戦いを望む人種の特徴は
―――汝、闘争を望むか―――
光の中から問いかけられる。果てなく白い、延々と何もない空間から。
男の声としては高く、女の声としては低い中性的な、聞いたものの心を落ち着かせる様な。
事実、この空間に来る前に昂揚していた心は、いつの間にか平静を取り戻していた。
―――汝、平穏を望むか―――
戦う事を望むか、それとも平和を望むのか。
この問いは、つまりそういう事だ。
争いに争いを重ね戦いを続け、全てを焼き尽くすのか。
戦う事から目を逸らし、表面上の平和を諾々と享受し続けるのか。
諍いに自ら飛び込み、平和を齎すのか。
争いの頻発するこの世界。
国々で繰り広げられる戦争。国内で発生する内乱。あらゆる生物間で勃発する種族紛争。
世界は破滅への道を辿り、それを勘付きながらも後には引けず。
戦いが日常となり、戦いが根付いた世界。
世界は二分されていた。
踏み躙られる側に立つか、踏み躙る側に立つか。
搾取するか、搾取されるか。
滅ぼすか、滅ぼされるか。
勝つか、負けるか
生か、死か。
その答えに―――
―――
「私は、平穏を望みます。戦いなど必要ありません」
彼女はそう答えた。
『常に戦い続けろ。その為にあらゆる鍛錬を重ね、怠らず、常に上を目指し続けるべし』
それは、幼い頃に彼女が母から聞いた言葉だ。
事実、母はそう在り続けた、らしい。
幼い頃から独学で戦い方を身に付け、傭兵として国に雇われ複数の戦争に参加した。
身の丈もある重厚長大な巨大剣を自由に扱い、敵対する者を鎧ごと叩き毀した事から【毀し屋】の異名があったらしい。
功績を残した結果、貴族である父の目に留まり、それに応え結婚を果たして彼女を産んだ。全て父から聞いた話だが。
一時は戦いから距離を置いていたようだが、しかし戦いから離れる事は出来なかったらしい。
彼女が4歳くらいの時に家を出て、北の方で勃発した小競り合いに傭兵として参加し、戦死した。最期の最後まで戦いの中に生きていたらしい。
父が言うには苛烈で、まるで火の様な人物だったらしい。彼女の前では良き母であったのかまるでそんな覚えはないが、父はそこに惚れたと惚気ていた。
しかし最早大きな戦争など起こらず、いたって平穏な世の中だ。
身を守る力さえあればそれで十分だと、彼女はそう思っていた。
そういう意味では、母の事を理解できないでいた。
―――汝に加護のあらんこと―――
それを最後に、言葉の主の気配が薄れていく。共に彼女の目の前に光が集束しつつあった。
グニャグニャと変化している光は徐々に形となり、彼女はその光を手に取った。
握りしめ、一度振り下ろす。
自分の手によく馴染む。まるで長年共に戦い抜いてきたかのような。
数瞬前に手に入れた武器なのに使い慣れている、不思議な感覚だった。
ロード・ウェポンと呼ばれる武器がある。
鍛治師が打った通常の武器と比べても、切れ味や破壊力は変わらない。
しかし、それは不壊とも言われる強度を誇っており、火で炙ろうが曲がらず、水に曝そうが錆びず、土に埋めても腐らず、風で風化することもない。
しかし、所持者の死と共に消滅することから、ロード・ウェポンとはこの世界へ自らの魂を形に現し、武器として扱う物だと伝えられている。
また、千差万別であり、全く同一の形を持った武器は無い。
ある者は身を越すほどの巨大な剣を、ある者は超重量の槌を。
しかし、その全てが戦う為の道具であることだけは共通していた。
ただ頑丈なだけの武器と言う者もいるが、そうではない。
スキルという技術が伝えられている。
あるスキルは周囲の敵を一掃する。あるスキルは一瞬のうちに連撃を叩き込む。あるスキルは遠距離まで攻撃を届かせる、などだ。
しかし、通常の武器ではスキルによる衝撃に耐えきれず損傷が発生したり、最悪武器自体が破壊されてしまう。
この為に、スキルを発動するには実質的にロード・ウェポンが必須だ。
『パラッシュ』
彼女が持つ直刃のその剣は、そう呼ばれる刀剣を模した物だ。
長さはおよそ1mだろう。彼女の身長に対して大きく、その半分以上はあるか。
握りに対して刀身が長い。およそ9割近くが刃だろう。
サーベルと似た趣があるがそれよりも遥かに軽く、主に騎兵用の武器として用いられていた物だ。
刺突に特化しており、それに合った運用が必要となるだろう。
彼女と同期の生徒の物は、大多数が様々な装飾が施された華やかな物だった。
まるで美術品だと、そう見える程の物だったと彼女は思う。
しかし彼女のそれは、そういった装飾が一切ない。
戦う為に作られた。それを体現したかのような物だった。
パチパチと、手をたたく音が聞こえる。
いつの間にか、あの白い空間から戻ってきていたようだ。
「おめでとう、リヴさん。ロード・ウェポンも素晴らしいわね。他の子たちのは見てくればっかりで。あの子たちは大成しないわね、きっと」
「ありがとうございます。しかし教授。私は貴族ゆえ必要とあらば戦地へ駆り出されますが、彼ら全てが戦いに赴くわけではありません。それに、戦争など起こさぬよう努めるのが国の本分。戦いなど無くて然るべきです」
「ええ、その通りよ。戦いは最後の手段で、奥の手。平和的な交渉で物事を治めるのが正解よ。模範解答、教科書通り」
リヴと呼ばれた彼女。本名はリヴ・カーチス。リヴは実技座学両者ともに、3年もの間首席の座を明け渡すことなく、常に上に立ち続けてきた。
幼い頃に母が言っていたあの言葉。それが心のどこかに残っていたのかもしれない。
とは言え、リヴ本人はいたって平穏を望む。だからこそ、白い空間であのように答えたのだ。
「けどね、リヴさん。世の中、そううまくは行かないの。実力行使も、暴力的解決も、時には必要なのよ。その証拠。ほら、その足元の魔法陣」
足元に描かれていた魔法陣を見る。複数の幾何学的な模様が書き込まれた、複雑な代物だ。
これがロード・ウェポンを授かる為の儀式を行う魔法陣だと授業で習った。
一生に一度だけ、限られた場所でのみ、あの儀式を行うことが出来るのだと。
「それを得る為に、認めさせる為に。血が流れたわ。どこかの誰かのおかげで最低限で済んだけど。勿論、交渉もしたわよ? 最大限に譲歩して、用意に用意を重ねた交渉材料も使って。けど結局、交渉は決裂。戦いよ。二つの勢力の戦いに四方八方から手を出されて。あの時は大変だった―――まあ、長くなるから切るけど。結局、二つの生物がいれば戦争など容易く起きるのよ」
まるでその場に立ち会っていたかのような言葉だが、その通りだ。
目の前で手を叩いていた、腰まである長い黒髪を三つ編みにし、黒縁眼鏡をかけた美麗な女性。
この女性は、リヴが通うクリック学園の学園長だ。
数十年程前の学園設立の立役者となり、世界的にその存在は有名である。
しかしその実名は公にされていない。その為に教職員からは学園長と、生徒からは教授と呼ばれている。なにやらややこしいが、そう認知されているのだから仕方がない。
その上、ここ十数年で外見的な変化がないらしい。
