廻る電子音に踊らされて
「この曲にはEDMが使われており・・・」
テレビのニュースから聞こえてきたその男性キャスターの声に彼女が反応した。
「EDMってなに?」
僕は持っていたスマホですぐに調べた。
「どうやらエレクトロニック・ダンス・ミュージックの略らしいよ」
「へえ~」
彼女は画面を見ながら、プリンを口に運んだ。
「この映像見てるとさ、サビみたいなところで歌ってないよね」
僕はスマホからテレビの画面に目を映すと、確かにそこでは電子音が流れている中で男性たちが踊っていた。
「そうだね。確かに歌っていない」
「これはCDでもそうなの?」
「そうなんじゃないか?」
彼女は手に持っていたプリンをテーブルの上に置いてから言った。
「これを『歌』と言っていいのかしら!」
ここで始まるのかと、僕は急いで心を整える。
「最近のこういう曲は映像ありきだと思うのよね!」
「というと?」
「だってCDじゃ踊っているところなんて見えやしないのよ! 聞こえるのは電子音と歌っている人の声だけ!」
まあそうだな、と僕は心の中で頷く。
「歌う人や音楽を作る人は録音したりとか色々あるけど、その間踊る人は何をやっているの!」
「体鍛えたりしてるんじゃないか?」
「それはもうプライベートの延長線上じゃない!」
納得しかけたが、冷静に考えてみるとそれは仕事のような気がした。
しかし、それを言うって閉まったら面倒なことになりそうだ。ここは同調しておこう。
「そうかもな」
「本当にそう思ってる?」
「も、もちろんだよ」
彼女は察しが良いのを僕は忘れていた。
「私が思うに踊るだけの人は、音楽を作る人や歌う人に感謝しなければいけない」
随分と言い切るなと僕は感じた。踊る人に何か恨みでもあるのだろうか。
「だから、もっと今の音楽はもっと自信を持つべきよ!」
「それはそうかもな」
「そして、ダンスなんかに媚びるな!」
そこにはこだわるんだな、と僕は思った。
それから彼女はゆっくりとプリンを味わい、
「じゃあ、行くわよ。早く準備して!」
と言いながら立ち上がった。
「ど、どこに?」
彼女はニヤリと笑って僕を見る。
「歌が主役の場所、カラオケによ」
なんとなくだが、納得してしまった僕だった。