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5 Mea culpa, mea culpa, mea maxima culpa.

 

 

 少年から手に入れた情報をまとめると。

 長い黒髪の人が商人に追われたこいつを助けてくれたらしい。

 触れるだけで大男を転がしたらしい。毒が何とかとか解毒がなんとか言ってたからその人は毒を用いていたらしい。

 発砲し手下を撃ち殺した商人が、その人の血に触れたら苦しみ出して……死んだらしい。

 

 間近で見たその人は、紫色の目をしていたとか。

 その外見から騒動を起こしたのはリフルで間違いないだろう。

 駆けつけたあの熱血十字兵の登場により、犯人らしく走り去ったとか。

 

 総合すると、リフルがはっちゃけたけど、居場所はわからない。終わり。

 

「使えねぇなお前……」

 

 俺の率直な感想から出た溜息に、タロック人の少年は怒鳴る。

 

「うっさい!大体……あんただって似たようなもんだろ!」

「いーじゃねーか。俺があいつを見失ったおかげで奴隷抜けできて、俺の機転とポケットマネーのおかげで命拾いできたんだから」

 

 少しは感謝してくれてもいいんじゃないか。そう思わないでもない。

 溜息ながら歩き出した俺に、少年の驚いた声が届く。

 

「ど、何処行くんだよ!?」

「迷子探しに行くんだよ」

 

 西側にいるらしいことがわかっただけでも儲けものだと思うしかない。

 東側に行ったらそれこそ、鴨が葱を背負ってくるようなものだから。

 それに比べれば西はまだ安心だ。いかがわしい店も多いし柄の悪い破落戸はそれなりにいるが、暗くなっても人通りはそれなりにあるし、夜市もある。

 教会は東口。このガキを教会に預けるのはまた今度だ。

 

「教会には明日でも連れてってやるからぼさっとすんな」

 

 置いて行かれたいのか。

 そう告げると、少年の目が大きく開いた。

 

「俺も、行って良いの?」

 

 何を言ってるんだこいつは。そんな目で子供を見ると、彼は良い意味で同じ目をしていた。

 何言ってるんだこの人。そんな顔。

 

「情報の礼に飯と寝床くらい用意してやるから、さっさと来い」

 

 そう言うと、子供は小さく頷いた。TORAに行くのはこいつをディジットに預けてからにでもしよう。でないといろいろと面倒くさい。

 話を聞く限りでは……なんだかあいつは大丈夫そうだ。あんな外見のせいでついつい心配しすぎたが、あれは連続殺人犯という立派……かどうかはわからない称号を保っているのだ。気にしすぎた。同じ顔、同じ街……それが俺の不安を煽っただけだ。

  

「んじゃ、行くか」

 

 手頃な足場を踏み台に、屋根へと登ってから気付く。

 しまった。子供じゃ登れないか。一度降りようと思ったとき、俺を真似した子供が屋根へと現れる。

 

「お、凄いなお前」

 

 がなるかぐずるだけの唯の子供かと思っていた分、見直した。

 初めてだろうに、屋根を走るスピードもなかなかのもの。屋根の間も一人で飛び越せる。リフルとは比べものにならない運動神経の持ち主だ。 

 

「なんで、屋根?」

「あいつと同じ事聞くんだな」

 

 本日二度目の素朴な疑問に、俺は苦笑させられた。

 

 

 5

 Mea culpa, mea culpa, mea maxima culpa.

 

 

 俺はどうしたんだったか。

 確かあのガキをディジットの預けて、TORA事務所まで走り、情報検索をしたが見つからなくて。トーラに出会すこともなくて。

 そのまま街を探し回ったんだったよな。

 

 それなのに、なんだこれは。

 

 ぐるぐると頭の中を回る言葉達。

  しかし、何を言えばいいだろう。

 目にした光景に、俺は開いた口がふさがらない。

 

 じっとこっち見る目。なんでお前がいるんだ。

 そう言いそうになったが、気まずさを含んだ瞳に俺は言葉を見失う。

 

 そんなリフルの横にいるのはあの腐れ闇医者。

 つか洛叉、地下室に帰れ。

 なんであいつの隣の席で嫌味なくらい自然にキザ格好つけたポーズで酒呷ってるやがるんだ。

 しかもそこ俺のお気に入りの椅子!

