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世界を二度救った英雄は、そろそろ成仏したい。  作者: 大団円
第一章 燃える胎児
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第一話

転生の始まりというのは、天国か地獄。どちらか両極端だ。


俺の場合、1度目は世界を救う勇者だと予言され国中から祝福を受け、2度目は貴族の妾の子として荒れ果てた土地の隅で誰にも知られずひっそりと生まれた。


そして、今回はというと、四畳半の畳と窓のない壁と木製格子。いわゆる座敷牢ってやつだ。

どうやら地獄を引いたらしい。


「あ…い……う…え、お」


試しに発声してみると、予想以上にガサガサ。喉も乾くし腹も減っている。


格子の向こうの扉から微かに漏れる弱い光だけを頼りに辺りを見回すが、恐ろしいほどなにもない。暗がりの中でぼんやりと青白い自分の手足と、ところどころ焼け焦げたような畳が見えるだけだ。


さて、ここらで一旦状況を整理しよう。


俺の名前は__正直なところ三つあるのだがややこしいので一番最初の名前を挙げよう__塩田健次。しがないサラリーマンだった。

受験戦争や就職地獄を乗り越えてやっと掴んだ会社の椅子を失い、ヤケ酒煽って、線路に横たわった。そこまでは覚えている。


ここで、冴えないかわいそうなサラリーマンの人生は終わった。が、俺の人生はまだ終わりではなかった。


目が覚めると、中世ヨーロッパ風の世界にいて勇者だなんだとゲームじみた用語をあれこれと言われていた。

普通の人間なら、なにが起こったのかどうすれば元の世界に戻れるのかと齷齪(あくせく)するだろうが、ヤケ酒食らって自暴自棄だった俺はそうはしなかった。どれだけ頑張っても報われなかった俺が、あの世界では勇者様と呼ばれてチヤホヤしてもらえた。試しにモンスターなるモノを倒してみたら、経験値ってやつを貰えて金貨も貰えた。


それからは、もう、とんとん拍子。


気がつけば魔王を倒し、国王となって、ダイナマイトボディの美女たちを侍らせていた。それからの豪遊は今から考えても目に余るが、悪を倒した勇者としてひ孫たちに囲まれて大往生するまで続いた。


が、それでもまだ終わらない。


目が覚めると、今度は荒れた土地のあばら小屋にいた。前世での行いを反省して、没落貴族の庶子としてひっそりと暮らそうと決めた。


が、どうしてだか父親と兄弟の急死によって俺が領地を治めることとなり、前世の知識をフル活用して統治してみればあれよあれよと領民が集いだした。そして、その中には何故だかとんでもなく強いヤツがいて俺に忠誠を誓っているらしく他国から攻め入る敵を叩きのめして。


とそんなこんなで荒れた土地の没落貴族は巨大で潤沢な土地持ちの貴族となり、他国の賢人たちとも協力し合って敵国を取り込み、より領地を獲得していった。

最期は家族や多くの友人、国王に至るまで隠居先に集まって、2度目……いや正確に言うならば3度目の大往生を遂げた。


ここまで長々と話したが、つまり言いたいことは、これが俺にとって3度目の転生だと言うことだ。


落ち着いてはいる。なんせ3度目だから、慣れたもんだ。しかし、疑問は湧く。


なんで、また、転生したんだ?


そもそも転生自体意味不明だが、ここまで何度も生まれ変えられても正直困る。俺は既に納得のいく大往生を遂げているのだ。そりゃ、サラリーマンの頃なら未練もあったし不満も恨み辛みもあった。2度目の転生だって、ちょっと好き勝手しすぎたからやり直せってことかなーと思った。

が、今回はどうにも納得いかない。

世界を救ったし、妻は一人。それなりに品行方正で、比較的穏やかに暮らしたはずだ。

なにが俺を転生させるのか?俺の中で思い当たる要因がない。


それに、どうやらこの世界は俺が転生してきた2つの世界と比べて随分とテイストが変わっている。

今まではドレスとかタキシードとか中世ヨーロッパ風の文明が見られたのに、今回は畳、それに今俺が着ているのは紛れもない和服だ。なんだか久しぶりの日本の風に懐かしみながらも、一抹の不安を抱く。なんだって今更?


しかし一方で、頭で考えてたってしょうがないってことも分かっている。

確実に言えることは、また転生していてそれがどうやら日本風の場所であるということのみだ。


とにかく、俺は木製格子に近づいてみる。

どうやらかなり年季が入っているらしく、ところどころ腐っていた。試しに蹴ってみると、みしっみしっと弱々しい悲鳴をたてる。これはいけるな、と何度か蹴り押してみるが、どうやらこの体の元の持ち主は貧弱と見えてあまり上手くいかない。

運動もロクにしていなかったのか、ちょっとのことなのにぜぇぜぇと息が苦しい。

よく考えてみれば、そりゃそうだ。こんな座敷牢に閉じ込められていて、肌の色や腕の細さを見る限り外へ出たこともないのだろう。こんな、畳が敷いてあるだけの場所にずっといたのか。この体の持ち主を俺は微塵も知らないが、それでも同情してしまう。体に目立つ傷がないのが幸いだ。


と、ここで格子の向こうの光が動き、扉が鈍い音を立ててゆっくりと開かれた。

誰か来たのだ!


俺はなす術などなく、じっと向こうから現れる何者かを見つめていた。

人一人分の隙間ができると扉は止まり、そこから頭一つが飛び出してきた。逆光で顔は見えないが、ぎょろぎょろと眼球が動いているのが分かる。目を慣らしているのかどうかは知らないが、少しすると俺を認知したらしく扉が大きく開かれた。


「見つけた」


その4文字に地下の空気が揺らぐ。


「迂囘仙里くん、だね?」


奴は入り口を潜るようにして地下へと降りると、座敷牢に動揺することなくつかつかと此方へ歩み寄る。杖をついているようだが、どうにも足運びは健常だ。


「私は、赤ヶ羽という。君のお父様からご連絡いただいて伺ったんだが……どうやら遅かったらしい」


正直、何がなんだか分からない。

というか、この赤ヶ羽とかいう男は一体何者なんだ。こっちが混乱してる間、勝手に会話を先々進めるなよ。


どうやら、俺の名前を知っているようだが、会話の内容からしてお互い初対面だということはわかる。なんせ転生したてなもんで、この世界に対する知識が皆無に等しいのだ。いきなり声をかけられても、どうにもできない。


相手は黙りこみぶつぶつと何やら独り言を唱えた後、再び此方を向いた。


「で、君。実のところ転生は何回目かね?」


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