序章・第3話『我が骨生、未来への帰路に就く・弐』
骨格標本「暇で暇で、しょうが無い」
人体模型「元から宛てにされて無いからな……校内での肝試し以外は」
それにしても、どうやらあのイケメンの名はウェルニと言うらしいな。
まぁ、あの様子から見て実力も充分だし大丈夫だろう。
既に昨日俺が遭遇した事件のレポートは作成してある。
今はあの時点で彼女達を連れて行かなかったのかという後悔をちょっぴり感じているものの、生まれたばかりで死ぬわけにはいかなかったのと、どうせサバイバル訓練にもなるんじゃね? という気持ちが半々。
心残りははたして彼女等は“料理ができるのか”と言うくらいか。
魔法を駆使すれば少なからずとも獲物であろう獣を仕留める事は朝飯前だろうな、と予測する。
だから一日で飢えで衰弱する事はまず無いだろう。
「なぁ、嬢ちゃん?」
マスタールームへ向かう道すがら、おっさんが尋ねてくる。
「嬢ちゃんは止めて欲しい、俺的にはせめて“いかした兄ちゃん”と呼んで欲しい所なんだけどな」
「変な事を言うな」
「世の中にゃあ女物の似合う可愛い男子だって居るんだ、格段変な事じゃ無い」
「…そう言う物か?」
「そう言うもんだ」
あー、確か…数ある英雄神の一族『ポイャウンペ』家にも一人居た記憶があるな。
ま、随分昔の話だし、それに会ったのは一度だけだ。
今どうしてるか、なんて言うのは全く知らんし、それこそ野暮というものだ。
「さ、着いたぞ」
目の前には最高級の魔桐を使用した、特に装飾も余り無いクラシックな年代物のドアがある。
良い素材を、良い具合に地味っぽく仕上げてある事から好感が持てる。
マスターがそのドアを開けると、これまた地味っぽく仕上げた、小ぢんまりとした書斎らしき内装だった。
「どうだ? 派手に地味だろう?」
……何と無く、おっさんの言いたい事が解った気がす
る。
「取敢えず、適当に座ってくれ」
言われて地味にアンティーク調の椅子に座る。
「そいつは一部高級素材を使用して作って貰った一品物だ。 それなりに値は張るが、一般人の手の届かない範囲じゃないからな」
そりゃまた、結構な趣味をお持ちで。
「けど、嫌いじゃないぜ? ちょっとした地味さを追い求めるってのは」
「はっはっは、そうだろ? いやぁ、趣味が合うってのは良いもんだねぇ」
……俺の場合は“あまり派手すぎず、地味すぎず、ギリギリの調和が魅せる奇跡”が好きなだけなんだがな。
「――――で、本題何だが…お前、『骨』だな?」
急に切り替えて来たな。
まぁ、何時までもお喋りとはいかんからな…そっちから話を切り出してくれたのは有り難い。
「ああ…『骨』だな」
別に隠す必要は無い。
「昨日、生まれたばかり」
「…そうか」
「悪さ、と言える悪さといやぁ…盗賊をシバき倒した後身ぐるみを失敬した程度か」
「何だそりゃ?」
「幾ら何でもな…生前の記憶がある手前、『骨』とはいえ“全裸”に対する羞恥心からは逃れられないんだよ、実際」
「そういうもんなのか?」
「そういうものさ」
「そうかい」
「で?」
「何だ?」
「俺の処遇はどうする?」
此処からが一番聞きたい部分だ。
「一応ギルドには登録しに来た、とはいえ亜人じゃなく、『魔物』だ。幾ら敵性じゃないと弁解しようが『人権』なんて無いに等しい。 糾弾されたらにっちもさっちも、どうにもならん」
「…じゃ、聞くがお前は死にたいのか?」
「いや? この時代の世界を旅して周りたい」
「そうか。けどな、お前を今此処で殺したとしても俺には得が無い」
「何故だ?」
「そりゃぁ…“霊力を所持している”時点でお前は『精霊』または『聖霊』に近しい存在になっているからな」
精霊とは、その殆どが霊力の塊である魂魄体で構成されている亜人種だ。
で、それに近しい…と言う事は俺はただの『骨』じゃないという事になる。
更に突っ込むと、俺は『自身の骨を依り代の肉体として現世に顕現している』状態、なんだとさ。
今まさに衝撃的すぎる事実が発覚した瞬間だ。
全く、無い心臓が危うく飛び出す所だったじゃないか。
●●●
「この後どうすんだ?」
「此処を一旦離れるにしても、まずはあいつ等と合流して証言をしなきゃならんしな」
「ん、何かしたのか?」
「昨日の盗賊に関してな。実際解決したのは本人である俺しかいない訳なんだし」
「初耳だぞ?」
「さっき話した筈だ。盗賊からくすねた装備品を着てると」
「…そうだったか?」
大丈夫か、このおっさん。
「で、その盗賊は?」
「ああ、今ジャンとクリスがイケメンに報告してる、それだ」
「――――は?」
「ま、そういうこった。じゃ、報告してくるぜ?」
「成程、そう言う事か」
おっさんと俺は、一足先にブリーフィングルームで報告を行っていたジャンとクリスと合流し、レポートと共に俺の証言の元、そこに行き着いた経緯を、説明をした。