 ディジットに一番近い激戦区の特等席だってのに。

 あーでもどうせディジットが「先生こちらにどうぞ」とか自分から勧めたに違いないと分かり易いイメージが頭に浮かび、俺は溜息をつく。

 

「何つったってんの?邪魔。営業妨害なら止めてよね」

 

 容赦ないディジットの言葉。

 それにしてもディジット、相変わらず俺には冷たい。

 

「……お帰り」

 

 散々駆けずり回って、それでも見つからなくて、落胆しながら帰ってきた俺にかけられる、暖かい?出迎えの言葉。

 俺の目尻に浮かんだ涙は感動からか?

 シュチエーションとしてはありだろうが、何故か虚しい。

 安堵と共に一日の疲れが一気に押し寄せてきた、疲労と徒労の涙だと思う。

 

 第一探してた人物が、普通にここにいるなんて思わないだろ。

 しかしそう言われたら最後、他に言うべき言葉を思いつけなかった。

 

「…………ただいま」

 

「あ、アスカのツケでこの子に食べされてたから」

「ガキャあ!てめー何寛いでんだ?ぁあ?」 

 

 手渡された伝票に、俺の怒りはそっちに向いた。

 

「だって、飯おごってくれるって言っただろ?」

「限度ってモノがあるだろ、何人前喰ってんだ!」

「だって、美味かったし……こんなの食べるのいつ以来かって」

 

 そう言えば、こいつは今日まで奴隷だったんだ。それを言われると弱い。

 つかなんだこの空気は。みんなして俺が悪人みたいな目で見やがって。

 洛叉のアホなんか「これだから飛鳥は」みたいな顔でやれやれとか溜息付いてやがる。俺が一体お前に何をした!迷惑かけたか?

 謂われのない嫌味に、怒りの矛先は子供から洛叉へそのままスライド。

 

「ま、……男に二言はないから好きなだけ喰え」

「お姉さん、これとこれとこれ!追加で!」

 

 俺の言葉に少年は、にやりと笑う。計算ずくか?このガキ……まぁ、金はあの婆さんから寄越されたし。困ってないから構わないが。

 

「俺も何か頼むか……何にすっかな……ん?」

 

 リフルの前には透明な硝子のコップ。

 この店が誇る三大サービス品。

 プライスレスその1・水道水。

 リフルは健気にも、何も食べていないことが一目瞭然。

 ちなみに後の二つはその2・プライスレスのスマイルと、その3・500シエルのワンコインのわりに絶品な格安日替わりランチだったりするんだが。っていまはそんなことより……

 

「何か喰えよお前も」


 見慣れたメニューを手渡してやると、さっと避けられる。

 体質からなる癖なのだとわかるが、これやられるとなんか傷付く。 

 

「そうそう、この子にもどうせアスカが払ってくれるっていったんだけどアスカが帰ってくるまで待つって聞かなくてね〜こんな可愛い子、どこで拾ってきたんだか」

 

 隅に置けないわねと笑うディジットは遠回しに俺を振っているようだ。いや、わかってたことだが。

 

「そんなんじゃねぇって」

「またまた〜!応援してあげるから頑張りなさいよ」

 

 ようやく誘拐疑惑が晴れたらしい。いや、だからって応援されてもどうしようもない話だ。

 リフルがあの人なら、そもそもあり得ない。俺にそんな趣味はないし、血迷ったとしても切腹か打ち首か火炙りで処刑されるだろう。そんな恐ろしいこと出来るか。

 もし別人の普通の女の子だとしても……そっくりすぎてそういう対象には出来ない。どちらにしてもあり得ない。

 

「アスカは唯の、私の主だ」

 

 それ以上でも以下でもない。その声はそう言っているようで。

 なぜだろう。逆に俺が振られた気分だ。

 とか思っている内に、酒場の空気が重くなる。

 

「アスカさん……」

「アスカあんたまさか……私に袖にしたせいで、奴隷に手を染めたの!?」

「くくくっ……」

 

