プロローグ
「妹さんの余命は残り半年です」
医者の言葉が脳裏に響き渡る。動揺する俺に対して余命を突き付けられた妹の柚葉はやけに落ち着いていた。
「なんとかならないんですか?」
「ここまで腫瘍が転移しているともう手遅れかと」
首を振る医者。
どうしてこうなったんだ。
昨年両親を交通事故で無くした俺たち。親戚もおらず、頼れる人もいなかったおれたち兄妹は二人だけで生きていくことになった。
二人して学校が終わった後にバイトを入れ、少ない収入で細々だがなんとかやっていけていた矢先だ。
柚葉がバイト先で倒れた。そして現在に至る。
病室に戻り、柚葉の顔を覗いてみる。
「……っ柚」
「何も言わないでお兄ちゃん」
声を絞り出して何か言おうとすると柚葉に遮られた。
「何か言われると同情されたみたいで惨めになる」
柚葉の言葉に胸が締め付けられた。
「なんで私なの? 私なにか悪いことでもした?」
ボロボロと大粒の涙がシーツに零れ落ちる。
俺はなにも言わずに柚葉の頭を抱きしめた。
声のない嗚咽が病室に響き渡った。
病院から程近い公園のベンチ。倒れ込むように座り込み、項垂れる。
妹の一大事に何もできない無力感とやるせなさでぐちゃぐちゃになりそうだ。
これから柚葉は徐々に弱っていくだろう。俺はその姿を見ていられるだろうか。
誰か。このクソったれな現実を変える力を俺にくれないだろうか。
『その願い聞き届けた』
どこかしらか声が聞こえてきた。
「誰だ!」
辺りを見渡してもそこには誰もいない。
『ここだよ』
声のした方を見るとそれは俺が持っていたスマホからだった。
そこには見知らぬvtuberのような少女が映し出されていた。
「なんだこれ」
『なんだとは失礼だな。わたしはこれでも女神なんだがね』
女神。大丈夫かこいつ。自分を神様に例える痛いやつか。
つーかなんで勝手にこんなもんがスマホに表示されてるんだ。
『君は本当に失礼なやつだな。言っておくけど君の思っていることはわたしに筒抜けだよ。自称女神の痛いやつだと思っただろ』
マジかよ。心の中を読んできやがった。
「じゃああんた本当に女神様なんですか?」
『そうだと言っているじゃなないか』
女神。てっきりファンタジーの世界の話かとばかり思っていたがどうやら違うらしい。
「女神さまが俺のようなやつになんのようですか」
『君。なにか困ってることがあるんじゃないのかな?』
「それは妹のことですか?」
『それそれ、わたしがここで妹さんの病気を治して長生きできるようにしてあげるって言ったら君はどうするかね?』
雷に打たれるとはこのことだ。
それは先ほどまで成しえなかったことであった。
「なんでそれを知ってるんですか?」
「わたしは女神だよ。それくらいのことなら君の心の中を覗き見ればわかることさ」
そうか。心が見えるんだったな。そうだったな。
「本当に妹を。柚葉を助けてくれるんですか?」
「もちろん本当だよ。でもただではできないな。女神はすべての人に平等だからね」
つまりなにか対価を支払えってことか。
「その通り」
「なにをすればいいんですか?」
「よくぞ聞いてくれました。君にはこれから勇者になってもらい異世界で魔王を倒してもらいます」
「勇者。異世界。魔王?」
いきなり致死量のファンタジー要素がぶち込まれた。
ライトノベルなどでそういう世界観があることは知っていたが本当に実在してるのだろうか。
勇者になって異世界の魔王を討伐してこい、そうすれば妹を助けてやろう。
魔王がどれだけの存在かわからないが難易度が高すぎやしませんか?
『なにを言っているんだい。君だけで魔王を倒せだなんて一言も言っていないだろ』
なんだ、仲間がいるのか。それならまだ希望がある。あるよね?
『心配せずともいいさ。君以外にも勇者となる者たちを集めている。無論その者たちも君と同じくどうしても叶えたい願いを持っている者たちばかりだよ』
「そうですか。それなら心強いです」
俺以外にも勇者となって願いを叶えたいと思う人がいるのだな。
「分かりました。女神様お願いします。俺を勇者にしてください」
『かしこまった。それではこの画面に表示されているYESのボタンを押してくれ』
画面にでかでかとYESとNOの文字が現れた。
俺は迷うことなくYESのボタンを押した。




