008 - ゆーのす -
008 - ゆーのす -
僕が大怪我をして15日経った。
療養していたコヴァーン家では沢山のメイドさんに囲まれて過剰な程お世話された。
全裸に剥かれて身体を拭かれたり、排泄のお世話までされた時には恥ずかしくて死にそうになった。
僕はそんな感じでまったりと過ごしていたけれどヌコーニ様は襲われた事によるトラウマで一人で居る事に恐怖を感じるようになってしまった。
ゴンザレス様によると学園での警備体制を強化したいらしくてしばらく授業を休む事に・・・。
「・・・痛くない?」
僕の寝ているベッドの横でヌコーニ様が尋ねる、その上目遣いは破壊力が凄いのでやめてほしい!。
「もちろん痛いですよ」
「・・・うぅ・・・ぐすっ・・・」
痛いと正直に答えたら泣き出したよ!。
「何でヌコーニ様が泣くんですか?」
「だって・・・シーアさんが私のせいで・・・」
「ヌコーニ様のせいじゃないですよ」
毎日のようにお部屋に訪ねて来るヌコーニ様は今までと違って随分と大人しい。
僕としては気を遣われるよりはいつも通り我儘令嬢していて貰った方が話しやすくて助かるのだけど・・・本人はまだ気持ちの整理がついていないようだ。
あまりにも居心地が悪かったのでヌコーニ様に頼んでみた。
「僕は変に気を遣って貰うよりいつもの元気なヌコーニ様の方がいいなぁ・・・」
「そう・・・できるだけ頑張ってみるわ・・・」
コヴァーン家で療養を始めて20日が経った。
ようやく自力で歩けるようになったしこれ以上甘やかされたらダメ人間になるとゴンザレス様に直訴して学園の寮に戻って来た。
ヌコーニ様も元気になり事件前と殆ど変わらないわがまま令嬢に戻った。
僕の実家には10日ほど前にコヴァーン家から学園を経由して連絡した筈なのに両親からは何の音沙汰も無い、改めて酷い親だと思う。
そう思っていた矢先に学園の寮長から家族との面会通知が来た、明日父親が会いに来るらしい。
「・・・」
「お父様・・・」
面談室に現れた父親は僕の事をまるで汚いものでも見るような目で見下している。
「・・・家庭教師を付けて学園まで通わせたのに傷物になって価値が無くなるとは何の冗談だ!」
クソ野郎の第一声は予想以上に酷かった!。
「僕のせいではありません」
「口答えするな、役立たずのお前に用は無い、平民になるのだからもう学園に通う必要は無いぞ、傷物でも嫁に貰ってくれる商会を探してやるから決まり次第嫁げ!」
「いやちょっと待ってよ!、仮にも娘が大怪我したんだから他に何か言う事ないの?」
「・・・」
こいつにはもう何を言っても無駄みたいだ。
「・・・見損なったよクソ野郎!、今まで育ててくれた・・・のはメイド達か、育てる金を出してくれたのは感謝する、でもうちの総資産からすればそんなの端金だよね、今すぐ僕の籍を抜いて縁を切れ!」
流石に驚いたのか、ようやく僕の目をまっすぐに見た。
「何を言っているのだ!」
「まだ僕はお前の娘だぞ、もし僕がここで暴れて学園に迷惑をかけたらどうなるかなぁ、商売がやりにくくなると思うけどいいの?」
ばきっ!
「あぐっ」
怪我してる娘を殴ったよこのクソ親父!。
「もういい分かった、お前とは今日限り縁を切る!」
「はいはい・・・元気でね知らないおじさん!、知らないおばさんにもよろしく言っておいて」
バタン!
