序章・第5話『英雄屠り(ヒーロー・ディフィーター)弐』
骨格標本「……」
人体模型「おや、どうされましたか?」
骨格標本「森の中で散歩してたら…」
人体模型「白骨死体に出会ったんですね、解ります」
骨格標本「落ち武者ゾンビにバラバラにされそうになったんだよぉぉぉぉぉぉ」
人体模型「どっちにしろ恐い目に有ったんじゃないですか、紛らわしいですね」
骨格標本「何、この仕打ち…」
さて、この前は邪魔が入ったが改めて俺は『アルマンの森』にギルドの受付嬢と来ていた。
始めた党所は「何で私が…」と散々あわあわパニクってたがが、今は「恐いから帰っても良い?」状態みたいで俺の腕に引っ着いて離れない状態だ。
というか、引っ着きすぎて動き辛い上に戦い辛いんですが。
いや、割とマジで。
それ以上に意外と良い物をお持ちの様で、俺の理性がヤヴァい。
うっわ、更に強く抱きしめてきやがったよぉぉぉぉ!?
狙ってるの!?
狙ってるんだね!?
静まれ、俺の大切な何かぁぁぁ!!
羨ましいとは言わせんぞ?
「シャイニングロケットパンチ・マリオネットチェイサぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
武器を振ろうにも、ついぞ先程お亡くなりにさせたから腕を飛ばすしかない。
肘に分離の方陣を掛け、霊糸紛いに接続させたまま飛ばすと言った無茶苦茶な戦法だ。
単に俺が“骨だけ”だから良い様な物の、普通に生身の体で生きている奴等がすれば大惨事なのは間違いない。
その辺りは霊装も心得ているのか、そんな俺の気持ちに応えてくれている。
実を言うと巨大カブトムシの素材はあの場で武具に鍛えて貰っても別のギルドに奪われそうな気がしたのでまだ異空間の中だ。
状況が状況だ。
何故ああなのかは知らないが、略奪行為をされかねない状況で迂闊に動けば現在世話になってるギルド自体に危険が迫って来る。
もっと言えば俺が所属するギルド『撰定の剱』自体が危うくなるかもしれんが、そうなれば帝が黙っちゃいないだろ。
それはそれで襲撃者が悲惨に思えるが、事を考えれば自業自得には変わりは無い。
けれどもしもそうなった場合には切り札がある、彼女にもある。
何も問題は無い。
あったとしてもばったばったと大立ち回りで薙ぎ倒し、そぉれそぉれと蹴散らせばいいだけ。
降り懸かってくる火の粉は払えば良いし、出てきた芽は摘めば良い。
蒔かれた種だって、鳥にでも啄ばませれば良いだけの話。
ただ、それだけ。
出る杭だって、直ぐに打っちまえば問題無い。
掌を手刀に変えて、霊力と氣力を混ぜた刃をそこに薄く、且つ高密度に、良質に、圧縮・凝縮を重ねて形成させ、それを鞭の様に鋭く、それでいてギリギリ周りの植物達をなぎ倒さない様に手加減をして振り回す。
するとどうだろう、何とバターよりも軽く斬れてしまうではないか。
いや、聖魔銀鋼製の刃の如くと言った方が正しいか。
それ以上に斬られた敵の魂をぶった斬っている様な感触がリアルに伝わってきてる気がしなくもないが、気のせいだと思いたい。
うーむ、我ながら末恐ろしい力を手に入れてしまったもんだなぁ…と現実逃避を試みている。
●●●
暫く移動していると、急に魔物がポップしなくなった。
この森は比較的弱い魔物だけしかいないから近寄らないだけなんだろうが、こうも全く出てこないとなると返って不気味に思う。
薄気味悪くは無いんだか、こう……異様というかなんというか……。
ちょい厳格すぎて逆に近寄り難い(?)て感じだ。
もう少し進んで行くと崖が見えてきた。
良く見るとそこに人二人分の大きさの穴がぽっかりと空いているのが解る。
どうやら妙ちくりんな空気はあそこが原因なのかね?
どうも落ち着かない。
「うう…入る、の?」
「…しかないな」
おい…更に強くとか、貴女はその果実で我が狂戦士の証を暴れさせる気か!?
そういう魂胆なんだな!?
そうなのかよ、どちくせう!?
これだから天然っ娘は…。
「『未来を指し示す、希望の光よ我が眼前に照らし示せ“輝導瞬光”』!」
術を起動させると、五芒星の方陣が浮かび上がりながら淡く輝く純白の球が目の前に現れ洞窟内を照らし出してくれた。
「わぁ…」
照らし出された洞窟内は向き出た鉱物に反射し幻想的な輝きを放っている。
こいつぁ…すげぇ…!
