砲市、異世界に行く
『つまり砲市君は異世界に行って生きる喜びを知った上で再びここに戻ってくるという訳だよ』
「なあんだ」
そう、早過ぎた砲市君の死。この悲しい結末に与えられた慈悲こそが異世界でゲームみたいな生活を送らせてあげる事につながったのである
『で、砲市君』
「何?」
『砲市君は本当にあのゲームでいいのかい?』
「当たり前だろ!」
『いやしかしアレは……』
「しわくちゃ! 僕はあのゲームみたいに異世界とやらで遊びたいんだ!」
『………分かった………だがアレのシステムを適用させる為にはイロイロと無茶をしなければならない』
「ふーん!」
『だから砲市君の想像通りにはいかないかもしれないがそれでもいいんだね?』
「いいよ」
『………分かった』
砲市は人生の中で一番と言っていいほどにワクワクしていた
それもその筈。生前ピコピコ出来なかったゲームだったが、今からそのゲームのような事をリアルに体感出来る世界でピコピコではなく実際に体験出来るのだから当然である
男子小学生たるもの冒険心を抱いてしまうのは仕方がない事なのだ
◇
「まっだかなーまっだかなーまっだかなー」
『砲市君』
「しわくちゃ! もういいのか!?」
『………一応出来たが本当にこれでいいのか?』
「いいよ」
『ああ………もう楽しみが強過ぎて冷静になれていないんだな……諦めたよ』
「早く早く!」
『分かった分かった。だがその前に君に教えなければならない事があるからよく聞きなさい』
「いいよ」
『砲市君。君は異世界勇者召喚に巻き込まれた小学生………という立場になっている』
「何それ?」
『まあつまり本来居るはずのない人間が君という訳だな』
「ふーん」
『わかった?』
「んーん! ぜんぜんわかんない!」
ゴツン!
「何すんだ! しわくちゃ!」
『真面目に聞きやがれ糞ガキ!』
「やるか!」
『この糞ガキ!』
こうして再びお尻ぺんぺんが為されるのであった
◇
「あー痛い痛い! しわくちゃは大人げなさすぎ!」
『砲市君?』
「しわくちゃの癖に偉そうにしやがって!」
『またお仕置きされたいのか!』
「しわくちゃのバ~カ!」
『というかいつまでもこんな低レベルな争いを続けている場合ではなかったわ』
「ついに負けを認めたようだなあ! しわくちゃ!」
『相手にしない相手にしない』
「ヘイ! しわくちゃ! どうしたしわくちゃ!」
『砲市君は通称カラフルワールドという異世界に勇者召喚に巻き込まれた一般小学生として召喚されるんだ』
「ブルッてんのか? しわくちゃ!」
『勇者召喚として本来召喚されるのはとある高校の三年生全員だね』
「カモン! カモン!」
『本来ならば砲市君も高校生連中に混じって同等のユニークスキルとかを保持して生を全うして欲しかったんだけど』
「ゴートゥーヘ~ル! SHI WA KU CHA !!!」
『…………もう勘弁ならん! なんて口の悪い小学生なんだ君は!?』
「虐待だーー殺されるーー」
『やろう! …………そうだ! 君のお母さんを呼んじゃおっかなあー』
「何! 卑怯だぞ!」
『呼ばれたくなかったら大人しくしていてくれ。もういい加減疲れた』
「ちっ! 今回だけだかんな!」
『………それではさっきの続きだが』
「待った!」
『今度は何だね?』
「話し聞いてなかったから最初からしてくれ!」
『てめえ! ちょっとこっち来い!』
「離せよ!」
こうしてまたお尻ぺんぺんの刑に処される砲市君であったのだった
◇
「お尻がすんげー痛いぞ! あとお腹すいたぞ!」
『やかましい! 話しを続けるぞ!』
「ちぇっ!」
『とにかく砲市君は他の連中と違うんだから周りには流されないように』
「わかった」
『あとシステムも違うから砲市君関連だけ殺傷事が発生しない。せいぜい気絶止まりだから』
「わかった」
『まあ後は仕込んだチュートリアルに任せてもいいんだけど、どうせわかったって言ってるだけだろうから今から無理やり記憶させるね』
「わかった」
『はい』
「ぎゃあああああ!!!!!!!」
しわくちゃが砲市の頭に手を当てるとしわくちゃのユニークスキル“瞬間学習”により知識の奔流がなだれ込んだのである……強制的に
◇
「………頭がガンガンする」
『これで説明は終わりだよ。おめでとう砲市君!』
「ふん! 感謝なんてしてやんないからな、しわくちゃ!」
『うるせえ糞ガキ』
「ん? 何だか光ってるぞ?」
『時間だからな。いやー間に合って良かった良かった!』
「砲市!」
「お母さん!」
「精一杯遊んでくるのよ」
「うん!」
『砲市君』
「何だ?」
『まあ君とは色々と揉めてしまったが私も君には楽しんで欲しいと思っている。だから楽しんで来い』
「わかった! というかしわくちゃって一体何なの?」
『私は神だ』
「紙か! そうだよな! だからしわくちゃだったんだ!」
『? まあ何を納得しているかはわからないが君との間にシコリを残さないまま見送れて私も何よりだよ。元気でやれよ』
「うん!」
『そろそろ時間だな』
「砲市、お母さんは砲市の事を見守っていますからね! お爺ちゃんになるまで帰ってくるんじゃありませんよ!」
「うん! お母さん行ってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい!」
ブオオン!
こうして砲市はカラフルワールドへと召喚されたのであった