・・・
・・・
ぽろぽろ・・・
「ぐすっ・・・ひっく・・・」
がちゃ・・・
僕が泣いていると面会室の隣に隠れていたコヴァーン家の執事さんが入って来た、泣かないと決めていたのに涙が止まらない。
「シーア様・・・」
「僕の両親は予想以上にクズだったよ・・・」
元父親との面会が終わるとゴンザレス様の対応は早かった。
コヴァーン家と縁のある貴族家から僕の実家に養子縁組の話が持ちかけられたのだ。
学園で成績上位の少女が居ると聞いた、大怪我をして貴族令嬢としての価値が無くなり困っているのなら子供が居ない我が家へ養子に出す気は無いだろうか・・・と。
僕の元両親は大喜びだったそうだ、相場を超える準備金を要求されたけれどコヴァーン家が全部出してくれた。
話をした翌日に僕は上級貴族オースター家の籍を抜け、下級貴族ユーノス家の娘となった。
ユーノス家はゴンザレス様の妹、カヴァーニ様が裕福な商人と恋愛結婚して家を出た時にコヴァーン家が持つ余っている爵位を譲られて出来た家だ。
「オースター家には家名を伝えたのですが・・・相手側も執事を通した事務的な手続きでしたので・・・」
「僕の事は何か言ってなかったです?」
「・・・」
どうやら元実家から失礼な事を言われたらしい、ユーノス家の執事・・・プリジェールさんの目が泳いでいたので遠慮なく言って欲しいと伝えると・・・。
「非常に態度の悪い執事でして・・・物好きな下級貴族に厄介者をくれてやった、傷物だが上級貴族の血筋だ感謝しろ・・・と」
予想通りだ、おそらく態度の悪い執事というのは僕の元実家に長く仕えている執事長の事だろう。
「プリジェールさん、僕の元実家に代わって無礼を謝ります・・・ごめんなさい」
「いえ、お嬢様に謝っていただく事はありません!」
ユーノス家の奥様・・・カヴァーニ様は身体が弱くて子供が産めないらしい、それを承知で結婚した夫のハンニヴァル様とは相思相愛、とても仲のいい夫婦だ。
僕をオースター家から引き剥がす為の偽装・・・書類上の養子縁組という話も理解してくれている。
でもユーノス夫妻からは諦めていた子供、しかも欲しがっていた娘が出来て嬉しいと言われた、遠慮しないで本当の娘になってくれてもいいのよと言われた時は思わず涙が溢れてしまった。
お言葉に甘えようかと心が揺れたのだけど貴族の娘になると将来結婚して子孫を残さないといけない。
僕の身体は女性だけど中身は40歳のおっさん・・・男に抱かれるのは絶対に無理だ!、だからこの話は保留にさせて貰った。
たとえ僕が結婚しないでユーノス家が絶えても爵位は元々所有していたコヴァーン家に返されるらしいから問題無いそうだ。
僕が大怪我をしてから25日経った。
左目は見えなくなってしまったけれど息苦しくて愛の無いオースター家と縁が切れて僕は浮かれていた、明日から久しぶりに学園に顔を出すのだ。
寮の自室、鏡の前で革製の眼帯を付ける、これは僕がデザインしてコヴァーン家お抱えの革職人さんに作って貰った試作品だ。
「ふふっ・・・思ったよりかっこいいな」
くるっ・・・
鏡の前でポーズをとる・・・僕の中で眠っていた中二病魂が目覚めてしまうじゃないか。
「ククッ・・・我は闇の使徒・・・我が左目に宿りし・・・」
「・・・様」
「この角度もかっこいいかも、腕をこうやって・・・」
「シーア様!」
「ぴゃぁ!」
鏡の前ではしゃいでいると背後から突然声を掛けられた・・・慌てて振り向くとコヴァーン家の執事さん・・・ジーノ・オシーリアさんが立っていた。
見た目は50代前半くらい、長身で鋭い眼光、懐に暗殺道具を仕込んでそうな佇まいが渋くてかっこいい。
「ジーノさん・・・」
「ノックをしたのですがお返事が無いようでしたので心配になり入らせて頂きました」
「寮の入口には警備兵さんが居たと思うけど」
「・・・」
「いや何か言ってよ!」
「私は気配を完全に消せますので」
「もしかして忍び込んだの?」
「そうとも言いますね」
しれっと恐ろしい事を言い始めたよ!。
「部屋の扉には鍵が掛かってた筈だよね」
「開錠は執事の嗜みにございます」
「そうなんだ・・・」
「頼まれておりました予備の眼帯と新品の制服をお持ち致しました」
僕と少し雑談をしてジーノさんは窓から出ていった・・・ちなみに僕の部屋は4階だ!。
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