思わず嬢ちゃんが声を漏らすが、可愛いもんだから俺の萌えポイントを激しく突いてきて関心している場合ではないんですけど。
あの、少し放してくれません?
じゃないと俺のエロスゲージがマックス超えちまうぞ。
しっかし、此処はどうも“陽”の『聖域』の感じによく似ている。
遵って未だに魔物が全く出現しない状態である。
どんどん進んで行った先で俺達は大広間へと、到達する。
両サイドには何かを祀るための明かりが幾つも灯っていいて、中央には祠と祭壇が存在している。
と、俺は咄嗟に譲ちゃんの腕を引っ張り、制止を掛けた。
先程譲ちゃんが立っていた場所からまるで”鋭利な刃物で斬られた様な”斬撃痕が軽い煙を立てながら、生まれていた。
「其処で何をしている?」
何処からか、男の声が洞窟内に響き渡って来る。
「あ、あそこ!」
嬢ちゃんが指をさす先――凡そこのフィールドとは場違いな、煌びやかに装飾された恐らく幻想金属で出来てるであろう巨大な扉――に人影が見えるのを、俺はこの目で確認する。
白銀の鎧を纏うそいつは扉の前に移動し、剣と楯を構える。
「貴様等、何処から入ってきた?」
二十代くらいだろう、そいつは吠える様な声で俺達を威嚇してくる。
「普通に。 歩いてたら偶然洞窟を見掛けてな、妙な感じがするんで此処まで足を運んできた次第だ」
「成程な…しかし」
奴の持つ剣の刀身が白く輝いたと思ったら、躊躇せずに振り降ろしてきやがった。
俺達目掛けて飛ばされた斬撃、すぐにサイドに移動して避けたかったが嬢ちゃんが俺の左腕にしがみ付いて離れずにいるため断念。
仕方が無いので、俺は森でしたのと同じく、霊力と氣力を混ぜあわせながら手刀に纏わせそのまま、斬戟でぶった斬る。
「ほう、私の斬撃を斬戟で斬るとは…流石だな。 だが、君達にはお引き取り願おう」
「生憎、俺等は此処まで来てはいそうですかと引き下がるのは性に合わないんでな」
「俺等…って、えええっ!? わ、私も頭数に入ってるんですかぁ!?」
「ん? ったりめーだろ? 他に誰が居るんだ?」
「嫌ですよぉ! それにこの人『聖剣の担い手』のアシュトン・エルヴ=スナートスだし!」
「ふ…この私を知っているとは光栄だね、『探究者』のお嬢さん?」
ふ…とか痛いな。
若さ故、ってか?
「だとしても尚更関係無いな」
「あ、貴女はどうしてそんな事が言えるんですか!? 無謀ですよ!?」
「さぁな」
確かに、剣無しじゃ戦いの範囲は狭まると思うっちまうのが普通なんだが…。
あんま『ヴァルハラの一族』嘗めんじゃねぇぞ?
「『紅きよ、堕ちし魂を清めいざ黄泉へと手向けん“浄化炎”』!」
「――『臨』! 『兵』! 『闘』! 『者』! 『皆』! 『陳』!
『烈』! 『在』! 『前』!」
奴が魔“術”を使用すると同時に印を結び、切る。
「ぬぅ!?」
ぱりん、とガラスが割れる様に早々と“魔力で出来た炎”が割れた。
出鼻を挫かれたそいつは間抜けな声を洩らすも、直ぐに魔“術”を組み直して再び展開してきやがった。
流石は、と言った所か。
確かに、それなりの一般ギルド隊員なら軽く瞬殺できるくらいには実力を持っているみたいだな。
体付きから察するに、魔法と剣技に磨きを掛けている点からして…魔法剣士としての能力に開花していると俺は踏んでいる。
「剣を抜かずとも、魔法だけでも対応できる」というのは、どうやら伊達でもなさそうだ。
その表れなのかどうかは知らんが、“聖”の魔性質を帯びた高火力の魔法を撃ち込んできたが…飽きないな、こいつ。
…………が、どうって事は――無い。
手刀の型を作り、霊力と氣力を混ぜた薄い刃を形成させ……。
「『魔を斬り裂く虚空の理』!戦女神流“機相”の型『霊子斬空念衝』ァァァァ!!」
高密度で構成された刃を、祭壇目掛けて思いっきりぶっ放してやった。
「な、貴様!」
「はっはぁ、ばぁぁぁぁぁかめ!」
それ以上に――雑魚の事何ざ、眼中に無ぇんだよ!
