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王と魔王と紅い心臓  作者: 雪夜群青
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混沌の序章

更新が遅い割に文字数が少ないのが私の持ち味だ

……などと言ってはいけませんね。


申し訳ありません。


ゆっくりのんびりと、気長に読んでいただければ幸いです。

 その日は、トキの人生において最も混乱した一日となった。


 本当ならば今頃は、魔王を特製の檻に入れ、彼の戦闘能力を確認するための実験にかけているはずなのに。……実際は、自分が檻に入れられる心配をするはめになっている。




「良い眺めだな」


 本来は自分が座るはずの椅子の上で、魔王は上機嫌である。


「余が眠る地の上に王城を建てていたとはな。お陰であの場所から城まで行く手間が省けた」


 相も変わらずトキの首に手をかけたまま、かれは言う。


 魔王の名は「マガイ」と言うらしい。たった今、知ったことだ。思えば、自分は魔王のことをほとんど知らなかった。知っていたことと言えば、人語を解する唯一の魔物であること、街ひとつをひとりで壊滅させる強者であること、そして、聖剣以外では倒せないことくらいのものである。


(そもそも、こんなよく分からないものを利用しようとするのが間違いだったんだ)


 今さらではあるが、トキは後悔した。一部の重臣達の意見に乗せられるべきではなかった、と。




「こちらの書類で、王権の譲渡が完了いたします」


 宰相のストラが、(うやうや)しくマガイに(ひざまず)きながら、一枚の紙を手渡す。


「うむ」


 マガイは紙を受けとると、目を見開いた。


「妙な文法だな。口語のようだ」


「あなたが眠りにお()きになってから千年もの時が流れておりますから、文法も変わっているのです」


 ストラはそう言って、いかにも好々爺といった(おもむき)の顔に微笑みを浮かべた。


「なるほど」


 マガイが書類に目を落とすと、その隙にストラがトキの方をちらっと見る。気遣わしげなその目に、トキは視線だけで「大丈夫だ」と返した。

 実のところ、何が大丈夫なのか自分でも分からないが。



「ところで、そこの者」


 しばらく黙り込んでいたマガイが、突然口を開いた。その細く白い指が、部屋の左右の壁に沿って並ぶ家臣達の一人を指す。それは、将軍のヘイゲイだった。


「その聖剣で余を刺すか?無駄なことはやめるが良い。先程から見ていて良く分かったが、人間はやはり弱い。動きは鈍く、力も弱い。余に気付かれずに剣を抜くことすら出来ないではないか」


 ヘイゲイは虎のような鋭い(まなこ)を悔しそうに歪めると、抜きかけた聖剣を鞘に納め、白髪混じりの頭を下げた。


「大口を叩く割に、他愛ない人間共だ。そう分かっているからこそ、余は聖剣をお前に渡した。そのことをゆめ忘れるな」


「……はっ」


 ヘイゲイは少し間を置いて返事をする。本当は返事などしたくないのだろうと、傍目からもよく分かった。


(ヘイゲイが殺される)


 トキは身を固くした。トキのように考えた者は他にも多くいるようで、顔を青くしてマガイの顔を見た者も何人かいた。しかし、マガイは興味を失ったようにヘイゲイから目をそらし、再び手元の紙を読み始めた。



「ああ、そうだ」


 マガイがまたもや唐突に喋り始め、トキはびくりと震えた。


「こやつは余の話し相手とする」


 そう言うとマガイは、トキの首を掴んだ手をぐいと引き寄せた。その腕の細さに似合わぬ力に、トキはよろめいた。マガイはぐるりと家臣達を見回すと、美しいのにどこか気味の悪い笑顔を見せた。


「意外な処置だと思ったか?まあ、余はそう愚かでもないからな。こやつが少なからぬ重臣に敬意や忠誠を向けられていることくらいは理解している。こやつを殺せばお前達が離反しやすくなってしまうであろう。それは余の本意ではない」


「左様でございますか」


 マガイに最も近い場所にいたストラが、深く頭を下げる。その声に安堵のため息が紛れていることをトキは感じ取っていた。


 トキは横目でマガイを見た。マガイの手で首が固定されているため、目だけを動かして見る他ない。すると、マガイと目が合った。愉快そうに口角をつり上げたマガイは、トキの耳元に顔を寄せてささやいた。


「トキとやら。この国はまだ、お前を王として見ている。―――いずれ、その地位を真の意味で奪い取ってやろう」


トキは反射的にマガイを睨み付けた。マガイはくっくっと笑った。





 王と魔王が出会ったこの日。それは、ネム王国史上最悪の混沌―――その、ほんの序章に過ぎなかった。

登場人物に変な名前が多いのは、私の名付けかたのせいです。

例えば、


(魔王を)解き放つ→トキ

苦労人→クロウ

地味→エキストラ→ストラ


…といった感じで名前をつけています。


ちなみに、「クロウ」は初期設定では「クロ」だったのですが、銀髪なのに「クロ」はないだろうと思ったため現在の名前になりました。

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