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梟閣下の宵嫁  作者: 辺野 夏子


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6/7

 二人きりで過ごした夜が明け、蒼月は名残惜しげに彼女の頬へ触れた。


「俺の霊力があなたの中にあれば、向こうも警戒して近寄ってはこないだろう」


 昨夜のことを思い出して、綾羽は恥ずかしそうに目を伏せた。蒼月はそんな綾羽を愛おしそうに抱き寄せて、耳元で囁いた。


「用意をして、篠宮として迎えに来る」


 そうすれば呉竹家がどんなに渋ろうと、綾羽を連れ出すことができると言う。


「わかりました。両親の墓に……今のうちに参っておこうと思います」

「そうするといい。……一度出てしまえば、戻ることはかなわないだろう」


 綾羽は瞳に涙をにじませながらその言葉を胸に刻み、一人里への道をくだった。


 肌にはまだ昨夜のぬくもりが残り、袖口からのぞく宝珠は淡い光を帯びている。だがその色は、昨日までの透明に近い水色ではなく、深みを増した蒼へと変わっている。


「綾羽……」


 杖をついた曾祖母が、鋭い声で彼女を呼び止め、綾羽はびくりとした。


「お前の元に、旦那様はいらしたか」

「……は、はい」


 宝珠を見せろと言われ、綾羽はしぶしぶと手を差し出した。


「おお……!」


 曾祖母のしわがれた声が震え、乾いた手が綾羽の腕を食い込むほどに掴んだ。


「ひ、ひいお祖母様……」

「その宝珠の色。……お前、子を宿したのだな」


 低く放たれた声に、周囲が一斉にざわめき立つ。居並ぶ親族たちが信じられぬものを見るように視線を注ぐ中、綾羽は思わず胸元を押さえた。


「ま、まだ……わかりません」

「いいや、宝珠の色が変わった──それこそが、お前の中に別の力あるものが宿っている証だ」


 でかしたぞ、と言われても、蒼月との逢瀬を隠しておくつもりだった綾羽は喜ぶことができない。綾羽は昨夜、呉竹の家に見切りをつけたあとだったからだ。


「綾羽が……子を……宿した?」


 曾祖母の肩越しに、様子を窺いにやってきた沙代理の顔色がさっと変わったのが見えた。


 みるみるうちに嫉妬の炎が燃え広がるかのように、沙代理の髪の毛がぶわりと逆立った。頬が引きつり、べったりと紅を塗った口元は歪んでいる。


「あり得ない……。神に選ばれたのは、私なのに……!」


 綾羽は足がすくみ、その狂気をただ見守ることしかできなかった。曾祖母はそんな沙代理に目もくれず、綾羽に向けて冷たい声音で言い放った。


「綾羽。その子は呉竹の跡取りとする。……だが――産んだのは沙代理とする」

「……!」


 鋭い突き刺すような言葉に、声にならぬ呻きが喉に詰まった。異を訴えかける視線が届かぬまま、曾祖母は綾羽に背を向けた。


「綾羽を離れに閉じ込めよ。出産までは誰の目にも触れさせるな」

「かしこまりました。……さあ、こちらに。体を冷やしてはなりませんので」


 綾羽の腕が強引に掴まれ、足を取られるようにして引き立てられる。


「ひいお祖母様、私は……!」


 綾羽が連れていかれる様子を、沙代理がじっとりとした瞳で見つめていた。


「綾羽が……懐妊……あいつの子が呉竹の跡取り? そんなもの、私が許すものですか」


 声はしだいに低く、呪詛のように濁っていく。


「必ず……だめにしてやる」


 嫉妬と憎悪に満ちた呟きは、誰にも届かぬほどか細かった。

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