●●●
私ことアイシャ=アルマサスは今、吃驚して声が出せない状況に有ります。
事の発端は、彼女――リティ・クレア=トリード――にあります。
うん、何て言うか…何処かの物語に出てくる様な勇者様、って感じかな?
私と同じ様な歳の女の子なのに…ちょっと雰囲気が男の子っぽい…ううん、少しイケメンな感じの……。
それは兎も角、彼女はこのウルタウルの隣町・ファルナのギルドで登録したばかりの新入りの筈なのにAランクという規格外の実力者という事だったのです。
しかも、納品の品を見る限りそれ以上……ホントに何者なの?
まぁその直後のギルド襲撃を速攻で沈めてくれたのは有り難いですけど……。
で、何故か急遽彼女と一緒に『アルマンの森』に駆り出されてしまいました…うう、何で私が……。
マスターが「これも受付嬢としての修行の内です」と仰らなければ今頃…。
うう、恐いです。
それにしてもリティさん、さっきから強過ぎです。
だって、Aに近いBBBランクの『アルマンの森』の魔物を苦も無く一蹴しちゃってるんだもん。
瞬殺、しかも皆一撃で。
そこで彼女が洞窟を見付けて入りました。
洞窟ですよ?
暗いし、狭いんですよ?
あ、灯りを確保してくれました。
何故か同時に鉱石や晶石が光に反射して七色に…ううん、それ以上に奇麗に輝いて…わぁ…あれ、もしかして…この辺りじゃ希少な『七耀月鉱』!?
うう…奇麗です。
ずっと見続けていたいです――――こんな場所で、且つ状況じゃなきゃ。
暫くして広間に出たは良いけど、何か気持ち悪いです。
確かに“神聖さ”は感じるんだけど、嫌な感じ。
その事を伝えようとしたら何処からか攻撃がきて…咄嗟にリティさんが防いでくれなかったら…どうしよう、遺書を書き忘れてきちゃったよぅ…。
直後に聞き慣れた声がしたと思ったら良く見知った、鎧を来た人が現れたんです。
――いけない!
だから、私は彼女に警告しました。
「この人『聖剣の担い手』のアシュトン・エルヴ=スナートスだし!」
目を付けられたちゃったのは一先ず置いとくとして、それでも尚平然としているリティさん…。
でも駄目…彼の魔性質はっ……!!
案の定、アシュトンさんは魔術を使用してきました。
有り得ないです。
でも、一番有り得無かったのはリティさんでした。
彼の魔術の発動と同じくして彼女が手の形を変えて、変な詠唱を唱えると、私達を囲む様に発火した炎をガラスみたいに割ってしまったのですから!
有り得ないです、本当に!
アシュトンさんはどばどばと高火力の、しかも天使とかが使う様な神級並の魔法をピンポイントで撃って来るけどそれ等も全てガラスみたいに割れていっちゃうんです。
彼女から魔力を感じないのに…何で!?
『大丈夫か?』
『うん…って、なななななな何で『念話』できるの!? あ、魔力無いのに!?』
『あー…確かに。 けど文字通りの『念話』自体は使えるんだからさ、全く問題は無い』
『問題が無い…て、どういう!?』
『それは――――と、説明は後だ。 取敢えず今はこの状況を打破するぞ?』
え?
それ、どういう…。
一気に、不安が襲いかかって来た。
――――でも、そんな杞憂な私の想いは彼女の放った一撃によって一気に吹っ飛んでしまいました。
●●●
祠を祭壇ごとぶった斬る。
と、すると淡い光の球がまるで雪が天に向かって降る様にちらちら、ふわふわと昇って往くではないか。
『有難う』
『ああ…やっと、逝ける』
そんな声が次々と響いて来た。
そして、光球のひとつが俺の前へ出て、人の、女性の形へと変えた。
『この度は私達の魂を解放して下さり、誠に有難うございます』
「どう、いたし…まして」
『ふふ…。 良いのよ、そんなに畏まらなくて』
「貴女…は?」
『――私は聖霊族のひとつ、『森の民』の一族のユミエルです』
魂である所の彼女は、どうやらエルフという亜人種らしい。
その証拠に耳は長く、尖っている。
『私達はこの先にある“聖霊の里”に、元々住んでいたのですが…ある時、里に戻ろうとして此処を通っていた所、突然人間に理由も無しに問答無用で……恥ずかしい話、殺されてしまいました』
「――ひっ!?」
余程の衝撃だったのか、嬢ちゃんの顔が真っ青だ……かく言う俺も、その事実に驚きを隠せないでいる。
「…なぁ……まさかとは思うが…その時、此処はこんな風、だったのか?」
『はい。 異様な胸騒ぎを感じて…此処まで様子を見に行ったんです…そこで――――』
彼女が言い切る前に、消え去ってしまった……。
「お喋りは済んだかい?」
――澄まし顔のクソ野郎の凶刃によって。
「てめぇ…」
「仕方無いだろう? 折角の人柱を解放されちゃあ」
幾らギルドだろうが、やっていい事と悪い事がある。
それ以上に、こいつは俺の逆鱗に触れやがった。
「…………」
「許さない、ですか? しかし、それは仕方の無い事。 我等の“正義”のために!」
正義、か。
――違うだろ?
