砲市、落雷で死ぬ
公園で世界的に大人気なゲームをピコピコとプレイする大学生連中の姿を遊具の影から羨ましげに見つめているのはタマラン小学校に通う小学四年生(九才)の帆鱈 砲市君である
「僕もピコピコやりたいなぁ………」
砲市君は早くに母親を亡くしており現在は父と二人の姉との四人暮らしである
「………駄目駄目! お姉ちゃん達も言ってたじゃあないか。贅沢は敵だって!」
そう、幸運にも砲市君は姉に恵まれていたのだ。貧乏にも負けない鋼の精神を持った姉達と毎日仕事で疲れているのにも関わらずに笑顔の絶えない父親に囲まれて砲市君はすくすくと育っていたのだった
この素晴らしい事実に天国に旅立ち見守る事しか出来ない母、宗子も安堵の表情を浮かべているのであった
「……いけないいけない! 宿題の前に洗濯物取り入れないといけないんだった早く帰らなきゃ」
公園を飛び出し帰路につく砲市君だったが運の悪い事に落雷が直撃して死んでしまったのだった
◇
「ううん…………あれ?」
「砲市」
「え? ………………………お母さん?」
「ええそうよ」
「お母さーん!!」
ガシィ!
死んだ筈の母親との奇跡の再会に思わず抱きついて泣きじゃくる砲市君
「お母さん! お母さん! うぐっひぐっ」
「あらあら砲市。まだ泣き虫が直らないのね」
「ちがうもん! 僕泣き虫じゃひぐっうええええ~~ん」
それからしばらくは泣きじゃくる砲市君を優しくナデナデしていた宗子であったが、砲市君の泣きが収まった所で本題を切り出す事にしたのである
「砲市」
「なあに」
「砲市は死んじゃったの分かる?」
「僕死んじゃったの?」
「そうよ」
「………そうなんだ」
「砲市」
「お父さんやお姉ちゃん達には会えないの?」
「………そうね………死んでしまったのは砲市だけだからね………」
「うん………うぐっひぐっ」
「ほら砲市。男の子なら泣かないの」
「ぐすん……でも」
「砲市はお父さんやお姉ちゃん達に死んで欲しい訳ではないんでしょう?」
「……うん」
「だったら尚更じゃない。砲市は男の子なんだから泣いてばかりいるんじゃなくて笑っていなくちゃあね!」
「……うん」
「ほら笑いなさい砲市。砲市が笑ってあげないといつまで経ってもお父さんやお姉ちゃん達が安心出来ないじゃない」
「…うん」
「はい! ニコ――って笑って!」
「にこ――」
「偉い偉い!」
「えへへ」
はたして砲市君の満面の笑顔は残された家族に無事に届いた
不幸な事故で大切な家族を二度までも失ってしまった帆鱈家であったが彼、彼女等は今日も笑顔を絶やさない
死んでしまった二人を悲しませない為にも落ち込んでいる暇などないのだから