第三話
妖怪の山というものをご存知だろうか。
妖怪の山とはその名の通り、妖怪の住んでいる山である。昔は鬼が支配していたそうだが現在は天狗が管理している。
排他的で、人や他の妖怪が入る事を嫌う天狗だが、自分達より強い者に媚びへつらい、弱い者を見下す傾向がある。その影響か天狗社会は上下関係が厳しい。
さて、ここまでつらつらと語ってきたわけだが、理由はと言うと目の前で悩んでいる白狼天狗との出会いがどうだったかを思い出していたからだ。
僕の前に置いてあるのは将棋盤。それを見ながら顔を顰めているのが白狼天狗の犬走 椛。
昨日、酔いつぶれた新聞屋を引きずって行った白狼天狗というのは犬走のことである。
その時、もう一度僕と将棋をしたいと言われたので、特に断る理由も無かったから承諾したのだ。
そして今日、約束通り犬走の家の縁側で将棋をしているのだが僕が攻勢に出てからかれこれ1時間、犬走はずっと考えているのだ。
「む…むむぅ〜…」
「そこまで勝ちたいの?」
「ええ、負け越してますから。」
「まぐれで一回勝っただけで、それ以外は全部君がかってるんだけどなぁ。」
「その、一回が許せないんです。勝ち逃げなんてさせませんよ。」
分からなくもない。今まで勝っていた相手に勝ち逃げされたら僕だって腹がたつ。まぁ待ってる間に犬走との出会いを話そう。
………
犬走とあったのは夏を抜けきり肌寒くなってきた秋のころ。
色々あって天魔さんと仲良くなれた僕は、食材採集兼趣味の植物採集をしに妖怪の山にきていた。
樹木医の資格も持っている僕は料理の次くらいに植物が好きなのだ。許可はもらっているし大丈夫だと思い気を抜いていたのがよく無かった。
「うほー!すげぇぇぇ!!これ絶滅した品種だし!これは…タマゴタケ!それにウスキキヌガサタケ!?嘘だろおい!!!」
「何を…してるん…ですか…?」
珍しいキノコや植物を前にエキサイトしていた時に見つかったのだ。犬走から見たら植物を見て興奮している変人だったろう。
要するに第一印象は最悪だった。
『大将、ミツカッテルヨ』
「やっほー!!!幻想郷さいk………え?…」
この時は自分の能力を知らなかったが、頭の中に声が聞こえて振り返ると、犬耳で犬の尻尾を生やした女性。つまり犬走がそこにいた。
「あ、ドウモこんにちは。」
「ハイ、こんにちは。人間がここで何してるんですか?」
今でも鮮明に覚えている。その時の犬走の目は絶対零度を下回るような冷たい目で、微笑み(?)ながら僕を見ていた。
僕は未だ嘗て無かった程焦った。このままでは確実に殺される事が彼女の目を見て分かったからだ。
「あ、えっと、その、ですね。一応許可はもらってるっていうか、植物好きとしては見逃せなかったっていうか、完全に変な人だったけどそういうアレじゃないからね?うん。」
焦り過ぎて言っている事が訳わかんなくなっているが、犬走は僕が始めの方に言った言葉反応した。
「許可?誰にですか?」
「へ?」
「何処の、誰に、許可を貰ったのか聞いているんです。」
「え、えっと…前ここであった天狗にです。」
「その人の名前は?」
「な、名前?聞いてないけど。」
「証拠が無いなら此処で死んでもらいます。」
あ、ヤバイと思った時、天狗にあったら渡せと言われて、鳥の羽根が挟んである団扇を貰った事を思い出した。
「あの…コレを貰ったんだけど…」
そうことわってから団扇を見せると犬走の顏が固まった。しばらく固まった後、僕から団扇をひったくり。
「此処で待っていて下さい。逃げようとしても分かりますから。もし逃げたら殺します。」
