魔法
[娘娘亭]
ギルドで教えて貰った飯屋みたいな宿屋に到着。
1階の飯屋が、メインらしい。
『いらっしゃい』
恰幅のいいおばちゃんが迎えてくれた。
あまり愛想は、良くない。
日本のサービスが特別なんだと思う。
「宿泊で、できれば朝風呂浴びたいんだけど。」
『小銀貨6枚、水代は別。』
とりあえず10日分、銀貨6枚を払う。
二階の鍵を渡され、部屋に入る。
部屋の中に、木製の割と大きい風呂があった。
特に壁で、仕切られてないから、目につく。
ベット、小さい机、風呂桶。
ざっと確認すると、排水口はあるけど、蛇口は見当たらない。
傍らにある小さいバケツが、存在感を放っている。
この風呂に水を満たすためには、いったい何往復させる気なのか?見栄はって大きい風呂とか、なに考えているんだ!しかも2階ですよ、この部屋。
奴隷とかに半日かけて、運ばせるんだろうか?
セルフなら諦めよう。
異世界怖い。
コンコン
ドアをノックされた。
「どうぞ」
猫耳の少女が入ってきた。つなぎを着て小さなバケツを持った活力に溢れている少女。バケツには半分くらい水が入ってる。
おばちゃんが、後で水屋を行かせるって言ってた。
この娘がそうなのか?
うぉぉ、ケモミミですよ!リアルですよ!
耳と尻尾モフりてぇ
『ミケです。水注文するっすか?』
「あ、ハイ。」
『小銀貨1枚っす。』
なんと残念だ、語尾は、にゃん!だろう。これは良くない。小銀貨1枚を渡す。
そのバケツに入ってる水って事なのか、だとしたら、少なすぎるが、まぁこの金額なら騙されてもいい。
小銀貨を受け取ったミケが、
急に真剣な顔になり、
ゆっくりと湯槽の前に両手を突き出した。
そして、呟く呪文、
『・・・全ての生命の根源よ、疲れた旅人の為にその器を満たせ、クリエイトウォーター』
光り輝く魔法陣が、手元から、空中に展開し、
ドドド!という水音とともに、割と大きめの風呂が、水で一瞬に満たされた。
「うぉぉぉっすっげーーっ!」
なんだろう一番感動した。求めていたファンタジーがここにあった。だって現代日本より便利なんですよ。
バケツで水を汲むんだろ?とかさっきまで、馬鹿にしてた。
「ミケ天才なの?大魔法使い?」
『フフ、ミケは水魔法3っすからね!気分が良いので、これはサービスっす』
『祖は炎、全てを燃やすもの。水とたわわむれ、情熱を燃やし、その温度とせよ!ファイアボール』
ミケの手の平に太陽が生まれた。それが、ゆっくりフワフワと水の中に沈み、じゅわわっと音と湯気をあげ、一瞬でお湯が沸いた。
「おおっ素晴らしい!」
オレは、感動している。
『ごゆっくり〜』
お風呂でサッパリして、ベッドで30分寝た。
完全耐性スキルで、無理して起きる。
「なぁオレも、魔法使いたい」
((知らない?練習すれば))
「どうやるの?」
((猫に聞きなさい))
受付嬢に鼻の下を伸ばしてから、ローズのご機嫌が治らない。でも、こんな時でもアドバイスにはのってくれる良い奴。
ミケに聞こうっと、
情報料は、小銀貨5枚だそうだ。
町人なら、誰でも知ってる魔術師の庵に到着。
くそっ!この情報に金を払うとか。
大人から子供まで、いっぱいいる。学校みたいな所だな。勉強は嫌いだけど魔法は別腹。時折、いかにも魔術師って格好の先生とすれ違う。いいね!ファンタジーだよ、ワクワクする。
火魔法1の講習に申し込んだ。銀貨1枚でスペルカードを買って参加。受講料は小銀貨3。
平均10回くらいでスペルカードが燃え尽きスキル獲得できるらしい。レベルが上がると高くなるし、難しくなるそうだ。
一番お勧めの水魔法1は、コップ1杯の水を作れる。地味に有用。完全耐性で我慢出来るので、無くてもいいかな。大勢習うので、水魔法は、安いとの事。
杖を持ってローブを着たヒゲもじゃのジイさんが、先生だ。
指導に従い、呪文を唱える。
「ファイアボール」
おぉっ!
