序章・第0話『BORN BONE』
骨格標本「人体模型君?」
人体模型「何さ?」
骨格標本「俺さ、生前ドナー契約しててなぁ?」
人体模型「…それで?」
骨格標本「臓器幾らで売ってくれる?」
人体模型「断る」
今方、俺はとある森で目覚めたばかりだ…正確には何処ぞへふらふらしていた俺自身の意識が戻った、が正しい表現なのだが。
起きて早々、体の節々がやけにすーすーするので、体を見る。
序でに手を見る…。
「ほ…ね……?」
俺の眼に映るのは関節剥き出しの人白骨、しかも妙にリアル過ぎる程の…。
「へ…? 骨? …俺、の!?」
慌てて立ち上がりわき目も振らずに駆け回る、水のある場所を目指して。
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どれ程走っただろうか、走れども走れども疲れる気配が無い。
というより、呼吸しているという感覚が実感できない。
肺に酸素を送り、二酸化炭素を吐きだす行為…或いは生理現象。
正確には呼吸を居た時に新鮮な空気が肺に送られてくる感じ、そして並行して動作する腹筋運動。
前者よりも後者の方の違和感が大きい。
――――骨、だからか?
そんなことよりも、だ。
水、または鏡…自身を映せるものなら何でもいい、ただ確認したいだけなんだ。
俺が骨だけの状態になっているのは事実だろう、それでも確認したいのだよ。
途中盗賊みたいな奴等に出会ったが、俺を見るなり顔を青くして向かって来るもんだから勢い余ってぶっ飛ばして身ぐるみ剥いで、それ着て…まぁ金目の物と丁度良い武器も手に入ったから良しとするか。
しかも、今身に着けているフード付きローブは耐寒・耐熱効果の魔方陣が編みこまれ、更に素材は防刃な一品だもんだから丁度良かった。
これでただの骨魔物よりはマシになったと言えよう。
多分、あの盗賊共が何処ぞの商隊を襲った際に手に入れたと考えていいと思う。
動きは素人に僅かに毛が生えただけでどっこいどっこい、判断力はそれ以下。
核さえ破壊してしまえば非力のリビングデッドな骨に恐怖する事から、普段から陰から非力且つ無抵抗な人間ばかり相手にしてきたのだろう。
思い返してみれば、確かに下種さが滲み出ていた様にも感じられる。
男は斬り捨て、女子供は売り飛ばし、金目の物は全て奪う。
地域周辺の情報や護衛を売りにして商談を強引に押し付ける奴等ならまだ良い、あれはあれで掘り出し物があったりするし、食料の確保もチップさえあれば保障してくれる。
が、そういった野党ではなくさっき俺がぶっ飛ばしたのは典型的な略奪者だ。
…衛兵辺りに差し出せばそれなりの報奨金は手に入るかな?
……取りあえず村や街に寄る前にこいつ等のアジトを突き止めて殲滅するのが手っ取り早いな。
何にせよ、今の俺に必要なのは他者からの信頼だ。
さぁて名も知らぬ盗賊共よ…精々、それを得るための足掛かりとして踊ってくれよ?
●●●
そろそろ日が暮れてきた頃、俺は木々の枝と枝の隙間を縫う様に、音を立てずに移動する。
因みに、とっ捕まえた奴等は後で身柄を引き取らせるために猿轡を咬ませ、安全な場所に隠しておいた。
衣類を身に纏っているお陰か、頭部が髑髏以外誰がどう見ても旅慣れた冒険者の井出達だ。
近くに川が流れていたので恐る恐る覗き込んだら様になっていたのは言うまでも無かった訳だが。
お膳立てはその辺にしといて俺は洞窟を捜す。
生前の知識で、微かな魔力で聴力を強化し(器官が無いのに出来たのが不思議だが…)周辺の音を拾い上げる。
探知は使わない。
近くに魔法を心得ている生者が居た場合、俺が討伐されかねないからだ。
「――――――――!?」
「――――――――!!」
聞こえてきた。
ノイズ交じりだが、捉えた。
状況からしてどうやら奴隷の輸送馬車を襲撃したのだろう、多人数の女――声質からして少女だろう――の泣き啜る声と、乱暴に声を駆り立てる男共の声…うむ、確かにか弱き乙女を泣かせるとは下種の極みだな。
声を頼りに、もう少し集中させる…無い筈の心臓の音が聴こえてくる…様な気分だ。
…見付けた!