 ディジットは疑惑とちょっとの罪悪感の眼差し。つか自覚あったのか。って誘拐疑惑の次は奴隷購入疑惑ってどんだけ信用無いんだ俺。

 双子は嫌悪と侮蔑。アルムは脅え、エルムはゴ虫を見るような目で俺を見る。

 腐れ医者は恍惚の笑顔。俺の立場が悪くなればなるほどこいつは気分が良いらしい。一発殴ってやりたい。

 

 酒場の客達はそんな俺達の様子を笑って見ている。リフルの突然の問題発言に吹き出した客もいるようだ。

 そんな周りの様子にも気付かず、手をわなわなと震わせているリフル。

 

「奴隷が主の許しを得ずに接伴に預かろうなど……」

 

 こいつ、奴隷を嫌がっているくせに……変なところで奴隷意識がバリバリに働いている。奴隷人生で培われた劣等感のプライドのせいらしい。

 

「お前は奴隷なんかじゃない」

 

 そう言ってやると、紫の目がこっちを見上げた。

 

「じゃあ私は何なんだ?」

「……人間だろ」

 

 飲み込んだ言葉は二つ。

 本当に言いたい言葉は言えないまま、リフルの望んでいる答えを紡ぐ。

 こいつは否定され、否定することに慣れた。それでも反感は抱く。そりゃそうだ。誰だって、肯定されたいんだ。

 それがこいつの望みなら。俺はどんなことでも肯定しよう。

 

「混血でも、毒人間でも、殺人鬼でも……私は人間なのか?」

 

 勿論……そう言いかけた時だった。

 リフルの言葉に飛びつく馬鹿が居た。多分、物々しい肩書きに心が躍ってしまったのだろう。

 ゆらりと立ち上がったのは、タロック人風の男……ロイルだ。

 

「あんた、強いんだ?」


 リフルをじっと見つめる視線。洛叉とは違う意味で危険な光を宿している。

 

「ちょっとロイル!喧嘩なら外でやってよね」

 

 店を壊したら承知しないと声を荒げるディジットに、頭を下げる金髪の女。

 カーネフェル人のリィナだ。

 二人は確か派遣契約請負組織。

 何処にも属さず他の請負組織から仕事を引き受けている下請け組織だ。傭兵のような仕事も多いらしく、二人ともそれなりに腕は立つ。何度か俺も仕事を手伝って貰ったことがあったがらそれもわかる。

 

 ついでにロイルのこの傍迷惑な戦闘愛好心も。 

 この戦闘マニア精神のおかげで成果が上がったり足を引っ張られたり。

 要は風向きが大事ってことだな。

 

 そんな相方の騒動に巻き込まれながら、品性温厚なリィナは、相方の素行の悪さを時に窘め、時に叱り、時に力で黙らせる。基本的には優しい女の子だ。セネトレアには相応しくないような……そんな人。


「すみませんディジットさん。ロイル、女の子相手に剣を向けるなんて良くないことですよ」

 

 二本の大太刀を今にも抜刀しそうなロイルをたしなめるリィナ。しかしこれまた迷惑なスイッチが起動してしまったらしい彼を止めるのは難しい。

 

「強いに女も男もねぇって!奴隷も混血も関係ねぇ!」

 

 そういう差別意識のないところは立派だが、こいつの場合動機が不純すぎるからあまり褒める気がしない。

  

「ちょっと待てロイル。こいつと手合わせしたいんなら、まず俺が相手になってやる」

 

 くすりと微笑むリィナ。どうやらロイルを止める気はないらしい。

 

「アスカさん、その子のお父さんみたいですね」

 

 リィナの何気ない一言に、俺は息を呑む。

 心なしか、リフルの表情も硬い。

 嫌……だったのかもしれない。

 ってなんで俺が落ち込まないといけないんだ。

 

「は!面白れぇ!本気出せよ?手ぇ抜いたらぶっ殺す!」

「手を抜いたこれにいつも負けているようだが」

「確かにねぇ……卑怯っていうか姑息よねあんた」

 

 ディジットと洛叉の辛口コメント。

 それに俺とロイルは言い訳めいた言葉を零す。

 

