「ところで王子、何かご用でしょうか?」
私はソレイユローズの隣に座るクリアストーン王子に問うた。
ここは王立魔法学園の食堂である。私とソレイユローズの食事中に、この国の第一王子が何の用もなく話し掛けてきたとは思えない。
「ああヴィラネッタ、お前に生徒会に加わってもらうように言いに来た」
王子は実に単刀直入に用件を告げた。断る選択肢はないようだ。
それはそうと、王子と私に挟まれているソレイユローズの手が止まっているな。
「王子、貴方と私に挟まれていては、ソレイユローズは食事もままなりません。生徒会に加わるのは構いませんが、条件をひとつ出してもよろしいでしょうか」
「何だ?」
王子が簡潔に問い返してくる。私も簡潔に答えよう。
「ソレイユローズも生徒会に加えてください」
「分かった」
王子は即答すると席を立った。
王子が立ち去るのを見届け、ソレイユローズを見ると、食事を口に運ぶ姿勢で固まっている。
「そういうわけで、ソレイユローズも生徒会に加わることになったから」
私がそう言うと、ソレイユローズはカタカタと震え始めた。怯えているようにも見える。
「わ、私が、生徒会、ですか」
ソレイユローズは生徒会を魔物が巣食う洞窟だとでも思っているのだろうか。
「そんなに怖がらんと、可愛らしいお人やねえ(そんなに怖がるなよ、ビビってるのかお前)」
するとソレイユローズは悔しさを紛らわすためか、慌てて否定した。
「いえ、怖いとかじゃないです。私なんかでお役に立てるのかどうか不安で」
首席で入学したソレイユローズが役に立たなくて、誰が役に立つんだ。
「よろしゅうおしたな、謙虚で(わざとらしい謙遜うぜぇ、自己評価が低いぞお前)」
どうやら「貴族ことば」が堪えたようで、ソレイユローズは俯いてしまった。
おっと、ソレイユローズを生徒会に加えるのは目的あってのことだ。万が一にもソレイユローズが断ったりしないように意図を説明しておこう。
「生徒会に加われば、王族や貴族との交流の機会も得られるわ。その経験はソレイユローズの今後に役立つはずよ」
ソレイユローズは顔を上げると、笑顔を見せた。だが空元気に見える。
「はい、頑張ります」
何事にも前向きなソレイユローズにしては乗り気ではなさそうなのが気になるが、ともあれ生徒会に加わる気になってもらえたからよしとするか。
考えてみれば、平民出身のソレイユローズにとって、王族や貴族との交流は気が重いのかも知れない。
放課後になり、私とソレイユローズは生徒会室を訪れた。
豪奢な扉をノックして入室する。
「失礼します」
「おう、来たな」
そう言って私達を迎えたのは生徒会長席に座るクリアストーン王子だ。王子の斜め後ろには護衛のエメラルドが立っている。
生徒会室にいるのは、あと二人の男生徒だ。
「初めまして、エズクロシー公爵家長女、ヴィラネッタです」
私は手短に自己紹介した。そしてソレイユローズにも自己紹介を促す。
「は、初めまして。えっと、デブリー村のソレイユローズと申します」
すると二人の男生徒から「おお」という感嘆の声が漏れた。さすがに聖女の噂を生徒会が知らないわけもないか。
蒼の制服を着た男生徒が立ち上がる。高身長だが線が細い。優男という感じだ。神経質そうな印象を受ける。
「私は三年のサファイア・クロムウェル。クロムウェル公爵家の次男だ。この学園では図書委員、生徒会では書記を務めている」
次に自己紹介をしたのは黒の制服を着た男生徒だ。黒髪に黒い瞳は、この国には珍しい。背は高くなく、顔立ちは幼い印象を受けるが、どことなく影があるようにも見える。
「僕は二年のオニキス・ヴェイル。生徒会では会計を任されているよ」
生徒会にはもう一人いるはずだが、姿が見えないな。
「もう一人来ていないが、私も改めて自己紹介をしておこう」
王子が立ち上がって自己紹介する。
「私はジュエルストン王国第一王子クリアストーン・ヴィヴァルディアだ。生徒会長ということになっている」
ことになっているって、生徒会長でしょうが。
「そしてこちらが私の護衛でもある」
王子が斜め後ろのエメラルドに自己紹介を促す。
「俺は三年のエメラルド・ガーディス。王子の護衛ということで、ついでに副会長をやらされてる」
「やらされてるとは何だ」
王子が苦笑いしながら応じる。軽口を叩けるくらいの仲なのだな。
その時、生徒会室の扉がノックもなしに乱暴に開いた。
「ごめん、遅くなった」
そう言って入室してきたのは赤の制服を着た男生徒だ。この学園で赤の制服を着ているのは唯一人。
「遅いぞ。今、自己紹介をしているところで、残るはお前だけだ」
クリアストーン王子が言うと、赤の制服の彼は自己紹介をした。
「ああ、俺はルビーストーン・ヴィヴァルディア。二年だ」
ジュエルストン王国第二王子ということは言わないのか。ともあれ、第二王子に自己紹介しておこう。
「初めまして、ヴィラネッタ・エズクロシーです。こちらはソレイユローズです。よろしくお願いします、ルビーストーン王子」
「初めまして、ソレイユローズです」
私とソレイユローズの自己紹介を受け、ルビーストーン王子はかっかと笑って言った。
「この国を継ぐのは第一王子の兄貴だ、俺のことは気軽にルビーストーンと呼んでくれればいい」
そういうわけにもいかないだろ。
ルビーストーン王子は豪快に笑ったあと、前屈みになってソレイユローズの顔をまじまじと見つめた。女性の顔を凝視するとか、どこの育ちだ。
「おお、君、可愛いね。生徒会に入るのかい。一緒に働けて嬉しいよ」
何だこいつ。クリアストーン王子と違って、軽すぎる。
「それじゃ、生徒会の仕事の説明をするね」
会話に割り込んできたのは黒の制服のオニキス・ヴェイルだ。いつの間に背後に立っていたのか。心臓によくない。
「生徒会の仕事は主に三つ。ひとつは学園の風紀取り締まり。いじめや不正行為の調査をしたり、遅刻や欠席、制服違反者に注意したりする。次に、学校行事の企画と運営。新入生歓迎式、文化祭、武闘祭、舞踏会、卒業式とかだね。それから、予算管理や申請書類の承認、各委員会の取りまとめなどの書類仕事だね」
なるほど。新入生歓迎式も生徒会で企画と運営をしていたんだな。
蒼の制服のサファイア・クロムウェルがオニキスの説明を補足する。
「生徒会長、副会長、書記、会計という肩書きはあるが、実際には臨機応変にいろいろな仕事をこなすから、肩書きは特に気にしなくていい」
つまり、全員が庶務ってことか。
「仕事は山積みだけど、俺達の力を合わせて乗り切ろうぜ」
ルビーストーン王子が妙に嬉しそうに拳を突き上げる。
俯きがちなソレイユローズが小さな声で何かを呟くのが聞こえたような気がした。
「ブラックすぎる」
ブラックというのが何なのか、私には分からなかった。