生徒たちの間では『眼鏡が本体だ』やら『殺しに来た死神を逆に殺している』とか『死んでもその度に生き返っている』『むしろ死なない』『無敵』と噂されているが、真相は本人にしか分からない。
「…しかし、教授―――」
リヴが教授に話しかけようとする。しかし、目の前にその姿は無い。
いつもの事だ。突然目の前に現れて言いたい事だけ言い、唐突に消えてしまう。まるで煙のようだ。
「―――はあ、教授はいつも…仕方ない、か」
未だ教授と会ったことのある生徒の方が少ないのだ。
全学年で行う集会では代理に副学園長が壇上に立ち、入学式などに姿を現すこともない。
『教授に話しかけられた生徒は将来大成する』そんな噂話まで広まっていたくらいだ。
リヴは学園長に気に入られているが、その理由までは判然としていない。
この学園に通うようになった直後からか、ある日突然目の前に現れたのだ。
それからは事あるごとに現れては面白おかしく(主にリヴの心を乱す方面に)場を引っ掻き回して消えてしまう。
今日でこの学園も卒業なので、これからは悩ませられることもなくなるが…
手に握っているロード・ウェポンは、武骨な、取り立てて目立った装飾が施されているわけではない。
しかし、これから一生を共にする武器だ。挨拶の一つをしておいてもいいだろう。
「…戦いなんて望まないわ。けど、よろしくね、これから」
―――
学園を卒業して数か月が経つだろうか。
父親の仕事を手伝う傍ら傭兵ギルドへと登録を行い、グループを組んで次々と依頼をこなしていた。
その日、太陽が大分傾いた時刻。
リヴは護衛として依頼を請け、3台ほどのキャラバンに同行していた。
「はあ…」
「どうしました、ギルド員さん」
「…なんでもありません。なるべく早くに抜けてしまいましょう」
実習と実戦は違う、と教師から忠告を受けていたが、リヴは違った。
前衛に立てば魔物の動きを先読みし、先手を取られる前に先手を取り、ロード・ウェポンを用いてそれを殲滅する。
後衛に立てば魔法を使って仲間の援護に回り、被害が出る前に魔物のみ的確に殲滅をする。
その活躍ぶりはギルド内でも噂となり、様々な依頼が舞い込んだ。
ある時は森で異常発生した狼型の魔物を駆除する依頼を、ある時は盗賊から馬車を護衛する依頼を。
確かに、ギルドに本登録して数か月もしない者が立て続けに依頼を成功させれば注目はされる。
本登録した者が初めての依頼を成功させる割合が、よそ6割。再起不能になる者が2割。行方不明になる者が2割ほどだ。
薬草採取などという簡単な物は、ギルドへ仮登録した子どものお使い程度の物だ。受けられるハズもない。
リヴが最も評価された依頼。
それは、十数年に一度発生するとされている魔人。その討伐だ。
通常は、練度の高い熟練したギルド員のグループが複数選出される。それでようやく討伐の成功率が安定するといった所だ。
しかしリヴは、それをたった一人で、単独で討伐してみせた。
確かに、その魔人の強さは個体によって様々だ。
比較的弱い魔人が出現する事もあれば、一国が滅びかける程に強大な魔人が現れることもある。
尤も今までの歴史の中で、人類の存亡を脅かすまでの強大な魔人が出現したのは、数百年も前の事らしい。
その魔人が倒されてから、そこまで強大な魔人が出現した記録はない。
ギルドの見解でも、リヴが倒した魔人は中の下程度の強さらしい。
発生してから時間がたつほど強力になる魔人の常としては、十年程度の魔人だという。
しかしそれでも、単独で魔人を排除した功績は大きい。
グループの仲間からは称賛され、ギルドからの評価もうなぎ上りだ。
まさに順風満帆な日々だった。
しかし、そんなリヴに影を落とす出来事が起きた。
それが発端となり、頭を冷やすために比較的簡単な、キャラバン護衛の依頼を受けたのだ。
その発端だが―――
「この果物美味しいですね! いくらでも食べられますよ!」
「そんなにウマけりゃ好きなだけ食え! どうせ売れ残りだ!」
「ヒャッフー! オジサン太っ腹―!」
確か商隊長だったか。
そう言って、数秒もかからずに芯を残して食べ尽くした男。
次々と手に取り、10個ほどを食べただろうか。
「一つ7Sだがな! おらとっとと金払え!」
「ちょ、オジサン卑怯!」
「ああん? タダなんて言ってないだろ。売れ残って困ってたんだ。売り尽くしに貢献しやがれ!」
渋々といった風に財布から小銭を取り出して、意地の悪い笑みを浮かべる商人に金を払う男。
威厳もへったくれも何もなく、端的にいって情けない。
「はあ…なんであんな男に…」
リヴがこの依頼を受けた発端。
その原因が、あの情けない男だ。
以前の依頼での出来事だ。
リヴが前衛に立ち魔物と戦っていた。
この魔物は魔人ほどではないが強く、仲間と協力しながら徐々に弱らせ、あと一息で討伐が出来そうだった。
その時、一人の男が闖入してきた。
見た事も無い細身の片刃剣を持ったその男が、一太刀で魔物の首を斬り落としたのだ。
呆気にとられたリヴたちのグループを尻目に、その男は魔物の死体を持って消えてしまった。
たった数分の出来事だった。
現在受けている依頼にこの男がいたのは偶然だった。
依頼主との顔合わせを済ませ、護衛を行い馬車へ案内された時だ。
『実は既に、傭兵を雇ってしまいまして。まさか、こんな依頼が受理されるとは思っていなかったもので…』
下働きの男の言葉を聞いても、リヴとしては特に問題はなかった。
傭兵と呼ばれる者たちがいるのは知っていた。
傭兵ギルドに所属せず、様々な者達から個人で依頼を受け生計を立てている者達の総称だ。
その多くが傭兵ギルドを抜けた者や盗賊あがりのならず者、国家追放処分を受けたはぐれ者、荒くれ者が多い。
金次第で何でも行う事から国家からの印象は最悪、場合によっては略奪も行うために、民衆からも蛇蝎の如く嫌われている。
そして、依頼の際に鉢合わせになる場合もある為、ギルド員からも眼の敵にされており、まさに四面楚歌だ。
グループで依頼を共にしたこともあったが、そのおおよそが態度の悪い、ごろつき崩れの荒くれ者だった。
あらゆる者から嫌われている傭兵の、そんな生きざまのどこに惹かれるのか、リヴには分からないままだ。
閑話休題。とにかく、依頼主が傭兵として雇ったのが、リヴの魔物討伐を邪魔した男だったのだ。
他にも二人ほど傭兵がいたようだが、リヴの眼中にあったのはその男だけだった。
ここで会ったが百年目、と言ったかのように糾弾した。
なぜあの時魔物討伐の邪魔をしたのか。それは規則で禁止されており、それは重大な違反だ、と。
そう言ったリヴに対し、男はこう答えた。
『それは傭兵ギルドの規則だろう? 僕はギルド員じゃないから、そんな規則を守れなんて言われも無いよ。あの魔物は中々見ないからね、丁度見つけたから狩っただけ。依頼主も無茶を言うもんだ、まったく。そもそもさ…』
のらりくらりと躱された挙句、傭兵業の愚痴まで聞かされてしまった。
キャラバンが出発するまで男の愚痴は続いた。律儀に耳を傾け続ける彼女も彼女だが。
何も問題は起きずに依頼は進んでいた。
目的地への到着まで、スムーズに行って2日程。数日の行商の後に再び元の街へと戻ってくる予定だ。
