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第3話

こんにちは。

 とうとう出発の日の朝となった。俺は出発まで時間の余裕があることを確認し、自分の部屋の椅子に、なにをするでもなく腰かけていた。無理な任務を押し付けられた憂鬱と久しぶりに外に出られることを喜んでいる自分がいる。落ち着かないので俺は立ち上がって、少し早いがもう出発することにした。俺は古びた革の鞄を肩にかけ、どこにでも売っているような安物の剣を腰に差す。忘れ物がないか今一度確認し、自分の部屋をぐるりと見渡した。よし、と頷き俺はドアを開けた。

 


 出発に向けてマスリの外に通じる門へ俺は足を進めた。門では行商人や観光客など、早朝であるにも関わらず活気を見せていた。王の話では、出発前に使者から詳しい説明があるとのことだった。この辺りにその使者はいるはずなのだが、と俺が辺りを見回していると1人の男が声をかけてきた。



「初めまして、オルク様。私は国王陛下の使いの者でケントと申します。」



とても王城の者とは思えないようなその質素な風貌の男は、やけに丁寧な仕草をするので少々違和感があった。だが、この男が使者ということで間違いはなさそうだ。まあ、あからさまの格好をしていたら注目の的だろうからこのような変装をしているのだろう。 



「初めまして、ケント様。任務の詳しい説明をしていただけるそうですが。」



「ええ、その通りです。と言っても私はこれをオルク様に渡せば、ほぼほぼ仕事は完了ですが。」



そう言って、ケントは安そうなコートのポケットから小さな箱を取り出し、それを俺に手渡した。箱を開けてみるとその中には、、、。ん?なんだこれ?俺の親指ぐらいの大きさの機械の側面に、小さい球、乳首のようなものがついている。



「なんですかこれは?」



たまらず俺が質問するとケントは、



「それは、無線機です。遠く離れた場所にいる人間同士でも、お互いにそれを持っていれば会話ができます。その乳首のような部分を耳に入れれば相手の声が聞こえます。」



遠く離れていても会話が出来るだと?一体どういう仕組みなのだ?あ、そういえば聞いたことがある。念話という概念を。魔法を極めた者は声を発さなくとも、魔法で人間の鼓膜を揺らすことによって自分の声を届かせることができると。ていうか地味にケントさん乳首って言ったね。



「いわゆる念話というものの応用でしょうか?」



「ほう、念話をご存知でしたか。ええ、その通りです。これは念話が使えない人間同士の会話や、念話では到底届かない距離での会話を可能とするためのものです。まあ、念話と違って声を出さなければいけませんがね。」



ごく一握りの魔法使いしか使えない技術をこんな小さな機械に詰め込むことが可能なのか?と俺は少々疑ってはいたが、たとえこの機械がポンコツだろうとあまり関係ない。結局は自分の判断で行動するのだし、とやかく外野から文句は言われたくない。俺の監視が目的なのだろうから報告さえ怠らなければお咎めはないはずだ。



「任務の詳細や勇者パーティーの現状などの情報は、今回あなたのパートナーとなる方がおりますので、その機械を通してお聞きください。」



「しっかりお目付役がいるわけだな。」



と俺は苦笑する。ケントは少し微笑んだ。否定も肯定もしないようだ。

 


 これからの旅に際しては、王城から馬車が貸し出されるそうだ。外装は木材と固い布で作られた安物のようであるが、内装はクッションや物置が充実しており非常に快適に旅をおくれそうだ。エリカを護送するためにここまで贅沢な造りになっているのだろう。まあ、俺は御者として馬を引かないといけないのでこの快適な内装を楽しみながら旅は出来ないがな。宿が見つからない日はこの馬車の中で寝るぐらいのことはできそうだ。

 


 俺が馬車の様子をじっくり観察していると、



「私もオルク様と共に行きたいと志願した者の1人ではあるのですが、上の許可は得られませんでした。どうかオルク様が無事に帰ってこられるよう願っております。」



とケントは心配そうに俺を見つめながら言った。ケントが王国でどのような立場かははかりかねるが、まともな人なんだろう。今はお世辞にも治安が良い世の中とは言えない。このカールウッドもそうだ。最近は凶悪な事件も起こってきている。そんな中、1人で外に出るのが危険なのは一目瞭然だ。まあでもこれから行くのは少なくともここよりは田舎だ。滅多に犯罪に巻き込まれることなんてないだろうから気楽にいこう。

 


 俺はケントとの挨拶もほどほどにして早速馬車を走らせ、マスリの外へと出た。長い年月をマスリで過ごすうちに俺は色んな人間を見た。権力や財を求めて犯罪に手を染める者達、王国の平和になど微塵も興味のない騎士達、人の血を見るのが何よりも好きな者。このまま俺も汚れていくのだと思っていた。人を助けるのもあくまで打算になってしまうのだと。

 


 しかし、マスリの外の光景は一片の汚れもないように美しく、広大で、俺は目を見張った。

 


 「なんて綺麗なんだ。昔はただの一本道だと思っていた行路だけど、周りには腰の低い草原、遠くには大きな山々が見える。すれ違う人々は生き生きとしている。」



俺はあまりに壮大な景色を目にして、思わずそう呟いていた。そうか、心が荒んでしまったからこそ、昔はなんとも思っていなかった景色が美しく見えたのか。この旅はきっと良いものになる。ずっとその場で足踏みしているような人生だったけど、ようやく進み出せる。さあ、行こう!!俺の明るい未来へ!!









 あ、そういえば定食屋のエリーゼさんへのラブレター(ポエム付き)を住んでいた家に置き忘れてしまったな。部屋に残した物はマルコに預かってもらう手筈になっているが、まああいつなら読まずに保管しておいてくれるよな。

 


 俺はそんなことを思いながら、騎士学生時代に好きだった女子の鎧を俺がクンカクンカしているのを、マルコが周りに言いふらしたのを思い出した。

 

学生時代、女の子から、最近辛くて生きる理由もないと相談を受けました。

僕は大変だと思い、どうにか元気付けようと色々思索しました。

体を動かせば気分も良くなりそうなので

「踊ればいいじゃないか!」

と彼女の前でスマホで音楽をかけて踊る僕。

彼女は、涙を浮かべながら笑って

「何それ、変なの。」

と言いました。

それから彼女はすっかり元気になったようで、それはもう満面の笑みで僕を見ていました。

だから僕は、

「何ぼーっと見てるのさ、君も踊ろうよ。」

と彼女を誘うも、

「えー、でも、恥ずかしいし…」

と渋って、踊ろうとしません。

「だけど、家なら…恥ずかしくないかな。」

と彼女は頬を赤らめながら言うので、

「そうか、じゃあもう大丈夫だな。俺は帰るぜ。」

僕はそう言って、夜道を踊りながら帰りました。

夜中にいきなり公園に呼ばれてやや不機嫌な僕でしたが、女の子を救い、ダンスの楽しさを知れたので満足でした。



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