「『天使降ろし』……んな事を仕出かすために――んな下らなぇ事とために! 聖霊をも! 巻き込んだのかよ!?」
聖霊はこの世界に置いて、天使の産んだ愛し児と呼ばれ最も神聖視される人種でもある。
それを、天使をこの領域に呼び込むために生贄とすれば当然許されない行為である。
禁忌。
俺とて、神の血を引いているいるからこそ解る。
「嬢ちゃん…済まんな」
「え…?」
「――『霊装“疑體”』解除」
全身骨となるが、同時に俺の体を纏っていたエネルギーが、全て還元されていった。
「貴様」
奴の眼が変わる。
そうだ、これは俺達が良く知る…魔物を狩る、眼差しだ。
「…自己紹介がまだだったな。 俺は『ヴァルハラの一族』がひとつ、トリード家元次期当主・現聖霊族スケルトンブレイヴ第一真祖『リティ・クレア=トリード』…今からテメェをぶっ倒す、“勇者”だ!」
無い血を全身にたぎらせながら、俺は啖呵を切った。
●●●
「――勇者、だと!?」
――骨風情が、何を言う。
そんな感情が一気に膨れ上がっていくのが解る。
「はっ、テメェこそ正義の名を騙って命を弄んでんじゃねぇよ。 似非騎士風情が、英雄面してんじゃ、ねぇ」
先に動いたのは、俺。
氣力を全身に循環させながら身体能力を強化し、奴の懐へ潜りこみ、霊子を纏わせた手刀で突く。
が、腐っても実力者。
俺の突きを紙一重でかわすと蹴りを入れてくる。
それを俺は紙一重でかわすが“聖”の魔性質の魔法を流し込んだ剣の刃が俺の脳天目掛けて突いて来た。
昔と比べてかなり体力が落ちているがギリギリでかわして見せ、お返しにと霊力で生み出した高熱の光の刃を脚に纏わせ蹴りいれてやる。
金属の鳴る様な音を立てながらも奴は剣で俺の蹴りを流していく…が、甘い。
もう一発、同じ要領でもう片方の足で蹴りを入れる。
奴はなんとか盾で防いだ様だけど、防ぎきれなかったのか溶断されていた。
だが、俺は此処で油断しない。
蹴りを決めた後、空中で姿勢を直して着地、そして直ぐに再び奴の懐に入り霊力で出来た闇の力を拳に纏わせ殴りまくった。
何故、光じゃないのかって?
実際の所、光よりスピードの概念というものが曖昧なんだ。
『光速』有るけれども『闇速』なんていうものは無い。
光の中で粒子がどんな速さで移動しているのか計算可能だけれども、闇は不 明瞭で未だに解けない不安要素でもある。
けれどもそれだけじゃ俺が選ぶ理由になりはしない。
一番の理由は、“影”にある。
物質に光を当てると影が生まれる。
物が溢れるこの世界では比較的すぐ近くに影ができ易い。
という事は『影=闇』に直結するし、無期限に、それも無限に素早く移動ができる。
寧ろその速さは『光速』をも上回れる訳だから、実質“最速”と捉えられても問題は無い。
だからこそ、“闇”という物は移動する上ではこの上なく便利なのだ。
「ぐうう…馬鹿、な! せ、正義の光が…邪悪な闇に負けるなど…ぶふぉ!?」
交差させてた腕を無理やり解いて、思いっきり…渾身の一撃で持って奴の顔面をぶん殴った。
ぶん殴られたそいつは地面にクレーターを作って、それっきり意識を手放した様で白目を剥いていた。
「おいおい、寧ろ邪悪なのはテメェ等馬鹿共の方だろ?」
やれやれ、こんな奴が正義を騙るなんてよぉ、全く世も末だな……。
「……す、凄い……凄すぎ、る…」
改めて思うが、剣無しでも十分戦えるもんなんだな。
「さ、先へ進むぞ」
俺等は未だに天へ昇る魂と、原因を作った馬鹿を背に、奥へと続く穴の中へと歩みを進めていった。
また何か在りましたら削除&修正していきます。