途中、何度か魔物とは遭遇したが、リヴはそれを歯牙にもかけず排除してきた。
リヴと傭兵の男は護衛をする馬車の分担が違ったので、お互いの戦っている姿を見ることはなかったが。
目的地には問題なく到着した。数日の行商の間は自由行動となり、リヴと傭兵の男三人は別行動となった。
リヴは特にすることがなかった為、市場に行って買い物をしたり、武具屋で良い武器がないかと見てみたりと、多少は充実した数日となった。
問題が起きたのは、帰路の事だった。
あと数時間ほどで街に着くか、という時。
「敵だ! 傭兵共! 馬車を護れ!」
けたたましい商隊長の声がキャラバンの一団を包む。
傭兵を手玉にとって果物を売りつけたあの時とは全く違う雰囲気だ。
「はいはい、言われなくても分かってますって」
「ちっ…やっぱ楽な依頼じゃあなかったってか? 大損だよ、畜生」
「まったく、死なないようにやるか。こんなとこで死ぬのは勿体無い」
傭兵が三者三様に動き出す。
リヴが目の敵にしていた傭兵は、馬車に近づく敵を斬り裂き。
損得勘定にうるさい傭兵は、懐に入った敵を切り伏せ。
馴れ馴れしく話しかけてきた傭兵は、距離を取りつつ迎撃を。
リヴは、突然の襲撃に初動が遅れた。
盗賊が次々とキャラバンの人員に襲いかかる。
それを守る為、矢面に立つリヴ。
「これだからっ、誇りのない輩は…!」
対応が出来なかった。
戦う術を持たないキャラバンの者は逃げ惑い、更なる混乱を招いた。
逃げ遅れた一人が、盗賊に襲い掛かられようとしている。
「早く! 馬車に!」
「あ、あり―――」
その頭を一本の矢が貫いた。
目から光が消え、力が抜けた体が地に倒れ伏す。
今まで生きていた人間が、目の前で死んでいく。
「―――くっ!」
それでもなお、感傷に浸る暇はない。
盗賊は次々と雪崩れ込んでくる。
自身を魔法で強化し、次々と向かい来る盗賊へと体勢を整えた。
―――
「終わりかな? 随分と多かったけど」
「ま、命あっての物種だ。死ななきゃあ損も取り返せる」
「まったくもって。それにしても、何が目的だったんだ?」
三人の傭兵がそれぞれ盗賊の死体を調べていた。
おそらく、盗賊の身元を示す物を探しているのだろう。
盗賊の襲撃から十分程度。
今まで次々と襲ってきていた盗賊の気配が、嘘のように消え去っていた。
かなり錬度の高い盗賊だったのだろうと、リヴは考えた。
息を整え、三人に近寄る。
「嬢ちゃんも生きてたか。伊達じゃあねーな」
確か、損得勘定にうるさい傭兵―――守銭奴傭兵―――だったか。
死体を検分しながら、金目の物がないか探っているのだろう。
「ええ、なんとか。状況は?」
リヴの声に、妙に生き死に拘っていた傭兵―――死にたがり傭兵―――が応えた。
死ぬ時は戦いの中で果てたいと、そう言っていたと記憶している。
「商隊長は無事だな。キャラバンの奴が…二人か? くたばったのは。とっとと逃げときゃいいものを」
死にたがり傭兵の言葉に、リヴは内心苛立った。
しかし、それを表情に出すことは無い。
「おー、久しぶりに見た。まだいたんだ」
死んで横たわっていた盗賊。
それを検分していた傭兵―――特に目立ったところが無い、ただの傭兵―――が声を上げた。
「どうした、金目のモンでも見つかったか?」
「んや、これ見てみ」
傭兵が守銭奴傭兵の言葉に返す。
盗賊の死体の一部を指差した。
リヴもそれを確認する。
「これは…剣、と盾?」
その盗賊の死体の左肩。
そこには、半分に折れた剣と真っ二つに割られた盾。
意匠化されたその二つの刺青が彫ってあった。
「ああ、嬢ちゃん。こいつぁは結構な大モンだ。上手くいきゃあ、いい稼ぎにもなる」
「数年前に壊滅したはずだけど、残党でもいたのかな?」
「そんな話を聞いた事は無いが…名を騙った偽者では」
「あ、あの…」
リヴは話し合っていた傭兵に声をかけた。
なんだか、自分だけ仲間外れにされている気がしたからだ。
「この盗賊の正体、知っているんですか?」
「ん? ああ、キミが知らないのも当然か。あの学園、国からの情報切ってるし」
そう言う傭兵の口から、盗賊の正体が語られた。
ある盗賊の一団、その名前は【霧の竜巻】
霧のように突然現れ、竜巻のようにその場にいた者を全て皆殺しにする。
主に東の方面でその悪名を轟かせており、主な事件は村々の襲撃、商隊の襲撃など。
引き起こした事件は襲撃が主だが、その被害数はかなり多いらしい。
構成員は、全員が左肩に折れた剣と割れた盾の刺青を彫り、一人一人の錬度も高い。
噂では、国に仕えた騎士崩れが鍛錬を行っているとされているらしい。
しかし、ある時に、国への重要物資を運ぶキャラバンを襲撃してしまい、それが発端となって国は一個旅団を投入。
名を轟かせているとはいえ、たかだか一盗賊団への異例ともいえる国の措置に、リヴは驚愕した。
そのかいもあってか、傭兵の言ったように【霧の竜巻】は壊滅したらしい。
だが、その紋章を刻んだ盗賊が、実際にここにいる。
これは、どういうことなのか。
「妙に手際もよかったし、組織化もされてた。本物だろうね、きっと。これだから面倒なんだ、盗賊って連中は。根切りにしないとキリが無い」
肩を竦め、やれやれといった風をする傭兵。
職業柄、こういった盗賊を相手にすることも多いのだろう。
「斥候って考えた方がいいけど、何人か逃げたし。どうします? 商隊長さん」
「…早々に離れたほうがいいな。被害を纏めて報告しろ! 十分で出るぞ! 怪我してる奴は馬車に詰めて、動ける奴は準備しろ! 急げ!」
商隊長の掛け声が響くと、被害を確認しに動く面々。
三人の傭兵もそれに従い動く。
そんな臆病な者達を目にして、リヴは声を荒げた。
「そんな!」
盗賊風情に不覚を取り、あまつさえ自分の目の前で人を殺されたのだ。
「なぜ見逃すんです! 人が殺されたんですよ!?」
その声に、商隊長が唖然とする。
今までの行程で見せた落ち着いた面は何処へ行ったのか、その変貌に声を失ったのだ。
「まあまあ落ち着いて。相手は大人数で、悪名高い盗賊団かもしれないんだ。もしそうだとしたら、この人数でなんとかできる相手じゃない」
傭兵がリヴを諭す。傭兵の言っていることは正論だ。
商隊長、守銭奴傭兵、死にたがり傭兵も一様に頷く。
「でも…! 侮辱されたんですよ!? あなた達も悔しくないんですか!?」
「だってねえ…」
リヴの言葉もどこ吹く風。
あくまでもマイペースに傭兵は語る。
「僕が受けた依頼は、あくまで『キャラバンの護衛』だし。そっちの二人も似たような内容だろう?」
二人の傭兵は、その言葉に首肯した。
「まあな。金は大事だが、稼げなくなっちまったら死活問題だ。素直に従った方が今後の為だぜ、嬢ちゃん」
「ああ、国を相手にした盗賊団だ。壊滅したとはいえ、その残党は侮れない。街に戻った方が身の為だろうな」
守銭奴傭兵も、死にたがり傭兵も、どちらも街に戻ることを勧める。
臆病風に吹かれたのかと、リヴは失望した。
「…もういい! 埒が明かない!」
リヴは面々に見切りをつけ、森に目を向けた。
盗賊が逃げた方向は見当が付いている。