と言って飛んで行ってしまった。そのすぐ後犬走が天魔に首根っこ引っ掴まれて帰ってくるという珍事があったのだが。
…………
こんな事があったにもかかわらず今はのんきに一緒に将棋をしている。人生というのは面白いものだ。
「…此処ですね。」
などと、大人ぶっていたら良いところに打たれてしまった。あ、コレ負けるかも。
「椛〜、遊びに来たよ〜って盟友じゃん。お久しぶり〜。」
茂みの中からヒョコっと出て来たのは河童。河城 にとりと言い会った人間を皆、盟友と呼ぶ。
因みに彼女も将棋が強い。犬走の練習相手をしていたらしい。
「あ、忘れてました。」
「久しぶり河城。来ると思ってなかったからきゅうり持って無いけど。」
「良いよ、また今度お願いね。で、椛は私との約束忘れた訳ね。ま、良いけどさ。」
良いんかい。と思った僕は悪くないと思う。
家に上がった河城は将棋盤を覗き込むと顏を顰めた。
「あちゃー、盟友コレ不味いんじゃない?」
「うん、ヤバイね。」
どうしよう。恐らくこのままいけば香車で金を取られて、自分の陣を崩されて勝ち目が薄くなる。かと言って守りに入れば、攻めにいった角を取られ不利になる。この局面で角を取られるのは痛い。
「くぅ〜…。」
「フフン!」
うわ〜、あのドヤ顔ウゼェぇ。此処はじっくり考えねば。河城もこちら側の勝ち筋を考えているようで盤を見ながらブツブツ言っている。あ〜キッツ。
「どうもー、清く正しい射命丸で〜す!葉月さん、コレつくって欲しいんですけど!!」
そう言って飛んで来た新聞屋が何かの雑誌を置いたのは将棋盤の上。しかも割と勢いがあり駒が飛び散る。
その雑誌には外の世界の洋食が載っていた。
「洋食?作れるから別に構わないよ。それより君、やってくれたね。」
「はい?何をですか?」
僕は指を向かい側に指す。新聞屋がそちらを見る。目に入るのは勿論犬走だ。それも怒り心頭の。
「文様ぁ、やってくれましたねぇ…」
「も、椛?どうしたんです?」
凄いな。犬走の後ろに般若が見える。しかも紫色の湯気みたいのでてるし。
「文が悪いよ?椛優勢だったのに駒、滅茶苦茶にしたんだから。」
河城が呆れたように説明する。僕からしたら助かったけど。言わないほうがいいな。
「フ、フフ、フフフフッ…そんなに私の刀の錆になりたいなら言ってくださればよかったのに…」
「も、椛?ほ、ほら間違いは誰にでもあるじゃないですか。」
「私が優勢だったのに…もう少しで勝てたのに…」
「その、ご、ごめんなさい?」
「問・答・無・用!!」
「あやぁぁぁぁぁ!?」
抜刀して飛び出す椛。が、文の方が少しだけ速く、躱して空に逃げる。
「あやぁ!?本気!?殺す気ですか!!」
「空に行こうぜ…久々にキレちまったよ…」
「キャラ変わってますよ!?」
空で始まった壮絶な鬼ごっこ。上下関係が厳しいとは何だったのか。弾幕まで飛ばし始めた。お願いだからこっちに飛ばさないでね?僕は普通の人間だからね?
「盟友〜、私とやろうよ。」
「よし、今日は負けないからな!」
「お、楽しみだよ!」
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オマケ
「ねぇ盟友。」
「どうした?…此処かな」
パチッ
「さっきの対局さ。文が来て助かったって思った?」
パチッ
「………イ、イヤ、ゼンゼン?」
カッ、パチッ
「ふ〜ん、ハイ王手。」
パチッ
「あっ。」
「本音は?」
「…思いました。やったぜって思いました。」
「盟友もまだまだだなぁ。」
キャラ崩壊してきたなぁ…タグに書いておかないと。
それでは、また。