視力を強化し(うーん、光る眼って意外と…妙にシュールだなぁ…)、木々の向こう側を透視する事数十分、洞穴と思しき岸壁に開いた穴に橙色の明かりらしき光が視えた。
音源は多分あそこからだ。
暗殺者の如く、身体強化を自信に施しつつ素早く、存在感を無くし無音で一直線に移動する。
骨だけだから身軽だ…余計な臓器や筋肉に到るまで完全に削ぎ落されているから、軽装備でも風の様に軽い。
骨も一般の骨魔物よりかなり丈夫だし、G(圧力)で内部が潰れないから幾らでもスピードが出せる。
ただ、衝撃波の被害を抑えなきゃならんのがネックだけど…。
そんな訳で、調子に乗り過ぎた結果、走り出した序盤の被害が甚大だったものの、僅か数分で目的の場所に着いてしまった。
木の上から様子を伺う。
(んー、見張りは二人…うへぇ、かなりの手足だぁ…せめて雑魚だったら良かった物を、迂闊に近付けねぇな。しかも…)
雰囲気からしてお偉方の護衛に近い…うーむ流石、手慣れてやがる。
参ったなぁ…。
こうも隙が無さ過ぎると、不用意に近付こうものならアウトだ。
幾ら言い訳をした所で、魔物の戯言と一蹴される所か、討伐物だ。
目覚めて早々、こりゃ厄介なもんに出会っちまったもんだ。
姿が見えなくなる魔法とか、都合の良いもんなんて、勿論無い。
有ったら有ったで何かと面倒だが。
こう、じっとしてる間にも捕虜が傷付いていっている。
隠密に解決したいのに、甘爪を噛み続けなけりゃなんねーのは耐えるに忍び 無い。
ちっきしょーめ。
存在に気付かれたら一巻の…存在…存在……?
――あ。
…今更悔やんでた所で失った時間は戻らない。
仕方が無い、果報は寝て待っても来ない、「急がば回れ」・「考えるよりまずは動け」だ!!
兎に角俺は“今の状態”を維持しながら、木から降りる。
――顔色一つ変えない。
恐る恐る歩みを進めてみる。
――変化無し。
早足。
――まだだ。
駆け足!
――通り抜けた。
よし、成功だ。
洞窟内では僅かな音でも反響する恐れがあるので、慎重に足を運ぶ。
無論、徒歩だ。
急いては事を仕損じる、故に慎重に進めなければ。
聴力強化をほんのちょっぴり下げる。
流石に洞窟内では大音響となるので出力を下げないと、キンキン煩いのなんの。
鼓膜が破けたらどうするのさ…骨だから無いけど。
暫く進むと、一番問題のフロアの前に到着した。
両手足に枷を嵌められ、猿轡を噛ませられた少女達の姿が見えた。
……酷い怪我だな、青痣と赤い筋…中には軽い火傷を負ってる者も居る。
首謀者は此処には居ないのか、彼女達以外誰も居ない。
っと、誰か来た様だな。
さて、第二の人生初の(個人的な)仕事に取り掛かりますか。
●●●
ああ、もう何だろう…。
久し振りの休日で買い物に来ていたというのに…急に眠くなって近くのベンチで寝ていたら……なんて最悪なんだろうな。
さっき殴られた所が痛い…あたし、この後どうなっちゃうんだろうな?
ねぇ、お願い…助けてよ…?
「どうですかな、伯爵殿?」
「うむ…これは中々」
…何あの豚、気持ち悪い。
何処かで見た様な…ってう…豚の癖に特上の肉を食うために品定めする目でこっち見ないでよ、うげぇ、ダストスライム臭い、何したらこんな悪臭放てるの!?
「ぅう…」
怖い、臭い…。
下半身が緩みそう…。
「ぐぎゅ…」
もう、オークでもゴブリンでもいいから誰か助けて…。
「――ほねぱぁぁぁぁんち!!」
●●●
いきなりで悪いが、我慢の限界だ。
あのねっとりとした目、生前から喰らってたから解るが、腐臭を同時に撒き散らしてる…汚物が、純真無垢な柔肌に触れるな!!
「――ほねぱぁぁぁぁんち!!」
相変わらず存在感を無くしながら素早く、汚物の真横に回り込んで、こめかみと脇腹に向かって“衝撃”を加えた堅い一撃を同時に浴びせる。
衝撃を逃しきれずにぶっ飛ぶ汚物は、盗賊の案内役と思われる男を巻きこんで壁にめり込んだ。
へ、ざまぁ。
そしてそのまま、息を吐く暇も与えずにすかさず周りにいた取り巻き共も追撃で気絶させ地属性の術で簡易な鉱石交じりの岩鎖を作り上げ拘束する。
そして存在感を元に戻す。
「ふぅ…さて、と」
全くこんな子供に“魔封の枷”を使うなんて…中々質の悪い奴等だ。
取りあえず、鍵を奪うのが面倒さかったんで解錠の術で…よし外れた。
後は、奥に居る残党をとっ捕まえりゃ終わりだ。
ま、それでも…。
「お嬢ちゃん達、もう大丈夫だ」
サムズアップで彼女達の身の安全を知らせてやる。
「キモ」
「おぅふ」
別に?
歯を光らせるのがいけないだなんて、誰が決めたんだ!?
「まぁ、何だ。 取りあえず残りの奴等をちょいとぶっ飛ばしてくるわ」
これ以上会話すると立ち直れない気がする気がしたので一旦忘れる為に、狩りをおっ始める事に決めた。
「おぅるぁぁぁぁ! 御用だ、御用だ!てめーら、とっとと縛に就けやがれ!!お縄を頂戴ぉぉぉ!!」
「うわぁぁぁ、骨魔人だ」
「へっ、誰が待つか…アーーーーッ!!」
「ぎゃふん!?」
「くそ、ジョンがやられた! 衛生兵、衛生兵!!」
おいコラ、二人目!
そして、懐かしいな三人目!?
そしてジョンって誰だよ!?
その後は云々、少しカオスったが、無事に全員お縄に就きましたとさ、とさ。
何かありましたら削除&修正します。