魔法で体を強化。木々を掻い潜り、後を追う。
その姿はあっと言う間に森に消え、見えなくなった。
リヴの消えた方を見て、傭兵が言った。
「いやー、若いっていいですよね、商隊長さん」
「はっ、何を言ってやがる臆病モンが。日が暮れる、急ぐぞ! 死んだ奴らとギルド員の金は上乗せだ!」
―――
『それじゃあリヴ、行ってくるね』
大きな剣を背負った母を見つめる少女。
涙を湛えたその眼は真っ赤に腫れ、ついさっきまで泣いていたのだろう。
『やっぱり、行かない方がいいんじゃないか? 北方は良くない噂も聞く。それに、傭兵嫌いのあの国が態々傭兵を雇うなんて…』
『依頼を受けたのは私の意思だ。それに、一度受諾した依頼を破棄するなど、傭兵の名折れだ』
リヴを抱え、心配そうな顔をしているのは父だ。今よりも随分若い姿だ。
少女としてのリヴとは別に、母の姿を見ながらもこの光景を俯瞰しているかのように。
―――そうだ、これは、母の最後の…
まるで何かに操られているかのように、リヴの口が勝手に動く。
『お母さん、どこに行っちゃうの…?』
『大丈夫、雪が融ける頃には戻ってくるよ。きっと、ね』
そういった母の姿はどことなく寂しそうで。
子ども心ながら、何かを察したのだろう。
『行っちゃヤダ! 一緒にいてよお母さん!』
『…リヴ、聞いて。代々伝わる昔話なんだけどね―――』
―――
「っう、ここ、は…」
薄暗い一室で、リヴは意識を取り戻した。
軽く手を動かすと、ガチャガチャと金属が聞こえた。
脚は自由に動かせない。ヒヤリとした感触がして、何やらズシリとした重さが感じられた。
壁に鎖で繋がれ、行動が制限されている。
意識も次第にハッキリとし、状況を思い出してきた。
「そう、か…私、は…」
キャラバンを襲った盗賊団を追い、リヴは森を駆けていた。
しかし、木陰に仕掛けられた矢の自動発射機、地面に埋められたスパイクや魔導地雷など。
一盗賊団の残党が持つ物としては多く、いささか高度すぎた。
「くっ、そ…!」
端的に言えば、罠だった。
徐々に消耗し、判断力が鈍ってきた所で隻腕の男にやられたのだ。
学園の図書館で読んだ書物にあった、たしかハルバードと呼ばれる武器だったハズだ。
リヴも多くの依頼を受けてきたとはいえ、その殆どが魔物を相手取った戦いだった。
人間を相手とした戦いの経験も、あるにはあった。が、それは四人のグループでの戦いだ。
いかに優秀とされたリヴでも、格上である人間をたった一人で戦う事は無謀だった。
翻弄され、経験の差を見せ付けられた。
ロード・ウェポンを破壊され、戦う術が無くなった所を一撃で叩きのめされたのだ。
体に感じる異常はない。打撲や細かい切り傷はあるが、行動の支障になるような大きな怪我はなかった。
それは、つまり…
「手加減、された…」
ロード・ウェポンを破壊された瞬間、意識を失ったリヴ。
無防備な姿を晒して、それでいて尚、生きている。
リヴは耐え難い屈辱を覚えた。
何故生きているのか、生かされているのか。
自分の命の綱が、何処の誰とも分からぬ人間に握られている。
嫌悪感を抱いた後に、一貴族としての矜持が汚されたとも思えた。
窓が無い小部屋。天井からランプが吊るされ、外の様子は窺えない。
捕まってからどれだけの時間が経ったのか。確認する術はない。
キャラバンの護衛という依頼をすっぽかしてしまった。
おそらく、助けを望むことはできないだろう。
扉が開く。『霧の竜巻』の誰かだろう。
リヴは覚悟を決める。慰み者にされるのだとしたら、舌を噛み切ろうとも考えた。
「やっほやっほ、生きてる? 生きてるね。よかった、無駄足にならなくて」
予想に反し、そんな軽口がリヴの耳に入った。
その口ぶりに、リヴは心当たりがあった。
「な…!? あなた…!」
「もし死んでたら、報酬が貰えないからね。助かった」
キャラバンの護衛の依頼の際にいた、三人の傭兵。
その内の、リヴのグループが狙っていた魔物を横取りした、あの男。
「…なんの用? 笑いにでもきたのかしら」
「んや、依頼を受けてね。キミの父親から」
そう言いながら、傭兵は枷に繋がれた鎖を切断した。
傭兵が手に持っている武器は、細身の片刃剣だ。
それが何の抵抗もなく、数センチはあろうかという太さの鎖を切断したのだ。
「んじゃ、行きましょか。見張りとかは始末しといたから」
手を取られ、部屋から連れ出されるリヴ。
傭兵の言葉通り、扉の前には真っ二つにされた死体が二つあった。
傭兵が持つ片刃剣は、その見た目からは考えられない程の切れ味を持っているのだろう。
そして、リヴはそのような武器に心当たりがある。
ロード・ウェポン。尋常ではない力を秘め、所持者と共に成長するともされる武器。
リヴは隻腕の男の言葉を思い出した。
―――
木々を掻き分けしばらく進むと、洞穴を削ったのであろう『霧の竜巻』のアジトに到着した。
この時点でリヴは消耗が激しく、心身ともに厳しい状況にあった。
そして、目の前にいたのは、隻腕の男、ただ一人。
『釣られたのは一人、か。上々だな』
侮ったのも事実だ。
片腕のない、闘う者として致命的とも呼べる事実を。
しかし、それは最初の剣戟で消え失せた。
『っ! このっ!』
『…反応は良い。しかし、経験が足りんな』
瞬きをした瞬間、隻腕の男の姿が掻き消えた。
リヴのレイピアに掛かる、隻腕の男のハルバードの圧力。
それを、レイピアを振り払うことでいなす。しかしリヴの手は痺れ、レイピアを握る力が弱まる。
しかし、男の追撃はない。
訝しむリヴ。男が声を上げた。
『お前の武器もロード・ウェポンか、面白い』
『…それが何か? それと、不快な目で見ないでくださるかしら』
なぜ一目で、リヴの持っているそれがロード・ウェポンだと看破されたのか。
通常の武器と比べて、特筆すべき点は異常に頑強な事のみ。
事実、リヴは学園でそう教えられた。
『ロード・ウェポンに耐え得る武器は、同じロード・ウェポンのみ。しかし…』
嘲笑を浮かべながら言う隻腕の男。
ハルバードを右手に持ち、石突を地に着けた。
しかし、そこに付け入る隙はない。ピリピリとした空気が肌に伝わってくる。
『肝心の持ち主がこれでは、ロード・ウェポンも持ち腐れ。いやしかし、今の世ではこの程度でも強者か』
『…何を言っているのかしら。さっぱり分からないわ』
『噂は聞いている。リヴ・カーチス』
目を細め、眉をしかめ、より一層身構えるリヴ。
―――身元が割れている? なぜ…いや、当たり前ね。
ギルドで行ってきた成果を考えると、そんな事は少し調べればわかるだろう。
しかし、なぜわざわざと、リヴは考えた。
『学園を首席で卒業後、着々と成果を上げた。ギルドからの評価は高く、そして最も特筆すべきは魔人を単独で討伐した点』
『…ストーカーかしら? 私の事を嗅ぎまわって』
『脅威となる可能性のある者を調べる事は常道だ。だが、そんな事をする必要は無かったやも知れぬ』
瞬間、ハルバードが叩きつけられる。
それをレイピアでいなし、再びの剣戟が繰り広げられる。
―――左腕がない、なら、そこを付けば…!