「だって、こいつ回りくどいんだもんよぅ」

「手を抜いてるんじゃない。頭を使ってるんだ俺は」

 

 ロイルは猪突猛進。分かり易いがゴリ押しのパワーファイター。先読みできても力負けした時点でこっちの負けだ。

 俺はこいつほど力はない。まともに相手をしたら勝てる勝てない以前に、まず俺の剣が破壊されていざこざの度に武具通りに通い詰める羽目になってしまうだろう。だからいつもは適当に相手をしているんだが……

 

「いいぜ、今日の俺は機嫌が悪いんだ。手加減出来ると思うなよ」

 

 

 * 

 

 

「アスカの阿呆……くそっ、またやられた」

  

 酒場前の通路に倒れ込み、悔しげに呻くロイルに俺はほくそ笑む。

 ロイルは例の如く、俺の騙し討ちにまんまとかかってくれた。

 

「だからいつも言ってるだろ、勝負は剣を合わせる以前に始まってるんだってな」

 

 機嫌悪いのは本当だったが、本気を出すというのは嘘。

 仕事の関係上、本気を見せたことが何度かはあっただろうか。

 その時使った本気用の剣を抜いたことで、俺が本気で行くと信じて疑わないあたり、こいつも可愛いところがあると思う。

 

 正面からの斬り合い、最初の内こそ力を入れて刃を合わせる。向こうがもう一押し、って時にあっさり手を得物から放す。

 足を狙い、転ばせて、隠し持っていたナイフを突き付けて、はい終了。

 

「勝ちは勝ちだろ。男に二言はねぇよなロイル?」

「くそっ!」

 

 しかし見事に引っかかって貰っても、ないとは言わないが嬉しさや喜びと言った感情より、あっけなさや物足りなさ、更には後味の悪さが強い。

 このまま放置しては、同じ理由でまた突っかかってくるだろう。

 だから俺はロイルに良いことを教えてやった。

 

「大体確かにこいつは強いけどな、強いって言ってもお前の求めるベクトルとは真逆だぞ?こいつの騙し討ちの実力は、俺を遙かに上回るぜ」

「んだよ、そう言うことは早く言え!」

 

 今更な俺の答えに、吠えるロイル。

 それに背を向けて酒場に戻ると、苦笑しながら外に出て行くリィナの姿。

 後は彼女に任せて俺は飯にありつこう。

 ……まぁ、店の前だし声は聞こえるんだがな。

 

「ロイル、負けは負けです、それに貴方が聞く耳を持たなかったんじゃないですか」

「うぐ……きついぜリィナ」

「いつものことです」

「まぁ……だな」

「第一アスカさんが、敵でもない貴方に本気で斬りかかってくるはずがないでしょう?」

「そうなのか?じゃ、敵になれば本気出すのか?」

 

 俺への確認か、リィナへの質問か。

 後味の悪さを払拭するため、俺はロイルに言葉を返した。

 

「やり合いたくねぇなぁ……お前とは」

 

 呟いた声は聞こえていたようだ。その俺の言葉を、奴なりに解釈した結果。

 

「よっしゃ!勝ったぜリィナ!」

 

 なんでかそういうことになったらしい。

 しかし冷静な状況判断を下したリィナに一蹴される。

 

「今のは言葉のあやでしょう」

「…………ちぇっ」

 

 ふて腐れるロイル。これでロイルのがリィナより年上だって言うから信じられない。ついでにこいつが俺と同い年かと思うと頭が痛い。

 

 カウンターを見るとリフルは水オンリー。まだ何も食べていないようだ。

 さっさと終わらせて正解だった。いつまでもロイルと遊んでたらこいつが可哀想過ぎた。

 

 こいつに金は渡してなかったから昼は……食べてないだろうし、朝食べたっきりだろう。

 なんだか泣けてきた。

 

 俺がオーダーを頼むと、ようやくリフルも注文をし……ない。

 

「食べたいの、ないのか?」

「……わからない」


「ああ、そうだったな」


 こいつは世間に疎い。奴隷根性で出されたモノはきっと何でも食べるだろうが……好きな食べ物とか、ないんだろうか?

