007 - おそわれてしにかけた! -
007 - おそわれてしにかけた! -
お茶会から10日程経った、相変わらず王太子殿下は駄聖女と仲睦まじい、ヌコーニ様はお父様から計画を知らされて吹っ切れたのか殿下の存在を無視し始めた。
周りの人達からはヌコーニ様が殿下に対して愛想を尽かしたという噂と殿下に捨てられたという噂が半々・・・コヴァーン家とニードロップ家の情報戦が激化しているようだ。
そんな政略や情報が飛び交う中で僕とヌコーニ様は意外と平穏な学園生活を送っている。
「さぁ皆さんお食事に行きますわよ!」
「「「はい、ヌコーニ様!」」」
お昼になり僕達は食堂に向かっている。
ここ数日の間にコヴァーン家の取り潰しや処刑の噂、更にはヌコーニ様が駄聖女をいじめているという噂が派手に流れたから更に取り巻きが減って5人になってしまった。
対照的に駄聖女は常に取巻きに囲まれている・・・少し前までは僕達もあんな感じに見えていたのか・・・ちょっと恥ずかしいな。
「ひそひそ・・・」
「まぁ・・・なんて事・・・」
「・・・ねぇ、聞いた?」
廊下を歩いていても周りからひそひそと噂話が聞こえてくる、ヌコーニ様は少し寂しそうだ。
もうすぐ食堂・・・というところで学生に混ざって廊下に佇む一人の男が僕の目に入った。
教官か学園関係者かな・・・無意識に僕はヌコーニ様を庇うように2人の間に割って入る、なんとなく嫌な感じがしたからだ・・・。
男の横を通り過ぎようとしたその時、懐から光る物を出すのが見えた。
「ヌコーニ様っ!」
「きゃっ!」
僕はヌコーニ様に抱きついて男に背を向ける。
ざくっ!
背中が熱い・・・斬られたかも?、僕はヌコーニ様を突き飛ばして叫ぶ。
「刃物を持ってる!、ヌコーニ様逃げて!」
一瞬戸惑ったヌコーニ様が背中を見せて逃げ出した、それを追いかけようとする男を見て標的はヌコーニ様だと確信する。
僕は男の腰に抱きついて引き留めようとした。
前世の僕は武術を習っていた事がある、男の手首を捻り押さえつけようとしたけれど力や体格の差があり過ぎて振り飛ばされそうになる。
「このっ・・・離せ!」
ざくっ!
「っ・・・」
男は手に持った刃物を振り上げて僕の腕や太ももに突き刺した・・・痛い!
「あ、僕死ぬかも」
少し離れた所で立ち止まったヌコーニ様が刺される僕を見て悲鳴をあげている、まだ男がその気になれば襲える距離だ。
「何で逃げないんだよぉ!」
激痛を我慢して男の首に腕を回す・・・前世の僕なら締め落とせたのに力が足りない!。
男が僕の顔を掴んだ、太い指が視界に入る・・・。
ぶしゅっ・・・
ごっ!
「ぐっ!」
男の指が僕の左目を潰すのと同時に渾身の力で蹴り上げた足が男の股間に直撃した。
蹲って小刻みに痙攣する男とその横で呆然と立ち尽くす僕・・・周りには生徒が大勢集まっていた、誰かが呼んだのか向こうから教官や警備兵が走って来る。
立っていられなくなって思わず膝をついた・・・腕や足は血まみれだ、左目も尋常じゃなく痛いけど触る勇気が無い。
「シーアさんっ!、いやぁぁぁ!」
駆け寄って来たヌコーニ様が僕の身体を見て泣き叫んでる・・・泣きたいのは僕の方だよ!。
死ぬほど身体が痛いのに意識は不思議なくらいはっきりしてる。
これだけ酷い怪我だと僕の家に連絡が行きそうだ、あの両親の事だから僕がコヴァーンの令嬢を庇って怪我をしたと聞いたら大喜びで謝礼や賠償を要求するだろう・・・。
「ヌコーニ様・・・」
僕は少し離れた場所で見ているヌコーニ様に声を掛けた。
「な・・・何かしら?、それより大丈夫なの?」
「これが大丈夫に見えるなら目のお医者に行った方がいいです」
ヌコーニ様が恐る恐る近付く・・・そりゃ怖いよね、僕は全身血まみれだ。
「お願いがあります、僕の家には絶対に連絡しないで下さい!」
僕は警備兵さんに抱き抱えられて医務室に連れて行かれ、そこで応急的な治療を受けた。
ヌコーニ様は約束通り、僕の家に連絡しようとする学園長を止めてコヴァーン家の執事さんを呼び出してくれた。
人払いをした医務室で僕は執事さんに事情を話す・・・。
両親は僕に無関心、でもヌコーニ様を庇って僕が怪我をしたと分かればコヴァーン家に迷惑がかかるし面倒臭い事になる。
欲深い僕の両親に余計な金を巻き上げられたくないなら偶然居合わせて暴漢に襲われた事にして欲しい・・・。
執事さんは深く頷き、当主様・・・ゴンザレス様に連絡を入れてくれた、そしてコヴァーン家の権力によって僕は学園内で暴漢に襲われた不運な子供という事になった。
その後すぐに僕は学園の医務室からコヴァーン家の客間に移された、ゴンザレス様が手配してくれた王国有数の名医による治療を受けさせて貰ったのだ。
でも治療の甲斐なく僕の左目は光を失い、背中と左腕、太ももに大きな傷が残ってしまった。
ゴンザレス様と奥様のイヌーニ様からはこちらが恐縮してしまうくらい感謝された、イヌーニ様とヌコーニ様は僕が左目を失明したと聞いて泣き崩れたらしい。
僕達を襲った男は捕まり、コヴァーン家が立ち会ってごうも・・・いや、尋問したところ彼は教会の司祭だと判明した。
駄聖女が学園でいじめられていると聞いてその加害者を消そうと思ったらしい。
当初はニードロップ家が絡んでいると思われた今回の事件は駄聖女に恋する世話係の司祭が起こした単独の犯行だったのだ。
この真実はコヴァーン家の権力で闇に葬られた、彼は収容されていた留置所から脱走、何日か後に王都を流れる川に浮いているところを発見される予定だとゴンザレス様が言っていた。
「今回の事件を最初から見ていた者はヌコーニと取巻きの5人、食堂に向かっていた男子学生2人と女子学生1人だ、幸い全員うちの派閥の貴族だったから口止めをしてある、残りは悲鳴を聞いて集まって来た連中だから問題は無いだろう」
「無理を言ってすみません、僕の両親はお金に汚く強欲です、この家に迷惑をかけたくなかったので・・・」
僕の言葉にゴンザレス様はとても悲しそうな顔をした、クズな両親を持ってしまった僕に同情してくれているのかもしれない。
「だがいずれシーアちゃんの両親には連絡しなければならない、いつまでも怪我を隠しておくわけにはいかないだろう?」
「はい・・・では僕が怪我をして左目を失明、身体にいくつか傷が付いたとだけ知らせて貰えますか」
「分かった・・・君は娘の命の恩人だ、困った事があれば遠慮なくコヴァーン家を頼りなさい」
ゴンザレス様はそう言ってお部屋を出て行った。
学園に居る間は会わずに済むと思っていた両親と会わなければいけない・・・怪我をした事よりそっちの方が憂鬱だ。
読んでいただきありがとうございます。
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