序章・第4話『英雄屠り(ヒーロー・ディフィーター)壱』
骨格標本「ふう、危うく鑑定に回される所だったぜぃ…」
人体模型「こっちは依然、成仏されかけましたけどね」
骨格標本「――へ!?」
人体模型「ふふ、冗談ですよ?」
王都に向かう前に少し寄り道をする事に決めた俺こと、リティ・クレア=トリードは道中の通過点である『アルマンの森』を訪れていた。
ギルド『撰定の剱』でギルドカードを作ってあるので早速と討伐系と採取系の依頼を数件受けていた。
無論、依頼者が王都やその近郊出身者という条件で斡旋して貰っている。
だから到着する道すがら、少しでも効率良く仕事をこなしておこうと考えた、と言う次第である。
とは言うものの、安易に霊装『疑體』を解く訳にはいかない。
「戦女神流“基”之型・『振抜』」
その手に持つ獲物を振り抜き、敵を次々と屠っていく。
最初はバターの様に斬れていたが、連戦に続く連戦に加え血糊を拭わず、砥がなかったために切れ味が悪くなっている。
水と火と地属性の術でそれは回避できるのだけれども俺は敢えてそれをしなかった。
そして、ばぎゃん、と何とも形容しがたい音を立てて剣は根本からぽっきりと遂に折れたのだった。
連続使用による金属疲労と血に含まれる油による切れ味低下。
「やっと折れたか」
剣と言えどもあまり良いとは言い難い数打ちの剣だ、直ぐに限界を迎える筈だと高を括っていたが、此処までしぶといとは思いもよらなかった。
まぁ、鋳造よりは此方の方が品質は上だからな、長持ちしてしまうのは仕方が無いと言えば仕方が無い。
とはいえ敵は野生の獣、血の臭いに誘われて絶え間無くエンカウントしてくる。
此処に出てくる森は昆虫系を始め植物・獣が殆どで、『カンジャシュの森』とそれ程変わらない。
たまにリトルゴブリンが出てくる程度だが、『カンジャシュの森』にいたマッドボアという突撃砲な猪魔物よりは弱い。
「シャァァァァイニィング…ロケットパァァァァァァンチ!!」
草むらから勢いよく飛び出してきた襲撃者を、腕ごと拳を飛ばし腹部にでっかい風穴を開けてやる。
性格には高熱を発する電撃を纏わせているから穴の周りは赤々と融け掛っていて、尚且つその周りの部位がじゅうじゅうと妙な音を立てて焼き焦げている。
こうなったら最早助からない。
巨大カブトムシ(デッドリーホーンというらしい)はそのまま地面に墜落して行った。
…少し威力を調節しなければ……。
そう思いつつ。腕を戻しながら獲物を亜空間へと収納する。
最近の魔法は便利な物で、それを霊術に置き換えて使用している状態だ。
今回使用したのは無属性の空間魔法『ボックス』の霊術置換版に“整理”の概念を加えた改良?版。
兎も角このでっかいカブトムシ、俺の攻撃には耐えきれなかったのは悔やまれるが、武具として加工すれば良いものが出来るかもしれないな……。
●●●
ゴブリンは燃やして骨に(そのままじゃグロいし)して身に着けていた武具等はそのまま、巨大カブトムシ|(結局出て来たのはあれ一体だけだった)もそのま、狼は血抜きをして皮を剥ぎ、肉を保存し骨は異空間に収納した。
植物も、役に立ちそうな者は物は討伐対象を含めて狩っては必要な物を次々に収納して行った。
食料になる物から、回復・毒(解毒含む)食料になりそうな物を。
前世が前世なだけに、そこ等辺の所はちゃっかりしてる…と、ああ、考えるだけでもむず痒いな…特に恥ずかしさで。
木のてっぺんに登って空を仰ぎ見る、そろそろ日がてっぺんになって来たからここ等辺で引き上げるとするかな?
次に向かう町も近いし。
すぐ様俺は街道に戻り暫く進んで行くと、開けた場所に出る。
町の入口に居た門番にギルドカードを見せると、一瞬顔が渋った様な顔をしたが問題無しとして通して貰った。
通して貰えた、と感じざるを得ないがまぁ有る程度なら大丈夫だろう、と少し固めていた肩の力を少し緩めた。
足早に、ギルドへと歩みを進める。
『聖騎士の盾』
…此処は止そう。
ほら、あれだ…嫌な予感しかしない、うん…そんな感じ。
他にもあったがどれもこれも微妙な感じだったので、これ以上大通りに位置するギルドを探すのは止める事にした。
俺は直ぐに大通りを抜け、宅地の広がる小道へと入る。
『ギルド“探究者”ウルタウル本部』
へぇ…表通りにしては中々どうして面白い……。
周りの風景とは異質さを感じつつ、アンティーク調のドアに掛るリングを二回ノックして開けた。
ドアがドアなら中も非常に凝った作りでそれは一種の異世界に思える。
――バー。
それがこのギルドの第一印象だった。
●●●
『撰定の剱』支部もそうだが、このギルドにも他とは違う何かがあるのかもしれない。
おっかしいな、この期に及んでマスターのやっかみが脳内リプレイを起こし始めてんだが…?