 そう思った俺は聞いてみる。

 

「他の奴が食べてるのとか気になったのないか?」

「あれ」

 

 リフルが指さすのは所謂ゲテモノ料理だ。誰かが酒のつまみに外から持ち込んだ物らしい。

 

「気になるってそう言う意味じゃなくてだな……」

 

 確かに気になるが。あれ、何かの干した足のはずなのに。

 どうみても動いてるような気がするんだよなぁ。

 なんだろう、あれは。って、そうじゃないだろ。


 リフルの頭を掴み、視線の方向を無理矢理その足から逸らさせる。

 今はメニュー一択。そこんとこよろしく。

 

「はずれはないって保証するから、名前とか勘とか思いつきで選んでみろ」

 

 そう言うとやっと注文をしてくれた。適当に目に留まった物をチョイスしたようだ。

 やっと落ち着けた様な気がして、俺はあることに気付く。

 リフルは俺が買った服ではなく、また女物の服に戻っていた。今朝のドレスとも違う。あれより大分落ち着いた、それでも可愛らしい服だった。

 

「そういや、その服どうしたんだ?似合ってるけど」

 

 ロイルとのいざこざの前はどうだっただろう。思い返してみて真っ先に思い浮かんだのは銀色と紫。

 さっきも髪も目も隠していなかったからたぶん同じだったと思う。

 ここは裏通りの割に客質が悪くないのが助かる。

 奴隷商嫌いのディジットのおかげでそういうヤマに関わる客がいないせいもある。

 混血に対する偏見が酷いセネトレアにおいて、混血のアルムとエルムが割とフリーダムに過ごせているのもそのせいだろう。

 俺の今更過ぎる服装評論に、ディジットは口を尖らせる。

 

「アスカ今更気付いたわけ?」

 

 見損なったとでも言いたげなディジットの声。

 

「アスカいつ帰ってくるかわからないし、先にお風呂でもと思ったんだけど。うちのアルムとエルムのじゃ、ちょっと小さいし私のじゃ大きいし……と思ったら先生が貸してくれたよ、優しいわよね先生ったら」

 

 続いた言葉にはそれに引き替えという前置詞がありそうだった。

 って今なんだって?

 先生が?

 貸した?何を?服?

 

「地下に帰れ!土に帰れ!もしくは表に出ろ変態!」

 

 何でお前がそんな服を持っている。

 どう見ても女物だろそれ。

 サイズ的に明らかにお前用じゃないよな。

 待て、そもそも女装とかしねぇよな。してたら引くが、しないでそんなの持ってる方が危ない。

 

「勘違いするな」

「良いぜ、弁解してみせろよ!洛叉先生よぉ!!」

「お前は今朝、私にこの子と会わせたな?」

 

 頷く俺に、真剣な眼差しで医者は言う。

 

「その時に思ったのだ。この色には……白系が映えると」

 

 一瞬、時が止まった。そんな気がした。

 まったく答えになっていない返答。

 こいつはなにが言いたいんだろう。

  

 ふ、完璧だ。そう言いながら妙に熱っぽい眼差しをリフルに注ぐ洛叉。何かのスイッチがオンになっているようだ。

 その様子に俺は再び、表に出ろと言いそうになったが……

 

「……ってなんだ、悪いな。お前自ら買って来てくれたのか」

「ああ。白により銀色が引き立つ……しかし黒系もなかなかべーシックで似合う。紫系統なら文句なしに合うが、青と赤……この辺りも紫の中に含まれる故、挑戦させてみたらなかなかの出来。つい買い込みすぎてしまったな。それでもやはり純白の白は捨てがたい………こう無垢な色が堪らない。私の見立ては最高だ」

 

 見れば、奴の足下には大きな紙袋が五、六個転がっていた。

 そう言えば、アルムとエルムにも時々服やら貢いでるよなこいつ。

 そう思って安堵しかけた俺の手に、すかさず奴は何かを握らせる。

 

「わざわざ市まで行った。これが領収書だ」

 

 並ぶ金額。零何個あるんだこれ。

 何で俺の場合俺持ち?純粋な好意と善意じゃねぇよなこれ!純粋なる悪意だよなぁ?!嫌がらせ以外の何物ではないぞこれ!