「しかし、その件にアルザフ伯爵が関わっていたとは…だが、これで今まで掴み損なっていたあの豚の尻尾を掴んだんだ。 切られる前に攻めるぞ、後は芋蔓式よ! ウェルニ、今直ぐギルド員を派遣して森に居るだろう盗賊共をとっ捕まえて来い。 序に解放された奴隷達の保護も同時に頼む。それから『帝』に連絡を入れて違法奴隷オークションの会場を洗い出して壊滅させて来い。 それと同時に出品される商品の保護、合法奴隷商人と連携して照らし合わせてくれ。 俺は『バラック魔法学園』の学園長と掛けあって行方不明になっている生徒の発見を報告する」
「は、了解です。 おい、酒臭い木偶の坊共っ、『カンザシュの森』に居る盗賊を連れて来やがれです、同時に囚われていたと思われる者達の救出、及び保護。 間違っても手を出さねぇでくださいね? 出した奴から心臓を抉り出してやります。 とっとと行きやがれでございます、馬車馬の如く働きやがれ、駄目親父共が」
なんか忙しくなってきたな。
ま、俺とジャンは森の方を担当した方が良さそうだ。
「事件を解決した本人が動いてくれなきゃ本格的に解決したとは言わないからな。 マスター、俺達三人は今一度森に行って事件解決に尽力を注いでくる」
「そうしてくれると助かる。此方も帝達と攫い屋に連絡を入れといたから安心して行って来い」
「攫い屋?」
「主に違法な奴隷や人質を保護を目的としてに帝の一人が立ち上げた組織だからな、お前が思っている奴等とは違う」
成程。
詰まり私的目的で動いてる奴等とは違う、と。
『蛇の道は蛇』…中々、余程優秀な帝のいらっしゃる事。
「良し、ジャン、クリス…俺達もそろそろ現場に向かおう」
「僕は兎も角、クリスさんは…」
「ランク的にも上だが、実力と生前の年齢的に俺の方が上だ。 年の甲なのだよ、ジャン君?」
「現段階では私の方が年上なのだが」
煩いですよ、どうせまだ骨零歳ですよー、だ。
俺は来た道を戻り、森へと向かう。
馬を走らせ、元は盗賊のねぐらだった洞窟へと向かう。
一応何かあると困るのでマーキングを予めしておいたお陰で直ぐに目的地に着いた。
消えた馬は兎も角馬車自体には全く損傷は無い。
単純にでかいからと、大人数を転移で飛ばせないから。
数人ずつちまちまと転移しても体力と魔力が足りなくて時間もかなり掛かってしまう。
ではどうすればいいか。
予め牽引用の馬を此方で用意して目的地に向かい、その馬で馬車を引っ張っていけばいい。
今回借りた馬は先祖に神馬スレイプニルの血を引く、驚異の牽引力と速さを誇る半神馬だから問題は無い。
俺等は既に目的地に着いていたギルド隊員と連携し拘束されたままの盗賊及び豚伯爵を馬車に閉じ込め、ギルドへと再び飛んで行った。
因みに昨日助け出されていた彼女等は洞窟の奥にある食堂らしき場所に有った料理で食い繋いでいた。
まだ転移は使えないか、使えても短距離なのか…その後助け出されて、一旦ギルド『撰定の剱』支部で保護した後、学園に引き取られていった。
●●●
今にして思えばマスターは帝の一人の部下らしく、彼らとのパイプが無かったら例え掴めていたとしても動くに動けなかったらしい。
マスターを通じてウェルニが連絡を入れた後、帝達は直ぐに集まり、闇オークションを壊滅させた。
素早く、それも迅速に。
帝 達が会場を潰している間、攫い屋の面々が現存している奴隷を全員攫いだした上で保護、それからギルドに待機させて置いた奴隷商人達にそれぞれ引き渡し事件は終息へと向かって行った。
それからなんだが、会場に居た者達は以前から問題になっていたと思しき貴族や違法な奴隷商人、違法な攫い屋が存在していたらしい。
全員生け捕りらしかったから後程彼等は悪くて極刑、良くて強制労働者か奴隷として一生涯を送らなければならないだろう。
家はお取り潰し、残された家族は国で持って保護と援助を受ける事になる。
犯罪を行えば罪を犯した者の責任であり、残された者達には関係が無いのだ。
そうした迫害を防ぐための処置であり、アフターケアでもある訳だからな。
そこは流石、と言った所か。
……家族ぐるみで関わっていたとなれば話は別だが、“やむなく”関わらざるを得なかった者達の処遇に関しては難しいが、何とかなるだろ。
いや、してくれなきゃ困る。
まぁ何にせよ、ひとつの事件が俺の証言を起点に終わりを迎えられたのは嬉しい事だと思う。
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「これからの事なんだが…」
ギルドに登録し、世紀の大事件も解決し、漸くと落ち着いてきた頃、俺はジャン、クリスを呼んで今後の事に着いての話を切りだした。
「俺はこの後この国…サントリアの王都の『アナスタシア』に向かおうと思う」
「私は自身の所属するギルドに戻る故、一旦『カンタレラ』の街に向かう」
「僕もクリスさんと一緒にギルドに戻るから…リティさんとは反対の方角だから此処でお別れだね」
「そうだな。ま、これも縁だ、二度と会えないって訳じゃないからまた何時か会えるって」
ジャンの頭を優しく撫でてやる。
顔を赤くして妙に可愛い声が漏れていた時はお持ち帰りしたいぞ、と一瞬思ってしまったのは秘密だ。
そんなこんなで彼女等と最後の一時を過ごし、俺等三人は目的地こそ違えど、それぞれの旅路へと発っていった。
また何かありましたら削除&修正していきます。