聖女を理不尽に責め立てて追い詰めなければならない私にとっては幸いではあるのだけど、ソレイユローズは何かと私に話しかけてくる。平民の彼女に貴族の友人がいないとはいえ、私みたいな悪役令嬢しか話し相手がいないのは不憫な話だ。
だが、聖女が民衆の支持を得るには、孤立してもらっては困る。ソレイユローズがなるべく多くの生徒と触れ合えるように、昼食はともに王立魔法学園の食堂で取ることにしよう。
「ソレイユローズ、今日は食堂で一緒に昼食にいたしましょう」
「あの、ヴィラネッタ様、お誘いはとても嬉しいのですが」
嫌いな相手から誘われても「嬉しい」と受け止めるとは、平民ながらよくできた子だ。しかしまさか私の誘いを断ろうというのか。
「何か問題でも?」
ソレイユローズは気まずそうに答えた。
「教会からいくらかのお金は持たせていただいているのですが、王立魔法学園の食堂の代金を支払えるほどは持ち合わせていなくて」
何ですって。
「お財布の紐、固しおすなあ(ケチ臭いなお前)」
いや、ここはソレイユローズを責めてもしょうがない。ケチ臭いのは学園のほうだ。
私の「貴族ことば」に縮こまってしまったソレイユローズに「少しお待ちなさい」と言い残して、私は廊下に出た。こんなつまらないことで私の計画が邪魔されてなるものですか。
「影」
私が誰にも聞こえない小声で影を呼ぶと、近くで私に背を向けて立っていた男生徒がこちらを見ずに頷いた。もちろん私も彼には視線を向けず、視界の端で捉えただけだ。
「今すぐに学園の食堂を成績優秀者は無料にして」
私が小声でそう言うと、男生徒は私を一瞥もせずに歩き去った。
影というのは王室が用意した連絡員で、緊急に何か王室に伝えたいときには今のように伝言を頼むことができる。
しばらく待っていると、別の男生徒が通りがかりに私にだけ聞こえるように「通りました」と言って去って行った。私が伝言を頼んでから三分も経っていない。影が何人いてどういう風に動いているのか、私には分からない。
ともあれ、これで成績優秀者の食堂利用は無料になった。聖女のみ無料にすると不公平感が出るおそれがあるが、成績優秀者が対象なら文句はないだろう。まあ、そもそも貴族がそんな細かいことに目くじらを立てるとも思えないが。
私は教室に戻り、再びソレイユローズを昼食に誘った。
「ソレイユローズ、今日は食堂で一緒に昼食にいたしましょう」
ソレイユローズは困ったような顔をしている。それはそうだ。ついさっき断ったのに、なぜまた誘われるのかと疑問に思っていることだろう。
「あの、ヴィラネッタ様?」
「ごめんなさいね、ソレイユローズ。私も知らなかったのですが、我が校の食堂は成績優秀者は無料で利用できるそうなのですよ。成績優秀でこの学園に入学したソレイユローズは、もちろん無料で利用できますわよ」
私が虚実織り交ぜた説明をすると、ソレイユローズは思案顔になった。
「そんな設定ありましたっけ」
「設定?」
設定とは何なのか。ソレイユローズは私の言葉を聞いてはっとし、にっこりと笑って言った。
「いえ、そうなのですね。ヴィラネッタ様とお食事ができるなんて、嬉しいです」
もう少し驚くかと思ったけど、そうでもないみたいだな。私と食事できることを喜んでいるように見えるし、平民女は何を考えているのか分からないな。
それでは食堂で食事をし、食事作法の不備を叱責してソレイユローズの心を折るとしましょう。