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女たちの腹の中

技術指南

作者: 海山ヒロ

長年つきあっている男がいる。もうすぐ結婚もするだろう。

 彼を想えばこころが温もり、落ち込んでいるのならそのけして小さくはない身体を抱きしめてあげたくなり、わたしの大好きなその整った手をみるたびにどきりとする。そういう男だ。


 でも最近していない。


 なぜかと問うまでもなく、わたしが避けているから。

 性欲がないわけでも、ましてやそれを嫌悪しているわけでもない。性欲とは本能の証であり、それを頑なに認めようとしない人間など、愚かでしかないと確信しているし、それを避けて書こうとしない物語など、読むだけ無駄だとさえ思っている。

 ただ、苦手なのだ。

 決して美しいとは思えないこの身体を愛しい男にさらすのが。

 その手に触れられるたびあげる自分の声を聴くことが。

 そこにゆくまでの見つめあいが、終わった後の間が…………。

 それらの恥ずかしさや気づまりを凌駕するほどの快楽を得られないことが、そもそもの原因であるかもしれない。

 もうひとつ思い当たることがある。

 人一倍、いや、十倍くらいその行為と苦手であるそれらの事柄をひっくるめて欲し、熱中したがっているわたしだが、その行為を分かち合うほど他人を信頼できいのだろう。

 たとえ愛しの彼であっても。


 それで、SMや「無理やり」されるということに惹かれている。

 手も足も括られ、それを受け入れるしかない状態。抵抗しきれなくとも、それは自分のせいではない。だって、無理やりされているのだから。だから安心して快楽にひたれる。ともかくも、そう想像している。

 快楽をもとめての行為だから当然、SMのなかでも汚いとしか感じられないスカトロや、痛みをともなう人体改造などは、わたしの守備範囲外である。正直それで何が得られるのか、わたしにはわからない。他人のたのしみにまでけちをつけるつもりはないが。


 彼と、彼以外ともしなくなったのは、つまらなくなったから。かもしれない。

 「女」を十数年やっていれば、彼らのしてくることなど、大方予想できてしまう。女体のつぼを熟知し、突き抜けるような歓びをもたらしてくれる男にも、非常に残念ながらお会いしたことがないし。

 まず彼ら男は、唇と舌、手のひらと指の使い方を知らない。

 己のものであり、少々離れた所からでも使えるこれらの武器を使いこなせない男が、セックスが巧いわけがない。

 彼らに本能はないのだろうか?

 これらのパーツの使い方は、習熟が必要ではあるものの、雄の本能である程度はあたりがつくはずである。なにせ、我々雌は、最初から雄の喜ぶ場所を知っているのだから。


 まずくちづけから始めねばならない。セックスの導入部であるキスの重要性を認識する男は、残念がら少ない。まぁわたしのサンプルは10人分程度だが。

 唇で探る。

 最初はふれる程度で優しく。つぎにゆっくりと密やかに唇を動かしながら、そのやわらかな間食、甘さを存分に味わう。その間に、まぁこれはキスする前でもよいが、相手の身体をぴったりと、境目が分からなくなるくらい己の身体に押しつけ、この世には自分たち二人しか存在せず、この身体を離せば死んでしまうというくらいきつく、激しく抱きしめる。胴周りの異常に太い相手ではしょうがないが、大抵、女の腰は男のそれより細い。その細い腰を片手で抱き寄せ、自分の腰に密着させねばならない。ある程度関係の進んだもの同士、もしくは今日は決めるぞと思っているのであれば、自分のかたくなったものを、彼女のやわらかな部分、身長差を考慮すれば腹だが、できれば彼女を抱え上げるなどして、あとでいれる股の間にでも押し付けよう。

 片手はこれで埋まるとして、もう片方の手は、彼女の後ろ髪をつかんで顔を上向かせてしまおう。

 ひとは顔をあげると自然に口をあけるものだし、開ければその隙に、ねっとしとした口腔内を味わいつくせるし、舌もおもうさま絡ませられる。

 髪をつかむ効用はそれだけではない。

 女の髪と言うものは、つねに最新の注意をはらい、手入れされているものである。それをやや乱暴にあつかうことで、攻める男は精神的優位に立て、実情はどうあれ、女は自分が弱くなったという気分にひたれるのである。なにより、髪にふれるという行為そのものが、ひどく官能的である。


 まぁこの段階で、まともな女ならば目じりや頬は染まり、紅色に濡れた唇からもれる息はあがっている。それを十分確認したうえで、次のステップにあがろう。


 唇をさらにゆっくり動かし、桃色の彼女の耳朶や、上向かせ、あらわになった首筋にかじりつくのだ。かそけき声のひとつもあげさせればしめたもの。後はつんととがった胸でも、震える腰でも、好きなところを思うさま楽しむがいい。

 その際気をつけるべきことは、たったふたつ。 じっくりゆっくりやることと、けして止めないこと。

 その行為に慣れていない助成、慣れていることを表したがらない女性は、途中でかならず止めたがる。その小さな柔らかい手をあなたの手に重ね、首をふり、涙に潤んだ目で「やめて……」と言うだろう。が。決して止めてはならない。組み敷かれた彼女だって、それを望んでなどいないのだ。


 さて。ここまでやれば、あとは自分が昇天する前に目指す場所にいれ、思う存分抜き差しして楽しんでほしい。この段階でまだ濡れていないようであれば、それは「女」ではない。わたしならばここまで情熱を傾けてくれるのであれば、そんな行為でも受け入れてしまうだろう。相手にたいする愛情の有無など、この際関係ない。数代前までさかのぼる仇敵であろうが、禿げていようがデブだろうが元女であろうが血がつながっていようが。



 男性諸君。大切なのは集中力だ。そして相手と自分を喰いつくす熱情を、燃やすことである。それで落ちない女などいない。

 己をさらすのが苦手なわたしだが、ぜひ彼にこうして挑んで欲しいものである。

 そう思いませんか、女性のみなさん?



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