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FILE1:笑顔の男のこと。

その男の名はタイガと言った。


19歳。

あからさまな今時っ子。

髪はメッシュで

話し方も何だか舌足らずだし

27歳の私から見たら

本当にただのガキだった。


Yというお店で出会った。

Y店は小さなメンズパブ。

代表と、タイガと、タイガの相棒のショウの3人が従業員。


夜の仕事が初めてだと言った若い二人は

戸惑いを見せつつも

それなりに頑張っていた。


たまに顔を出すその店で

たまに会うだけでそれ以上の事はなかった。


正直ビジュアルだけでいうなら

ショウのほうがちょっとジャニーズ系の顔で

話も面白かったし好きだった。

タイガは頭が悪くてお調子者。

「馬鹿だなぁ」とよく思ったけど

タイガは笑って誤魔化すのか上手だった。

その笑顔がいかにも子供っぽくて

何だか可愛らしくて憎めなかった。


だけど、タイガもショウも諸事情で程なくその店をやめた。

それっきり。

何度かメールとかはきてたような気がするけど

会ったりすることもなかったし

特に気にする相手でもなかった。


出会ってすぐ、Y店の代表に

「タイガはアヤがかなりタイプらしいよ!」

と言われたけれど

所詮そんなものは営業トークだし

何せそんな8歳も下の男の子にそんな事言われても

さすがにどうする気にもならなかった。



タイガが店をやめて半年経ったくらいの頃だったかな。

「間違って電話番号だけ消しちゃったので、番号教えてください」

というメールがきた。

(別に電話とかしてくる用事もないんじゃ・・・)

と思いつつ、一応メールを返信した。


そうしたら彼は律儀にもすぐに電話してきた。

久しぶりだねー、等と他愛もない会話をしただけ。


でもそれから頻繁に電話が来るようになった。

最初は3日に一度くらい。

それがその内毎日に等しいくらいになった。


電話の内容は特に中身はなかった。

タイガの元カノの話とか学生のときの話とか。

「いま起きたー」とか

無駄に寝起きで即効電話をかけてきたりした。


不思議とそれをウザイとは思わなかった。

私は正直寂しがりやで

そういう何でもない連絡がくることが何となく嬉しかった。


そんな毎日が続いて

ナチュラルにタイガは「アヤさんのことが好き」とか

言い始めるようになっていた。


でもさすがに私は「はいはいアリガト」くらいに流していた。

普通に彼女とかいるんだろうと思ってたし

それ以前に年の差とか、タイガのチャラ男っぷりを知っていたから

真に受けることはなかった。

それでもタイガはめげなかった。

あらゆる手段で、私にぶつかってきた。

それでも私は中々首を縦にはふらなかった。


(さすがにこんな年下とは付き合えないなあ)


その考えが頭から抜けなかった。


だから電話をする以外

遊ぼうと誘われても行かなかった。

それでもタイガはめげない。


そうこうしてる内に2ヶ月くらい経ったのかな。

1度くらいイイか・・・という気持ちで

一緒にご飯を食べにいった。

すぐ帰るつもりだったけど

「プリクラとりたい!!」とタイガが駄々をこねた。


正直19歳と歩いてるだけでも

周りからどう見ても私は年上に見えるだろうし

プリクラとか恥ずかしいなぁっていう気分だったけれど

子犬のように懇願するタイガに負けてゲームセンターに行った。


いま思えばタイガも多少の緊張や遠慮があったのか

初めて二人でとったプリクラは

微妙な距離感があったような気がする。


私自身にも、何か変な緊張感があったような気がする。

タイガがプリクラに書いたイタズラ書きは

「今日が記念日」だった。


「何勝手に記念日にしてんの?」と笑って言ったら

「いいの!記念日なの!」とタイガはニヤニヤ笑ってみせた。

 

「ニヤニヤ」って言うと

あんまりいいイメージは湧かないかもしれないけれど

タイガは本当に子供が悪戯したときのような

ニヤニヤした感じで笑うのだ。


それが私には可愛く見えた。


タイガは本当によく笑う子だった。

困ったときも

楽しいときも

ずるいこと言ったときも

誤魔化したいときも

ただ目があっただけでも

よく笑う子だった。




それから1ヶ月もしないうちに

私とタイガは付き合うことになった。



年の差だとか

私の性格上の問題だとか

色んなことは引っかかっていたけれど

そんな事幾ら理由にしたって

タイガは納得しなかったし、必至だった。


でも恋愛なんてそんなもんで

最初の内は熱くなってるから

どんな壁でも越えられるような気がするものだ。


でもそれが何時か冷めてしまうことも

私は知っていたし

かといって言い聞かせても

今のタイガに理解なんて出来ないことも判ってた。


4割くらいは、押しに負けたような感じだった。




けど

私自身も年下の可愛いタイガと

「もしかしたら、今度こそは」っていう期待があったことも確かだった。

殆どは有り得ない、っていう気持ちだったけど

やっぱり多少の期待はあった。


自分の事を好きだって言われて

嫌な気はしなかった。

考えていたよりも

タイガは私に対して真剣に話してくれた。

19歳は19歳なりに、一生懸命考えてくれて

案外真面目な部分もあるんだなぁってその時知った。


私も好きになれればいいな、って感じで

私たちの付き合いは始まった。




この時は思わなかった。


立場が逆転することになるなんて。




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