隻腕の男は右腕でハルバードを扱っている。
左腕はなく、ならばとリヴは、男の左面に狙いをつける。
右肩へ向けた袈裟切りを行うリヴ。予想通り、ハルバードの半ばほどで受け止められた。
だが、リヴはスキルを発動する。
<一閃>
瞬く間に斬撃を放つスキルを発動させる。
体への負荷がかかり、レイピアを持つ腕が動く。
リヴの左腰に構えられたレイピアが、その瞬間に放たれた。
左腕がない、隙ができた男に叩き込まれる。
―――ハズだった。
『―――青いな、やはり』
男は一歩下がり<一閃>をやり過ごす。
―――な!?
リヴの放った<一閃>は空振り、僅かな隙が出来てしまった。
技後硬直により体が動かず、隻腕の男はハルバードを天高く掲げる。
―――あれは、マズイ!
<兜割>
学園長が実演して見せてくれた、天高く掲げた武器で頭を叩き潰すスキルだ。
木製の斧で叩き下ろされた時でさえ、防具を装着していたのに途轍もない衝撃を食らい、気を失った。
気を取り戻した時には額に濡れた布が乗せられ、医務室に寝かされていた。
斧は粉々に砕けたらしく、学園長が傍で愚痴を言っていたのが記憶にある。
あの時は演習だったが、今は実戦だ。
ハルバードが振り下ろされる。
不思議とスローに感じる。
徐々に徐々に、頭に近づき―――
『あああああぁぁぁ!』
肩から鈍い音がした。
そして響く、甲高い音。
視界が白む。体が動かせない。
『防ぐか。やはり、中々の逸材。しかし、遠く及ばない。』
ズリズリと引き摺られるリヴ。
意識を失う直前、男の言葉が聞こえた。
『成長していないロード・ウェポンでは、まだ―――』
―――
『成長していないロード・ウェポン』
あの男の言葉を信じるのならば、つまりロード・ウェポンは成長するということだ。
―――武器が、成長する?
意味が分からない。けど、容易に鎖を切断した片刃剣を見たら、納得せざるを得ない。
「あなた、一体…」
「ん? ただの傭兵だよ。臆病者の、ね」
特に障害なく、洞穴から脱出することができた傭兵とリヴ。
そこには、細かく砕けた金属片と刃先を失った剣の柄が落ちていた。
柄を拾い上げるリヴ。
「ロード・ウェポン、壊れちゃったわ。生きてるだけマシだけれど…」
「ああ、それキミのだったんだ。まあいいじゃん、どうせその内直るよ」
「…? それってどういう―――」
違和感を覚えたリヴ。
しかし、傭兵が答える前に闖入者が現れる。
何かが走る音が聞こえた。
そして轟く、金属音。
リヴが後方に目を向けると、隻腕の男が振り下ろしたハルバードを細身の片刃剣で受け止めた傭兵が映る。
「この時を待ちかねたぞッ! 傭兵ィ!」
「あー、やっぱ生きてたんだ。まあ、現場を知らない連中に分かるわけないか。飼い殺されるタマじゃないって」
幾許かの剣戟。
そして繰り広げられるスキルによる攻防。
<兜割>
発動したスキルにより、頭上から振り下ろされるハルバード。
しかし傭兵は余裕の表情を見せ、スキルを使用した。
<受流>
垂直に振り下ろされたハルバードを、角度を付けた片刃剣で受け流す。
火花が散り、隻腕の男の体勢が崩れた。
隙を逃す傭兵ではなく、続けてスキルを使用した。
<一閃>
リヴが発動させたスキルと同じスキルを使用する傭兵。
しかし、その練度は桁違いだ。
白い光の閃光が走る。
片刃剣が恐るべき速度で隻腕の男を襲う。
<地突震>
ハルバードの石突を地面に叩きつける。
迫る片刃剣は阻まれ、体に届くことはない。
そして、石突が地面に叩きつけられた衝撃により、一瞬だけ傭兵の動きが止まる。
<半月斬>
隻腕の男は前方一定範囲に存在する対象を斬り裂くスキルを発動。
薙ぎ払われるように振るわれるハルバード。
狙いは傭兵、ただ一人。
<身躱脚>
狙いを察してか、スキルを発動する傭兵。
素早い足捌きによる高速の回避。迫りくる凶刃を寸でで躱す。
二人の間に距離が取られ、一時の暇が訪れた。
一瞬の間に繰り広げられる、一撃が命を奪う程の攻防。
息も吐かせぬような戦いに、リヴは目を瞠る。
まるで魔物との戦いが児戯に思えてしまうほどの芸術の域にまで高められた闘い。
二手も三手も先を読んでいるかのようなスキルを用いた攻防。
学園で行っていた演習とは次元の違う、命を賭した本物の戦い。
「はぁ…前よりも強いし。やってられないね、全く」
「左腕を落とされたあの時の屈辱。傭兵、貴様の命で償え」
最早、隻腕の男の眼中にリヴはおらず、その矛先は傭兵にのみ向けられている。
ハルバードを傭兵に向け、スキルを発動する。
<縮地>
隻腕の男は瞬く間に傭兵との距離を詰めた。
リヴは、あのスキルを知っている。
学園の図書館で読んだ文献に『武術を極めた武人のみが使う事のできるスキル』と記載があった。
それは瞬く間に距離を詰めるスキルだ。
傭兵の懐に潜り込み、更にスキルを発動した。
<連突>
まるで、ハルバードが何本も繰り出されているかのような、神速の突き。
その全てが、傭兵を襲う。
<見切>
初撃を確実に回避するスキルを発動。
同時に片刃剣を防御に充て、ハルバードの直撃を防いだ。
しかし、その突き全てを防ぐことは出来ず、少なくもない傷を負う。
そして、鳴り響く金属音。
砕けた金属片が光を反射し、キラキラと幻想的な光景がリヴの思考を覆い尽くした。
―――なんて、綺麗な…
リヴの思いを余所に、隻腕の男が傭兵に言葉をかけた。
「ふん、貴様のロード・ウェポンもその程度。私が貴様を凌駕したか」
しかし、傭兵は気にも留めず、破壊された片刃剣の柄を弄んでいる。
「うーん、確かに強くはなってるけど。なんというか、可哀想だね」
「はっ。唯一の武器を破壊され、打つ手がなくなった負け惜しみか?」
「いや、気付いてないんならいいんだけど。この刀、勿体ない」
なんの惜しみもなく柄を投げ捨てる傭兵。
そこに後悔の表情は見えず、リヴは不思議に思う。
唯一無二のロード・ウェポンを破壊され、勿体ないだけで済む者がいるのか。
同じく、ロード・ウェポンを破壊されたリヴも、取り返しのつかない後悔が心にこびり付いている。
「勿体ない? ロード・ウェポンを破壊された貴様が言える言葉ではあるまい」
「いや、さっきの刀がロード・ウェポンって言った記憶はないけど。勿体ないってのは、高かったんだよ、あれ」
「な―――」
隻腕の男が驚愕の表情を浮かべる。話を聞いていたリヴも同様だ。
ロード・ウェポンの攻撃に耐えられるのは、同じロード・ウェポンのみ。
