学園生活の送り方などの説明を一通り聞いたあと、新入生は大講堂に移動させられた。新入生歓迎式が行われるらしい。
大講堂に行き、一年生に割り当てられた区画に座る。二年生と三年生もそれぞれの区画に集まって来ている。
教師が近づいてきて、私の隣に座るソレイユローズに話し掛ける。
「事前に手紙で知らせた通り、今日の新入生挨拶、よろしく頼むよ」
ソレイユローズは緊張した面持ちで頷いた。
「はい、頑張ります」
どうやら首席で入学したソレイユローズは新入生代表として挨拶をするようだ。緊張のためか、気の毒なくらい顔が強張っている。
悪役令嬢としては、平民ごときが貴族の私を差し置いて挨拶とは何事だという言い掛かりをつけなければならないのだろうが、ソレイユローズがどれくらい努力してきたかは聞いているし、実際のところ彼女は首席で入学したわけだから、それをとやかく言うのは自分の品格を落とすことにほかならない。
「ヴィラネッタ様?」
ソレイユローズが心配そうに私の顔を見ている。いや、ソレイユローズが私を心配する理由が見つからないのだが。
ここは「貴族ことば」で皮肉たっぷりに送り出してやろう。
「えらいお役目任されはりましたな。ソレイユローズしかおらへんかったいうこと、分かってるえ(分不相応な大役だな。消去法でお前しかいなかったんだろ、分かってるぞ)」
ソレイユローズは、まさかこんな皮肉を言われるとは思っていなかったのだろう。目を丸くして驚いていたが、やがて落ち着いた口調で先ほど教師に言ったのと同じ台詞を言った。
「はい、頑張ります」
式典が進み、いよいよソレイユローズの出番となった。
「首席入学生、ソレイユローズより、新入生代表挨拶」
大講堂にざわめきが広がる。そこかしこから「聖女」という言葉が聞こえてくる。どうやらソレイユローズが聖女の名であることは周知らしい。
今後のためにも、ソレイユローズの新入生代表挨拶は成功してほしい。私は拳を握り締めた。
しかしまあ、蓋を開けてみれば私の心配など杞憂に過ぎなかった。
ソレイユローズは、堂々と胸を張り、希望に満ちた眼差しで、王立魔法学園に通える名誉を語り、未来への希望を語った。
文句の付けようのない新入生代表挨拶に、割れんばかりの拍手が会場に鳴り響いた。聖女が民衆に支持される未来はそれほど遠くないように思える。
しかしその会場の興奮を、在校生代表挨拶は容易く塗り替えてしまった。
「生徒会長、クリアストーン・ヴィヴァルディア第一王子より、在校生代表挨拶」
もう、登壇する時点で拍手である。私の婚約者、どれだけ人気者なんだ。
「素晴らしい新入生代表挨拶のあとで在校生代表挨拶をするのはとても緊張するのだが」
そう語り始めたクリアストーン王子の在校生代表挨拶は、王族に相応しい、格調高く、聞く者の心に深く染み入るものだった。
ソレイユローズの新入生代表挨拶も素晴らしかったが、やはり王族の人心掌握能力は凄まじいものを感じる。
式典が終わったところで、ソレイユローズが興奮気味に話し掛けてきた。
「ヴィラネッタ様、私の挨拶、どうでしたか?」
まさか感想を求められるとは思わなかったが、悪役令嬢としては「大したことなかった」と言うべきだろうか。
「立派なご挨拶どしたなあ(ご立派な挨拶でしたね)」
これは「貴族ことば」で中身のない挨拶でしたねという皮肉である。心にもない感想だが、ソレイユローズには悪印象を与えておかなければならない。
ソレイユローズは私の皮肉を聞いて、背筋を伸ばして固まってしまった。不思議な反応だな。
「どうしまして?」
ソレイユローズは慌てて言い繕う。
「い、いえ、第一王子様の挨拶に比べれば、平民の挨拶なんて比べるのもおこがましいと言われるかと」
何を言っているんだこの子は。
「あれは貴族の中でも飛び級です。自分を卑下するものじゃありませんよ」
言いながら思ったが、その飛び級の第一王子とソレイユローズを出会わせないといけない。
悪役令嬢というのは、なかなか忙しいのだな。