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序
とある写真家の個展。世界各地を飛び回り、絶景や秘境を撮影する彼のライフワークは、そこに暮らす老人達を撮影すること。砂漠、密林、海。あらゆる場所で撮影された老人達はみな、顔をシワだらけにして笑みを浮かべている。
が、出入口に近い一角、そこに展示された写真の老女には笑顔がなかった。遠くを見据えるシワに窪んだ瞳。他の写真と比べると、ピントも甘く、露出もアンダー気味。画質も良くない。写真の下には『馬が原にて』のプレート。
サインに応えていた写真家は、立ち止まる私に歩み寄る。
「私が写真家になる事を決意した写真です」
彼は言うと、その写真を眺める。
「この写真を超える物は今だ撮れていない」
彼の瞳には写真の中の老女が映り込んでいた。




