#1[若気]
当作品は犯罪、青少年の不良化の助長を目的とした作品ではありません。あくまでストーリーとしてお楽しみ頂きたいと思っています。全ての方が目的を持ち充実した人生の素晴らしさを共感頂ければ、と心から願います。
深夜、ひたすら走った
パクった50ccのバイクを横倒しにし、パトカーを止め走る
「学校だ!」
柵の低い校門を飛び越え俺とトシは学校の中へ逃げ込み
とにかく必死に走り回り落ち着いたのは階段の下のスペースにあった小さな暗闇
ここなら警察にも気づかれないだろう、そう思いながらも心臓は破裂しそうな勢いでドクンドクン、と鼓動を打つ。
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俺とトシは小学校時代からの友達だ。
クラスが同じになった事は6年生の時。特に仲の良いグループにいた訳ではなくつい最近偶然ゲーセンで再会しツルむようになった。
当時俺は地元の中学に進学せず私立中へ入学しそれからしばらく会っていない。今年16歳だからもう5年も前の話になる。
中学からのエスカレーター式で高校受験が無く周りからは羨ましがられた事もあったが、何のことはない。すっかり不良化していた。
出来の良い同級生ばかりだったので当然煙たがられ
「アイツとは関わんねー方がいいぞ」
と陰口をたたかれているのは知っていた。教師たちにも「お前は学校のガンだ」とお墨付きを頂いている。
一度口論になり横の机に座っていたお調子者の大栗をぶっ飛ばした事がきっかけとなり益々俺の居所はクラスから無くなっていった。
そして高校一年の春
ベタベタだが俺は退学した。
退学してからやる事も無く、最初はガソリンスタンドでバイトなんかしてみたが根気がなく3ヶ月で辞めた。
丁度その頃、埼玉県のはるか北のほうにある小川町という場所の女と知り合い付き合い始めたばかりだった。
彼女の名前はマユミ
「らりるれろ」がしっかり発音できないシンナー中毒だった。
どこで知り合ったかは問題では無いので割愛させてもらおう。
恥ずかしながら、初めての女だった。
学生時代に付き合った事のある女は何人かいたが俺はシャイボーイだったから手は出さなかった、いや出せなかった。
遠く離れた地、聖なる小川町までお呼ばれしたのは忘れもしない12月末日。
あの頃ビジュアル系という音楽グループが世に出始め、もれなく影響を受けていた俺は黒のロングコートを着て上下1万5千円という安物のスーツでかっこつけて電車を乗り継ぎやってきた。
寒かった。
街にはチラホラと雪が舞い、見渡すと夕暮れの帳が落ちてくる頃だったと思う。とにかく何も無い駅だったが心は舞い上がっていた。何せ初めてのお泊りだからな、と
マユミが駅前まで俺を迎えに来てくれたのでコンビニで酒を買って家に向かう。「いいちこ」という芋焼酎だ。ちなみにツマミはない
バスを乗り継ぎ20分、滅多にお目にかかることの無い雄大な山々の景色を背に到着。物凄く長い坂を登ると建売の住宅地がありその一角がマユミの家だった
「誰もいないから大丈夫だよぉ」
とマユミがささやく
「ガッチャン」
電気のついていない暗闇の中、ドアを開ける音が響く
「ちょっと手洗って来る、便所借りるわ」
と洗面所に向かう俺。
事件は起きた。
見た事のあるような、無いような赤い色。
洗面所から風呂場に続く痕跡
「な、な、な」
あまりの出来事に言葉にならない。
マユミが続いてやって来た
「キャー!!!」
とカン高い声で叫びながら俺にしがみついてきた。
とりあえずなだめるつもりで
「気にするなって、ケチャップかもしれないよ。俺が掃除しておくから。」
と陽気を装い掃除をした。あれで良かったのだろうか……
とにかく一夜を過ごすこととなりその夜マユミとゴールインしたのは書くまでも無いかもしれないが一応記しておこう。
その後半同棲生活を始めたが職も無く働く意欲も無い俺とマユミは連日のように近所のスーパーから万引きやレストランでの食い逃げなどをしていた。シンナーを買うお金欲しさに売春をしたり、カツアゲをしたり、もう滅茶苦茶だったがマユミと一緒にいられる事だけが唯一俺にとって幸せだった。だから初めて
「私、他の男に体売ってるよぉ」
と言われた時、どう表現してよいか分からない感情に駆られ泣いてしまった。
裏切られた事への憎しみではない。大切な家族を失った悲しみに近い感情かもしれない。ラリった彼女はヘラヘラと笑っていたが俺の気持ちをいつか分かってくれれば、と今でも本気で思う。それでも一緒にいたい。そんなロジックでは証明出来ない一途な思いを誰でも一回位は経験するのではないだろうか?
二人の関係が終わるのにそう長い時間はかからなかった。当時ヤンキーとヤクザの中間のようなチンピラと付き合いがあった俺はマユミを標的にされ、結果、守りきれず、彼女はレイプされ、守りきれなかった俺は自然とマユミから遠のいていった
悔しかった
誰よりも強くなりたかった
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