加えて、スキル発動の衝撃に耐える事が出来るのも、ロード・ウェポンだけ。
傭兵が言うことが本当ならば、この世界の常識が覆るやもしれない事だ。
「ま、他に武器もないし、構わないでしょ」
傭兵が虚空に手を差し伸べる。
瞬間、リヴの肌が粟立つ。今までに感じたことのない感覚。
何か強大な力が発生する前兆を。本物にしか感じ取る事が出来ない違和感を。
リヴは自然と感じ取っていた。
「戦いは嫌いなんだって、面倒だ。けど、負ける事はもっと嫌いでさ。我が侭だよね、本当に」
まるで再会を愛おしむかのように、その姿を現した。
傭兵の身長の半分ほどの長さ。
油紙が貼られた木製のそれは、本来降ってくる雨から身を守る道具で。
決して戦いに用いる武器ではない。
それは―――
『番傘』
赤い紙が貼られている事以外に目立った特徴がない。
閉じられたそれを、手に馴染ませるように振りながら言った。
「まったく怠け者でさ。ま、そんなとこも個性だよね、きっと」
「貴様…ふざけているのか!?」
「んや、真面目も真面目、大真面目だよ」
開いたり閉じたり、まるで調子を確かめるようにクルクルと水を弾くように回す傭兵。
それが気に障ったのか、隻腕の男が声を荒げる。
「ふざけるな! 刃が無く! 武器でも無く! そんな物で! 貴様は戦いを愚弄する気か!」
「結局ね、戦いなんて詰まる所、勝つか負けるかなんだ。過程も手段も理由も何も、一切合財はね、自分を納得させる建前だよ。これが愚弄と思うのは、それは個人の価値観の問題だ。僕は、勝つ為にこれを使う。お前は、僕を殺すためにそれを使う。問題があるかい?」
「たかが傘で! 何ができるッ!」
<縮地>
再びスキルを発動する隻腕の男。
姿が掻き消える。その動きは遠目から傍観するリヴの目にも捉えられない。
<縮地>
傭兵の姿も消え、次の瞬間に甲高い金属音が聞こえた。
掻き消えた二人の姿が現れた。
番傘とハルバード、奇妙な鍔迫り合いが行われていた。
「貴様もッ! この奥義をッ!」
「奥義も何もねえ。基礎だよ、こんなの。それとも、自分が特別だと思ってたクチ?」
「舐めるなッ!」
<半月斬>
近接戦での不利を悟ったのか、スキルを発動して前方一定範囲を薙ぎ払う。
得意の中距離戦闘に持ち込む為、傭兵の後退を誘うためだ。
<受流>
それに対し、傭兵は更にスキルを発動。
迫り来る凶刃に対して番傘を当て、上方に受け流した。
勢いそのままに、傭兵は隻腕の男の懐に入る。
「なにィ!?」
<刺突<
迫る赤い番傘。
薙ぎ払い後の姿勢のまま動けない隻腕の男。
危機を悟ったのか後ろへ身を反らす。
<袈裟切>
一歩踏み込みつつ、傭兵は更にスキルを発動。
刺突を行い伸びきった腕を強引に振り下ろし、叩きつける。
「ッう! ぐうううぅ!」
地面に叩きつけられようとする隻腕の男。
しかし抜け目なく、スキルを発動していた。
<受身>
叩きつけられる衝撃を最小限に抑え、体のバネを使って飛び上がる隻腕の男。
同時に、空中でスキルを発動。
<兜割>
重力も手伝い、通常よりも威力が上がった一撃。
傭兵が発動したスキルでは、到底受流すことの出来ないであろう一撃。
隻腕の男は勝利を確信した。
しかし、隻腕の男の視界は赤い何かに遮られる。
なんという事はない。ただ、番傘を開いただけだ。
それだけの事で、凄まじい勢いが付いているであろう凶刃を受け止めた。
「―――な! 馬鹿な!」
「それじゃ、終わらせようか。そんなに乗り気じゃあないみたいだし」
距離を取る隻腕の男。
どうやら傭兵の出方を窺っているようだ。
しかし、傭兵は掲載することもなく、傘を閉じた。
そして番傘の石突を隻腕の男に向ける傭兵。
「…なにをするつもりだ? そんな物を向けて」
「なにを、どうする。それを態々明かすほどお人好しじゃあないよ」
再び、リヴに寒気が走る。何か、圧力とも表現できるモノが大きくなるのを感じた。
隻腕の男もそれを感じたようだ。冷や汗を浮かべながら、ハルバードを傭兵に向けて構えた。
「どんな理由だとしても、そこまで練り上げたのは素晴らしいよ。けど肝心の、ロード・ウェポンに愛想を尽かされちゃあねえ」
「なんだ…どういう意味だ!」
「分からないなら、そのままだ。なんでも他人に聞いてちゃ成長はしないってことだよ」
<曲芸/点>
スキルを使用する傭兵。
石突に『何か』が集まる。
半透明の虹色の『何か』が形を持ち、射出される。
空気を切り裂く音。
リヴの目には『何か』が、隻腕の男を貫いたのが見えた。
しかし、その詳しい正体は分からない。少なくとも、リヴには。
「うぐあああぁぁ! まだ…まだだぁ!」
脇腹に風穴が空き、夥しい量の血液を流しながらも、スキルを発動させて傭兵に迫る隻腕の男。
<縮地>
隻腕の男の姿が掻き消える。しかし、飛び散った血飛沫はハッキリと、傭兵に向けて飛び散るのが分かった。
リヴの見た限り、隻腕の男の腹に空いた穴は、致命傷だ。
「しぶといね。苦しむだけだよ?」
懐に飛び込もうとする隻腕の男を、スキルを発動させず使用せず、傭兵は番傘で殴りつける。
リヴの耳に、鈍い音が聞こえた。
骨が折れる音。ハルバードはその手から離れ、地面に落ちる。血を吐き、地面に這いつくばる隻腕の男。
「届かん、か…」
「そりゃあね。耳を傾けようともしてないんだから。勝てるわけがないよね」
番傘を振りかぶる傭兵。
同時にスキルを発動。
<地砕>
番傘が、虹色に輝き始める。
リヴに感じられる圧力が再び増大する。
まるで番傘が巨大になったかのような、そんな錯覚さえ生じさせるような圧力。
「それじゃあバイバイさようなら。地獄で責め苦を味わっているといいよ。僕は真っ平御免だけど」
瞬間、大地を揺るがす振動。
朦々と立ち込める砂埃。ようやく体を動かす事が出来たリヴが近寄る。
膝ほどまであるクレーターが出来ていた。
覗き込むと胸から上が消し飛んだ、隻腕の男であったであろう、赤に塗れ、上半身が吹き飛んだ死体。
そしてサラサラと、空気に溶け込むかのように消えていく、ロード・ウェポン。
「これで依頼は続行可能かな? それじゃあ行こうか。お腹減ったし」
さも当然のように、あたかも興味を惹かれなくなったかのように。
今までと同じように調子は変わらず。一つ変わったのは、番傘を肩に担いだ所。
「…傭兵、なんなのよ。その、傘は」
「これ? 紛うことなき、僕のロード・ウェポンだ。まあ、武器じゃあないけど。お気に入り」
