事が分かった。

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