生ものVS私
みなさん。初恋の味はどんなものでしたか?
きっと、思い思いの味を想像されたでしょう。
今回のお話は、その味の中でも誰も想像したことのない味になるお話です。
「もげーもげばー」
意味不明。
今日中にこなさなければならない課題を前に、私は倒れこんだ。目の前にはなまず。ついこの間、弟が川から拾ってきたものだ。弟がいうに、拾ってくださいの紙と共に、ダンボール箱にはいっていたそうな。んな訳あるかい、と内心突っ込みつつ見やる。
「ねー。あんた何か言いなさいよぉ。何見つめてんのさ」
期限が迫ってることもあり、焦りからどうしても口調がきつくなってしまう私。
なまずは私の言葉を無視し、潤いたっぷりのぱっちりお目めはさっきと変わらず私を映す。
微かに沈黙。
「もげもげーごぎゅるりー♪」
何故だかにんまり笑うなまず。
音符つけんな!!
心の奥底で突っ込んだ。ここまでされるとどうしても対抗したくなる。
「……むねちゅあーぬぬにゃおぬばだー」
ヤツに劣らずナイスな台詞。
と、心の底でほくそ笑みながら、私はさらに顔を変形させる。
なまずに負けず劣らず変顔である。今の自分は流石に見たくない。だって……不細工だもん。きゃは☆
星を飛ばしても、大丈夫な年齢である。一様これでも大学生。すると、今まで沈黙を守ってきたなまずが口を動かした。にやりとニヒルな笑い。
「ぬばぁーん」
自分の鼻面に生暖かな感触。生臭さが私の鼻腔を、ビームライフル並に貫いた。
「ぷぎゃあっっ!!」
私は今日、初めてなまずを体験しました。
やつは、私の鼻をその暖かでぬめぬめの唇でソフトタッチに接吻すると、満足そうにべろりと自分の唇を嘗め回した。
今更ながらに激しく後ろに引き下がるものの、もう遅い。
この事実はもう、変わらないのだから。
私は現実を忘れ、自暴自棄になってなまずを頭に乗せた。台所へ走りだす。
「おかーさーん。わたしーなまずとラブホ行くー」
「!!」
母は凍りつき、なまずは満足そうに、欠伸をした。