雨も降っていない晴天の中傘を開き、あくまで軽く歩き出す傭兵。
着かず離れず、微妙な距離を保っているリヴ。
「…ねえ、傭兵」
「んー?」
数分歩いたところで、リヴが傭兵に話しかけた。
「私の、ロードウェポンなんだけど」
今の今まで掴んでいた、リヴのロード・ウェポンの柄。
隻腕の男に刀身を砕かれたレイピアの残骸。最早、武器として意味を成していない。
「死にさえしなければその内直るよ。再起不能になれば別だけど」
「けど、そんな事、学園では…」
「まあ、戦闘でロード・ウェポンを破壊されればそのまま殺されるだろうし。今の人たちが気付くわけないよね」
「…」
茂みから飛び掛かる魔物。
しかし、番傘を振るい、殴りつける。血飛沫を上げ、物言わぬ肉塊となった魔物。
次々と襲い来る魔物を、ただ一人で駆逐していく。
余裕に、優雅に。焦る事無く、着々と。
リヴただ一人で、魔物の絶え間ない襲撃には対応できる気がしない。
それだけを見ても、この傭兵は只者ではないのだろう。
数分の襲撃の間に、殲滅した魔物の数はおよそ数十。
魔物の死骸が散乱した街道。
遠方には巨大な門が見える。リヴの住む、あの街だ。
「露払いも出来た、もうお昼も過ぎるし。急ごっか」
―――
リヴが『霧の竜巻』のアジトから救助された、その後。
いつも通りの日常をリヴは過ごしていた。
あの後の顛末は、特筆すべき所がない。
リヴが住む屋敷まで傭兵に送られただけだ。
父親は傭兵に報酬を支払い、傭兵はそれを受け取り去って行った。
きっとお昼を食べに行くのだろう。余韻も残さず。何も残さず。
父親には叱咤され、抱き締められた。
ギルドへ行くと、依頼を途中で投げた件でペナルティを受けた。
七日間の謹慎、及び罰金。
キャラバンを街まで護衛する事が依頼だったのだ。途中で放り出したのだ。これは当然だろう。
しかし罰金のおかげで、今までギルドで得た稼ぎの大半を失ってしまった。
負債を被らなかっただけ、マシなのかもしれないが。
そして謹慎明け、ギルドに赴くリヴ。
いつも通り仲間に迎え入れられ、いつも通り依頼を受け、いつも通り魔物を倒す。
ロード・ウェポンも謹慎中に直っていた。
しかし以前と比べるべくもなく不思議と、体の延長のように扱えるようになった。
以前と変わらない日常、依然と変わらない生活。
満たされていた、ハズだった。
しかし、何かが足りない。
何か、何か、何か。
燃え上がるような『何か』が。
満たされない心。何かが足りないと、そう感じていた。
そんな時に、噂を聞いた。
あの傭兵が、この街を発つという話だ。
リヴは決めた。
誰に決められるでもなく、他ならぬ、自分の意思で。
―――
快晴で雲一つない青空。
そんな中、街と通じる門から出てきた人影があった。
傘を差しながら口笛を吹き、スタスタと道を歩いている。
街から十数分のところ。
二股に分かれた、別れ道。
片方は森に通じ、もう片方は荒野へと続く道。
しばらく思案した人影は、傘を地面に立てた。
パタリ、と傘が倒れる。荒野の方に倒れた傘を拾い上げ、進もうとした。その時。
「…待ってたわ、傭兵」
「ん? ああ、誰かと思えば。久しぶり、元気してた?」
草むらからガサリと身を出し、服の端には折れた枝や千切れた葉がくっ付いている。
髪はボサボサになり、目の下には黒いクマが浮き出ていた。
「待ってたって、僕がいつ通るかも分からないのに? いつからいたのさ」
「…昨日の、夜から…徹夜で」
「それはご苦労様。んで、なんで待ってたのさ?」
「…」
口を噤むリヴ。しばし考え、言葉を続けた。
「傭兵、あなたに救われて、あなたの闘いを見て、ずっと考えていたの」
「あんな下らないのでねえ。まあ、どう感じるかなんて個人の価値観の問題だから、気にはしないけどさ」
言葉では言い表したがい抽象的な感覚。
闘いに惹かれる感覚、心の中で燃え上がる『何か』を感じたリヴ。
「だから、ね。一つだけ聞きたいの」
「僕に聞きたいこと?」
「…あなたは、なぜ、傭兵なんて続けているの?」
「ふーん、僕がどうして傭兵を続けているか、ねえ」
傘をクルクルと回し、何かを考えているかのようだ。
「ええ。なんで傭兵なんて、誰からも好かれない事をしているのか、って」
「うーん…難しいね。理由は特にないけど、傭兵をしていないと生きられないから、かな?」
「生きて、いられない?」
「うん、人間とも魔物とも、長く戦ってきたんだ。そんな奴が今更一戦から退いて、のうのうと生きられるわけもない」
「そんなに長く?」
「まあ、気が付いた時にはもう、ね。それにこんな我の強い、身元不明の輩を雇おうと思う人がいるハズもない。扱いにくいったらありゃしない。だから、かな」
リヴは傭兵を見つめる。
良くも悪くもない、パッとしない顔をした男。
余裕といった表情を崩さず、そして何を考えているかが分からない。
「それで、僕からも質問してもいい?」
「ええ、私だけ質問するってのもズルいでしょうから」
「キミはどうして、こんな辺鄙な所にいるの? ただ質問をしにきたって訳じゃあないだろうに」
「そうね、そんなの簡単よ」
深刻な表情を現し、決意を眼に浮かべ、ロード・ウェポンを出し、その切っ先を傭兵に向けたリヴ。
「どうしたのさ。まさか闘うつもり? それなら別に構わないよ。無謀も蛮勇も、それはとても好ましい」
傘を閉じ、それを肩に担ぐ傭兵。
「どうする? 闘うのなら、先手は譲るけど」
緊張した空気が漂う。
しかし、リブはロード・ウェポンをおろした。
「…私ね、傭兵になりたいの」
「ふーん、傭兵にねえ」
剣呑とした空気は消え去り、傭兵もリヴへの敵意を霧散させた。
「けど、キミは貴族だろう? ギルドでは名声があって、将来も嘱望されてる。そんなキミが、わざわざ嫌われ者で憎まれ者の、誰からも好かれない役になる必要なんてないと思うけど」
「…父さんには、ちゃんと話したわ。血は争えない、って。跡継ぎは親戚を養子に迎えるって。ギルドも辞めてきた。おかげで一文無しよ」
「ふうん、全部を賭けるような物でもないと思うけどね。まあ、キミの意思だ。自由にすればいいさ」
そう言い、傭兵は道を進もうとする。
しかし、リヴはそれを遮った。
「傭兵、あなたに依頼を受けてもらいたいの」
「依頼? 別に構わないよ。丁度フリーだし。けど現金は駄目だよ、それと暗殺も。報酬は現物で頼むね」
「いいわ」
リヴはポケットから何かを取り出し、傭兵に投げ渡す。
