怠惰な魔王
魔王が主人公です。勇者セリフなし。
閑散な、しかし人を惑わし死へと導く深き森に囲まれた黒き城。城は、魔王のおわす闇の城であった。王座に座る魔王たる存在は、その城の謁見室で、聖剣を抜いた勇者をただ静かに待っていた。
ぼんやりと空虚を見つめる。灰色の美しい石の壁に、紺の垂れ幕や床に敷き詰められた僅かに色の違う紺の布。絶妙な色加減で、どことなく背筋が凍る薄ら寒さを出していた。
恐ろしい程にこの城は静かだが、それはいつものことであった。
自分以外に誰もいない謁見室で、銀に装飾された漆黒の王座に座って待っていた。勇者の到着を、待っていた。
憂鬱そうに王座に凭れ、世界から消えゆく強大な力を持つ存在をずっと感じていた。
気力など、この世界に誕生した時からなかった。思考することさえ煩わしかった。
物語のお決まりのように青年が聖剣を抜き勇者が誕生し、強大な力を持った多数の魔族を討伐して勇者は何回も魔王の所に来るだろう。魔王はいつも憐れんだ目で勇者を見た。
魔王は魔王だからこそ知っていた。これに終わりなど無く、永久に繰り返されるだけだと。
初めて繰り返した時、初めて神の思惑に感付いた時、どれほどの絶望を感じたことだろうか。今となっては思い出せない。いや、思い出そうとする気力さえもなかった。ただただ気怠く、何もせずに勇者を待った。
魔王は、王ではない。正確には人間の認識している王とは違う実態だ。
魔族や魔獣などの魔のモノ達にとって、魔王の命令は絶対である。本人が嫌がっても魔王が命令すれば、すんなりと実行する。しかし、それだけだ。アレらは魔王に忠義を誓っているわけでもないし、仕えているわけでもない。魔王は絶対命令のリモコンのような存在で、アレらは命令以外はオートなのだ。つまり、人間の虐殺も、人間への嫌味ったらしい程までのゆっくりとした速度のいたぶった侵略はアレら個々の意思と行動であり、アレらと魔王は全くもって関与していないのである。
神は、勇者が魔王を倒した時を切り目に世界、文明や人間、動物何もかも巻き戻している。世界の時間軸の進行はそのままに、他の存在全ての時間軸を巻き戻す。魔王は、なぜか肉体の時間軸だけしか巻き戻されない。
神は、人間の、世界の住民の一定以上の発達を嫌った。だから、巻き戻す。なんて傲慢。なんて身勝手。
しかしだからといって世界の住民に逆らう術はない。選択肢すら、ない。神とはそういう存在だ。神とは、世界だ。
魔王は、今日も勇者を待つ。この遊戯の終幕を夢見て。