 こいつが着るとなんでも値段より高価そうに見える気がするとか思ったのは気のせいではなかったようだ。実際かなり高価だ。

 

「ますます表に出ろっ!てめぇ何処で買ってきた!嗜好品通りか!?嗜好品通りなんだな!確かに似合ってるけどな!可愛いけどな!表出ろ!」

 

 賞金の一部が飛んだぞ、一瞬で!

 

「仕方ないわよアスカ、先生は混血好きなんだもの」

 

 確かにこいつの混血好きは今に始まったことではないけれども。

 

「心広すぎるだろディジット!!こんな奴の何処が良いんだよ……」

「それは顔だろう」

「自分で言うな!」

 

「こういうお茶目なところかしら」

 

 俺が女でも、絶対に洛叉には惚れないとここで断言しておく。ディジットは男の趣味悪過ぎる。

 

「……お前があれ、運んだのか?」

「馬鹿を言うな。私がそんなことをするはずがないだろう。宅配請負組織を使ったに決まっている。無論高級馬車だ」

 

 なるほど。

 このぼったくり金額の温床その1・送料ってそれか。

 怒鳴りすぎて喉が痛い。そう思った俺の前に水を差し出す天使が一人。

 

「アスカさん、疲れないですか?」

 

 気を遣って水を持ってきてくれたのはエルムだった。こうして人並の扱いをして貰えるとなんだか涙が出そうだ。きっと奴隷もこういう気分なんだろうな。

 ちらりと横目であの子供の方を見ると、まだ料理を食っていた。

 確かにディジットの料理は文句なしに美味いが、胃袋の方は大丈夫なのか?

 

「腹、大丈夫か?そんなに一気に喰ったらいくら何でも……」

「う、言われてみれば……なんか気分悪ぃ」

 

 ほれみろ、だから言ったのに。

 

「あんたが余計なこと言ったせいで、腹痛くなったじゃねぇかよ……」

 

 言われる前に気付け。

 つか、俺のせいかそれ。

 

「あー……ったく」

 

 もう数えるのも飽きた溜息、今日何度目だろう。

 俺と少年のやりとりに、酒場の連中が笑う。

 何やってんだか、俺は。

 あまりの馬鹿馬鹿しさに俺はもう笑うしかない。

 

そんな俺を見て、つられたようにリフルも笑う。

 笑うタイミングが解らなかったのかもしれない。きっかけを得たリフルはしばらくそのまま微笑んでいた。

 そんな姿を見て、この馬鹿馬鹿しさも悪くない。そんな気がした。

基本的にセネトレア編は変態か変人しか出てきません(きっぱり)。

リフルはドMかつドS、アスカはブラコンマザコン主コン。洛叉はもう混血(と書いてロリショタと読ませる)しか愛せない。いずれ違う章で出てくる敵も変態しかいないと思います。まともそうに見えても騙されないでください、最終的にほぼ変人と化しますから(いらん保証付き)。まともな人ほ悪魔の絵本の世界の中では精神的に辛いです。身内や親友とも殺し合うようにし向けられる世界ですから。こうなったらもう変態になるしかないよね(止めろ)。


というわけで酒場仲間ロイル&リィナ。彼らは傭兵のような仕事をしている請負組織です。アスカも時々彼らと仕事を共にしているため、それなりに仲が良いようです。


ちなみにロイルは王を意味するRoi(仏語)とEl(西語)を合わせて適当に発音してみて作った名前です。リィナも同様に、女王を意味するReine(仏)Regina(伊)Reina(西)を見て、合わせて省いて作った名前。こんな感じで騎士や小姓から造語キャラを作ってます。


トーラ嬢はライダーウエイト版の女教皇のカードが持っている書物TORAから。資料として購入したライダー版、文献を読みあさっている内にカード一枚一枚の深い意味と魅力にやられてしまい、悪魔の絵本を書く上で参考にするのはライダー版の他には考えられなくなってきました。パメラさん(ライダー版の画家の方)、愛してる!

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