鈍く光る銀色の台座に紅く輝く宝石が嵌め込まれた、年代物の指輪。
一文無しと言った彼女の言葉に反し、とても高価そうだ。
「へーほー、いい指輪だね。スピネル、じゃないね、ルビーかな。けど、さっき無一文って言ってなかった?」
「母さんの、形見の指輪よ。先祖代々伝わってるの。父さんが持って行け、って」
―――
『―――これで昔話は終わり。どうだった? リヴ』
『…分かんない。鳥さんは、どうなっちゃったの?』
『お話はこれで終わり。お母さん…リヴのお婆ちゃんは、闘いの中で果てて亡くなったって。そのお婆ちゃんは、家族に看取られて幸せに死んで逝ったって。リヴは、その鳥がどうなったと思う?』
『お母さんはどう思ったの?』
『―――そうね、私はね。闘いの中でどんどん強くなって、最後には人間の敵をやっつける、って。そう思ったな』
『それじゃあお母さんとおんなじ! やっつけるの!』
『ふふ、そうね。きっとそうなるわ』
リヴの頭を撫で、笑顔を向ける母親。
『それじゃあね。行ってくるわあなた。約束、お願いね』
『ああ、忘れないさ。約束だ』
そう言って去る母親の指には、いつも嵌めていた指輪がなくて。
幼心にも、なぜだか別れだと感付いて。
けれどどうしても、止める事が出来なくて。
―――
傭兵に渡した指輪はリヴが父親から渡された物だ。
母の形見だからと、家を出るときに。
「ふんふん、いいね。それで、依頼ってのは?」
「…私を一緒に、連れてって。邪魔はしないわ。私を護る必要もない。ただ、あなたが闘う姿を、間近で見たいの」
「ふーん、別にいいけど。そうだな…この指輪で、長くて二年。それまでだ。それまでに何か、異名でも目指せばいいさ」
「いいわ、それで」
一部の、多くの功績を挙げた傭兵やギルド員は、名前の他に異名と呼ばれる通称を付けられる事がある。
例を挙げれば。リヴが受けた依頼の際、目の前の傭兵の他にいた二人の傭兵。
彼らは二人とも、異名を持つ傭兵だった。
守銭奴傭兵は【屍喰い】と渾名されていた。
数十人の部隊で敵地に乗り込み、ただ一人だけ生き延びた時の事、死んだ者全ての装飾品を奪い取った事から付けられた異名。
屍を喰らう。大多数の者にとっては蔑称であるはずだが、守銭奴傭兵はこの異名を好んでいた。
かつて雇われた依頼主から依頼を受け、完遂させた。そして、この異名について問われた時に【屍喰い】はこう答えた。
『俺みたいなのがいなきゃあ死体があぶれちまう。むしろ感謝しやがれってんだ』
まるで自ら泥を被っているような言い草だが、その真意は定かではない。
もう一人、死にたがり傭兵の異名は【影者】だ。
数々の兵器を運用し、搦め手を用いて敵対者の意表を突き、影から命を奪う事から付けられた名だ。
細い体躯に反して、懐から数えきれない程の対人武器・攻城兵器を取り出し、運用している。
様々な武器・兵器の格納について、ある依頼主に問われた時に太古に存在した魔具について詮索されたが、本人は純然たる技術と否定した。
また、その消極的・騙し討ち的な戦術について、ギルド員からは『死なない様に戦っているだけの臆病者』と揶揄されているが、本人は『命の重みを知らない敗北者共の戯言』と、本人は一向に取り合っていない。
異名を持つ傭兵がキャラバンの護衛など、比較的易しく報酬金も少ない依頼を受ける事は稀なのだが、なんの因果か。
「ちなみに僕も異名持ち。その名も【臆病者】さ。長い間戦い続けてきたからね」
取り立てて目立つ所のない傭兵。彼の異名は【臆病者】だった。
長く戦いを続け、周囲の人間の多くが死んで逝く中、傷一つない姿で生還することから付けられた異名。
明らかな蔑称だが、彼としては気に入っている異名だった。
「あなた程の傭兵には、似つかわしくないと思うけど?」
「個人的には気に入ってるよ。もう一つの方は、なんというかナンセンスだったし。そもそも、異名なんて長く傭兵業を続けてないと付けられないからね。生き残るには運も必要さ」
「運に頼って勝ち抜いてきたの?」
「いんや、純然たる実力だよ。戦いに運なんてのは絡まないからね」
そう言い、歩き出す傭兵。先ほど傘が倒れた方向へ。
後に続き、リヴも歩き出す。
「そういえばあなたの事、なんと呼べばいいの?」
「そうだなあ、ダチョウって呼んでくれればいいよ」
「ダチョウ? なによ、それ」
「地べたを駆け回る鳥さ。飛べない鳥、人間と変わらずね」
「鳥の名前を自分に? 何か意味でもあるの?」
「別に、ただの趣味だよ」
二人は道を進む。
それは、どんなに遂行が困難とされる依頼を事も無げに達成する傭兵。自称、カモメが誕生する二年前。
ハンコックとも呼ばれた、無類の強さを誇る傭兵コンビが誕生する。そのおよそ三年前の出来事だった。
リハビリがてら、随分と前からチマチマと書いていた物を投稿。
続きは脳内にあったりなかったり。
それと、女の子がでっかい武器を振り回している姿は大好物です。
※以下、一部用語解説
・ロード・ウェポン(Lord Weapon/Road Weapon)
所持者の魂を形に現したと伝えられる武器。道を創る武器であり、主を探究する武器。
常識では考えられない強度を持ち、溶岩に放り込もうが溶けず、水に曝そうが錆びず、土に埋めても腐らず、風化することもない。
ロード・ウェポン同士の戦闘では破損する場合もあるが、所持者が死なない限り消滅はせず、心の持ちようで修復までの時間が短縮される。
・傭兵
特定の組織に所属せず、個人で様々な者と契約を行いながら各地を転々と旅している者達の総称。その来歴は様々。
基本的に逸れ者や荒くれ者が多いため、民衆や貴族からは蛇蝎の如く嫌われている。また、依頼によっては傭兵ギルドの者と鉢合わせになる為、ギルド員からも目の敵にされている。
長く活動を続けている一部の傭兵は、用いる武器や戦闘スタイルから【異名】と呼ばれる二つ名を付けられる事がままある。
多くは戦場で武勇を立てたりする内に自然と名付けられるが、稀に短期間に極めて優れた功績を上げる者もいる。
・傭兵ギルド
ギルド員を取りまとめている組織。世界各地に支店や営業所が存在している。しかし本部の所在は不明。
ギルド員への依頼の斡旋や仲介を行う。ギルド員同士の揉め事や争い事には徹底的に不干渉を貫いており、あくまで依頼者とギルド員を繋ぐ橋としての役割に徹している。
・ギルド員
傭兵ギルドに所属している者達の総称。