表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1

学校帰りのファミレス。向かいに座る真千は、生クリームたっぷりのパンケーキにするか、和栗のパフェにするかで迷っている。


「来月も和栗のパフェあるかなぁ。今の気分は絶対パンケーキなんだけど。」


「来月もきっとあるよ。好きな方食べなよ。」


毎月一回のファミレスは真千とわたしの恒例になっている。真千は毎回メニューを決めるのに時間がかかって、わたしは窓の外を眺めて待つ。店内にいるからわからないはずなのに、金木犀の香りがして、わたしはやっぱりスイートポテトにしようと思う。パンケーキではなくて、スイートポテトのアイス添え。


「やっぱりパンケーキにする。来月もあることを祈って。」


「よし。じゃあ、注文するよ。」


今回も注文までが長かったけど、目をつむりながら両手を合わせてお祈りのポーズをする真千は無邪気でかわいい。

テーブルの隅にあるベルを押した。



――――――――――




目覚まし時計の音で目が覚めた。白いレースのカーテンを開けて窓を開くと、朝の空気が澄んでいる。窓から手を伸ばすと、庭にある木の葉に届く。深呼吸をすると体の中の一部が新しい自分になるような気がする。


夢の中のわたしはいつも喋ることができる。

もう1年以上自分の声を聞いていない。1年と5カ月だ。夢の中では自然に喋っているけれど、目が覚めると、自分がどんな声だったか思いだすこともできない。


声が出なくなって1年と5カ月――

お父さんが死んでから1年と5カ月だ。




階段を降りると必ずコタツが尻尾を振りながらやってくる。ゆらゆらと力なく、けれどいつも同じリズムで振られる尻尾。

コタツはゴールデンレトリバーの女の子だ。コタツって変な名前。わたしもそう思う。お父さんが決めた名前なのだ。


クリーム色の柔らかな毛が優しい。ゴールデンレトリバーだから体が大きくて、わたしがしゃがむとちょうどコタツと同じ目線になる。

わたしはコタツに抱きつく。抱きついているけれど、抱っこしてもらっているような気持ちになる。赤ちゃんがお母さんに抱かれて安心する気持ちと似ていると思う。

コタツはいつも太陽のにおいがする。


おはよう。


おはよう!おはよう!おはよう!


コタツの焦げ茶色の鼻に鼻の先をつけると、冷たく濡れている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