ええい、今はおっさんの自慢話に付き合っている暇なぞ無わ!!
「大丈夫ですか?」
「安心しろ、只の幻聴だ」
カウンターの娘にまで心配させてくれやがって、次に会ったらその顔ぼっこぼこにしてやるからな!
「ま、それはそれとしてマスター、サルパ・ベリースペシャルを一杯。で、嬢ちゃん…鑑定頼む」
俺式収納霊術からギルドカードを渡し、納品するクエストアイテムをカウンターの上に提出する。
「ええっと…『撰定の剱』ファルナ支部・Aランクのリティ・クレア=トリード様でいらっしゃ……ええ!?」
「アイシャ、驚くなら少しボリューム落しなさい」
「うう…お騒がせしました、確かに全て本物です。 保存の仕方も完璧ですので上乗せして百銀・八千銅を入金します…はい」
「ありがとう」
カードを受け取ると、お礼に精一杯のイケメンスマイルをドジっ娘に贈ってやる。
見事に真っ赤になってうろたえた。
「おやおや? ナンパとは、感心しませんね?」
マスターと思しきダンディーで、カール髭が魅力的のおっさ…おじ様がカクテルの入ったグラスを俺の目の前に出しながら嗜めてくる。
「彼女が可愛いのが悪い」
「え…ちょっ…かわ……!?」
耳から湯気とか、どんだけ初なんだ?
「ふぅむ…彼女、暫く使い物になりませんね……所で」
「ん」
くいっと一口、ルビー色のカクテルを含んだ瞬間、マスターが突然訪ねて来た。
「何故このギルドを、ってか? ああ、んなもん気に入らないってだけだ」
「気に入らない、ですか」
あからさまに「我々は世界を守るため、正義の名の元に邪悪な闇を討つ」…云々と、大義名分を誇示してくる様な気分になる。
骨魔物で無くても、あの雰囲気じゃ絶対に近寄りたくは無い。
「『明けない夜は来ない、されども沈まない太陽は無い。 夜の闇は昼の太陽と共にある。 それが世界の真理』…と、家の親父は言ってたぜ?」
「はぁ…ですがその意見は的外れ、という訳でも無いですな」
当たり前だ。
良いも悪いも全て存在する、それが世の中ってもんだ。
「ばーちゃんは『この世に正義は無い。 有るのは必要悪と絶対悪だけ』とも言っていたな」
「成程、確かに理に適っています。 では、参考にさせて頂きましょう」
「……所で」
「何でございましょう?」
もう一口、カクテルを口にに含ませる。
ベリーの甘酸っぱさと、癖のあるサルパのスパイシーな味が合わさって何とも言えない美味しさが口いっぱいに広がっていく。
やはり、俺にはこれが合う。
「…………街の雰囲気が妙な空気に包まれているんだが…気のせいか?」
マスターの表情が少しだけ冷たく変わるのを見逃さない、見逃す訳が無い。
「…此処に来る途中も妙に嫌な視線を感じた。しかも一人じゃない、複数人。今も、だ」
刃が根元から折れた、柄と鍔だけになった剣を投げつける。
「ちっ」
金属特有のきぃん、という音に混じって男の舌打ちをする声が聞こえてきた。
恐らく、俺が入ると同時にドアが閉まる前に素早く入ったんだろうな。
――――面倒くせぇ。
此処には窓が無い、唯一の逃げ場は先程のドアのみ。
けれども厄介な状況には変わりない。
つくづく、面倒な状況だ。
「…何処ぞの馬の骨とも知れん奴が、調子に乗るなよ?」
奴が言葉を発する前に、ドスの利いた声で威嚇してやる。
相手が言うべき言葉を奪って此方から吐いてやる、大抵はこれで相手は言葉を失っちまう。
ま、言ったもん勝ちだな。
「分を弁えろ、三下が」
こういった状況に陥った時は可能な限り、悪役っぽい台詞を吐いてやるのが良い。
目には目を、歯には歯を、悪には悪を、だ。
「――――!?」
陰になっていてあまり見えはしないが、恐らくはこの状況に身構えている筈だ。
「 ほう…身構えるとは随分と余裕だな?」
肘から先を飛ばし、奴の喉元を捕まえ上げる。
「ぐ…が…!?」
苦しいか?
苦しいだろう?
だが、略奪感たっぷりのその視線をずっと晒してきたんだ。
どうせ俺が此処を出た時を見計らって襲うつもりだったんだろう?
残念だったな。
「う…う、で!?」
おっと、嬢ちゃんには刺激が強すぎたか。
俺は喉を絞められ苦しがる男を引っ張り、腕を接続する。
「あ、アレン!?」
おい、こいつ譲ちゃんの知り合いかよ。
「ぐ…くそ!!」
「おいおい、暴れんな……うっかり絞殺しちまいたくなるじゃないか」
「ぐ……」
「『聖光の翼』のギルド員ともあろうお方が、どういうつもりですかな?」
光に晒され鎧に白い翼の紋章が刻まれていた彼の姿に、俺は呆れ返るしかなかった。
何か在りましたら、削除&修正していきます。
最近、某モンスターを捕まえて戦わせたりするゲームの新作のお陰でストック作りをついつい忘れてしまいます(汗)