「おや、誰かと思えばヴィラネッタではないか」
そう声をかけてきたのは、ジュエルストン王国第一王子クリアストーン・ヴィヴァルディア、私の婚約者だ。白の制服が昼の光を浴びて眩しい。隣には暗緑色の制服を着たエメラルド・ガーディスもいる。
「これはご機嫌麗しゅう、クリアストーン王子」
私は貴族の作法で王子にお辞儀をした。ナイスタイミングでございます王子。
王子がいつも通りに中庭に来てくれたので、ソレイユローズを王子に紹介することができる。
「こちらは私の同級生のソレイユローズです。ソレイユローズ、こちらは第一王子のクリアストーン様です」
私がそう紹介すると、先程の「貴族ことば」で俯いていたソレイユローズが顔を上げた。両の瞳が潤んでいる。私が平民を中庭に呼び出して苛めていることが王子に伝わっただろうか。
ソレイユローズは王子に対してしどろもどろになりつつ挨拶をした。
「クリアストーン王子、存じ上げて、いえ、その、お目にかかれて光栄です。デブリー村のソレイユローズと申します」
平民だから挨拶もまともにできていないが、ソレイユローズの可愛らしさなら悪印象には繋がらないだろう。
「家名がない。ふむ。君が成績優秀で入学したソレイユローズだね。先ほどの新入生代表挨拶は見事だった」
王子はソレイユローズの言葉足らずな自己紹介をうまく飲み込んだようだ。「平民出身の」とか「聖女の」と言わずに彼女の努力と成果を口にする。私の婚約者の良いところをまた見つけてしまった。
「ああ、平民出身で、聖女の天恵を持った生徒が入学したって噂になってたな」
王子の気遣いを台無しにしたのはエメラルド・ガーディスだ。騎士団長の息子で、クリアストーン王子の幼馴染であり護衛でもある騎士候補生だ。情報によれば女生徒にも男生徒にも人気らしいが、私はこの無神経さに呆れるばかりだ。
「平民出身の私が、聖女の天恵を授かったということで、こんな立派な学園に通わせていただけることになって、えっと、その、恐縮です」
ソレイユローズはそう言いながら小さく縮こまってしまった。エメラルドが余計なことを言わなければ、ソレイユローズはこんなに畏まらなくてもよかったのに。
私はソレイユローズの背中から手を回し、彼女の細い肩に手を置いて、少しだけ力を込める。そして彼女の耳元で「貴族ことば」を言った。
「気ぃ使いのソレイユローズらしい、謙虚な態度どすなあ(卑屈でイライラするぞお前)」
するとソレイユローズははっとして胸を張り、王子の目をまっすぐ見て言った。
「聖女として、この国に役立てるよう、精一杯頑張るつもりです」
そんなソレイユローズを王子は優しい表情で見つめていたが、しばらくして表情を引き締め、私に向かって言った。
「ところで、ヴィラネッタは彼女と何を話していたのかな?」
王子はソレイユローズの目元が濡れていることを見逃さなかったようだ。ナイスでございます王子。
私は逆に、王子が何も気づいていない前提で返答する。
「平民出身の彼女は基礎化粧品を手に入れるのも難しいそうで、この王立魔法学園での生活において恥ずかしい思いをすることのないように対策を考えていたところです」
「ほほう」
王子の碧眼に冷たい光が混ざったように見えた。私の言っていることが本当なら、なぜソレイユローズが涙を流しているのか。私の言葉は見苦しい言い逃れ聞こえないだろうか。
「ならば王家からあまり高級すぎない範囲で化粧品を見繕って彼女に届けさせよう。聖女はこの国にとって重要な責務を負うのだ、王家からの援助があってもいいはずだ」
王子が聡明で助かる。
聖女が責務を果たすためには王家の血を引く者との結婚が必要なのだが、そのことを当事者が知ってはならない。純粋な愛で結ばれる必要があるのだ。
王子と聖女の出会いは悪くなかったと思う。