指先に火がついた。
『オヌシ見込みがあるぞよ。』
褒められた、嬉しい。
だけど100円ライター以下だな。レベル1だと。あれ見た後だとなー。これは、大魔導師の誕生か、少し調子に乗る。
ん?ジイさん他の子にも、同じ事を言ってないか。
((初講習の子に言ってるみたいね。商売上手?まぁ見込みあるならいいじゃない))
と慰められた。
魔法訓練が終わると、夕食の時間になった。
完全耐性はあるけど、食事は好き。
今夜は、娘娘亭の1階の飯屋にしよう。
『おかえり』
と出迎えてくれたおばちゃんに挨拶し、
エールとオーク肉炒めを頼んだ。
『エールお待ちっ』
ごくごくごくっ
ぷはーっキンキンに冷えてて美味い。氷魔法か?
「は?」
オーク肉は、小さいメイドゴーレムが、テーブルの上を歩いて運んで来た。クリエイトゴーレムなのか?驚かせてくれる。生きてるみたいだ。
もにゅもにゅ
厚めの肉を咀嚼する。美味い!!
なんだこれ、あー旨みとか甘みとかの他に、魔力味?がある。
この魔力味は、例えるなら、超高級酒だけにある余韻。心の底から幸せだぜーっ金持ち死ねやーっていう溢れ出てくる余韻。あれに似ている。
くぅぅ美味すぎる!
オーク肉ごときで感動してたんだが、ドラゴン肉は別格との事。何それ麻薬なの?
いやー異世界最高っ!ご機嫌で部屋に帰った。
『水注文するっすか?』
「待て、ミケ。聞きたい事がある。魔術師の庵だと詠唱が短かったけど、なんでだ?」
『火水、各小銀貨1。合わせてなら小銀貨1.5っす』
1小銀貨+5銅貨を渡す。教えてくれないのかよー
『すっ』
ちゃぽん!ホカホカ。一瞬で風呂枠にお湯が満ちる。特に魔法陣も発動しない。まるで元からそこにあったかのように現れた。
「詠唱短っ!あの神秘的な詠唱なんだったの?」
『昨日のは田舎者を愉しませる演出っす。実は、ミケは天才なので、今みたいに無詠唱も出来るっす。』
「くっ、ころ」
恥ずか死ぬ。オーク肉の呪いか
すって言ってたので無詠唱とは認めない。
あと、悪戯成功してニマニマしてる猫娘、可愛いぞ。
『でも、それっぽい詠唱すれば威力や効果を上げる事が出来るっす。』
「そうだな、確かに朝の演出は感動した。詠唱のセンスも格好良かったし、ありがとう。また気が向いたら聴かせてくれ」
ここは、素直に礼を言う。
『フフ、ミケはご機嫌っす』
ケモミミがピョコピョコしてる。可愛ええ。
ん?ご機嫌なのか、チャンスだ!
「お願いがあるのだが、良いだろうか?」
『何すか?尻尾触らさせろとかじゃなきゃ考えるっす。ミケは安い女じゃ無いので』
ごくりっ
唾を飲み込む。緊張しながら、勇気を出して言った。
「語尾をにゃんにしてくれないか?」
ひくっ、ミケの口元が引きつってる。
あっ!なんか悪い顔に変わった。
悪戯考えてる時の顔だ、コレ。
『1にゃん、小銀貨1枚っす』
「お願いします!」
オレは、ノータイムで、小金貨1(小銀貨100相当)を差し出した。
『ハヤトさんに、ドン引きなのにゃん。』
口元をひくひくさせながら金を受け取るミケ。失敗したか?欲望に忠実になりすぎた。
『にゃははーっ、ハヤトさんサイコー。』
どうやら笑いを我慢してたらしい。良かった。
『考えとくにゃん!』
指先で、小金貨を器用に弾いて、くるくる回して、キャッチするミケ。今日一番の笑顔を見せて、
バタンッ
帰っていったよー。
自由か、自由すぎるだろ?あの猫。なんであのタイミングで扉を、閉しめて出ていけるんだ。