025 - そつぎょう -
025 - そつぎょう -
「トリスさん綺麗だったねー」
「そうだねー、スタン君もかっこよかった!」
僕とアンジェちゃんはユーノス家の馬車で王都の通りを進んでいる、僕のお家にアンジェちゃんと一緒に帰るところだ。
今日はトリスさんとスタン君の結婚式だったのだ!。
主役の2人はとても綺麗だったけど、同じくらい目立っていたのはドレスで着飾ったアンジェちゃん!。
周りから「あの美少女は誰だ、調べろ」「俺、声をかけようか」「しゅき・・・」などという不穏な呟きを聞きながら2人で美味しい料理を堪能した。
トリスさんは結婚してもアンジェちゃんの護衛を続けるらしい。
でも結婚後の色々な手続きや親族への挨拶回り、新婚旅行があって今日から20日ほどトリスさんはアンジェちゃんの護衛から外れる。
代わりの護衛が王城から来る予定だったのに筋肉モリモリマッチョな騎士団長がやって来た!、手配されていた臨時の護衛が食中毒で急に倒れたらしいのだ。
もちろんお屋敷の周りには王家の「影」が交代で守っている、近くで一緒に過ごす騎士団長さんがアンジェちゃんを襲う事もないし何より男同士だ、間違いが起きる筈もなく・・・。
でもアンジェちゃんはゴリマッチョな団長さんと廃墟屋敷で2人きりなのは気まずいと僕に泣きついてきた!。
「それなら僕の家に来る?」
僕が誘うとアンジェちゃんは大喜びで頷いた、もちろん団長さんもついて来るのだけど・・・。
ユーノスの義両親も良いと言っているし陛下の許可も貰った、今日から20日間アンジェちゃんと一緒に過ごすのだ。
とは言っても僕は学園やお仕事があるし、アンジェちゃんも昼間は宝飾店でお仕事だ、一緒に過ごせる時間は多くない。
「このお部屋を使ってね・・・それから団長さんは隣のお部屋になります」
「はい、お世話になります・・・私は代理ですので数日中には当初予定していた護衛が参ります・・・」
ごごごごご・・・
僕の身長の倍以上ある団長さんが丁寧にお辞儀をした、ちなみにこの人はトリスさんのお父様だ!、結婚式では大泣きしていた。
騎士団の要である団長さんがこんな所に居ていいのか心配だったけれど、王国は平和だし野盗の討伐や訓練くらいしかする事がないと言って笑っていた。
「どうもですー、シーア様とでんっ・・・いえ、アンジェリカ様!、食中毒から生還したサルサと申しますっ!」
アンジェちゃんが僕の家に来て2日後、当初予定していた臨時の護衛がやってきた、長身で白髪銀目の美人騎士さんだ・・・。
白い騎士服を着ているから全身真っ白、まさに白銀の姫騎士といった感じでかっこいい、胸は小さいけど・・・。
「初めまして、シーア・ユーノスです」
「あははー、初めましてー、今後ともよろしくですぅ!」
喋らなければ氷の美女的なクールビューティなのに中身は底抜けに明るい人だ、それに仄かなポンコツ臭がする。
今後と言ったのはトリスさん復帰後も所用で休む時にはこのサルサさんが護衛に来てくれるようだ。
「サルサさん、寝込んでたって聞いたけど大丈夫?」
面識があるっぽいアンジェちゃんがサルサさんに声をかける。
「いやぁ、酷い目に遭いましたよー、周りからは腐ってるからやめとけって言われたんですけど匂い嗅いだらいけるかもって・・・その夜ゲロ吐いて下痢ピーピー、あ、私死ぬわって、あはははは!」
手を叩いて大笑いするサルサさん・・・黙ってれば美女なのに残念過ぎる・・・。
「・・・」
「・・・」
「・・・サルサ、俺は帰るがくれぐれも迷惑かけるなよ」
そう言い残して騎士団長さんはお城へ帰って行った。
その後いろいろ話して分かった事はトリスさんとは同じ年齢で仲がいいらしい、トルティーヤ家という上級貴族家の長女で上にはお兄様が居るのだとか。
トリスさんの結婚式は前日に寝込んだので残念ながら出られなかったらしい。
「お腹がピーピーで痛かったし上も下も凄い事になってたから結婚式の前日は一睡もできなかったですねぇ!、ってかお手洗い20回往復して寝てる暇もなかったっていうかー、式では私の裸踊り披露しようかなーって思ってたのに残念だぁ!」
本っ当に残念美女だなこの人・・・。
「騎士のお兄ちゃんに憧れて私もやるーって感じで騎士団に入ったんですよー、結婚してるのかって?、あはははは、してるように見えます?、結婚っていうのは相手が居ないと出来ないんですよー」
どうやら独身のようだ・・・。
20日後にはトリスさんが新婚旅行から戻ってきた、2人ともお顔がツヤツヤしている!。
この世界にも新婚旅行ってあるんだ・・・そう思って調べてみると昔この世界に転生した「渡り人」が習慣を広めたらしい。
アンジェちゃんは僕の家から廃墟屋敷に戻り、またトリスさんとの生活を始めた、正確にはトリスさん夫妻と・・・かな?。
スタン君は実家からアンジェちゃんの廃墟に引っ越して夫婦で住み込む事になったのだ、スタン君はコヴァーン家に雇われているので廃墟からヌコーニ様のところに通う事になる。
男手の入った廃墟は数日で見違えるように綺麗に改修されていった。
昼間はヌコーニ様の護衛、夜は廃墟の改修作業とスタン君は大忙しだけど奥様のトリスさんの愛に包まれて幸せそうだ。
トリスさん達の結婚からしばらく経ち、僕の生活は忙しいけれど平穏そのものだ。
卒業が近いから授業も短くなり他の貴族の子息は卒業後の準備を始めている。
卒業してすぐに結婚する令嬢、領地に帰って当主補佐として働く令息、皆それぞれの人生を歩き出す。
僕はと言えば毎日アクセサリーを作って商会の事務処理をしている、ヌコーニ様達とのお茶会やアンジェちゃんとも遊んでいるのでとても忙しい!。
僕の作るアクセサリーは新作を出せばすぐに売り切れるし、ヴテック・シーア商会の経営も順調だ。
お店にアンジェちゃんやチッチャイコスキー師匠の絵を飾っていたらお客様から売ってくれと問い合わせが殺到している。
師匠の絵はサウスウッド家の経営する商会が取り扱っていて、僕のお店はそこから仕入れているのだ。
師匠の絵を見たお客からは昔王都で活動していた伝説の画家、フィニアス・ヨウジョスキーのものではないかとちょっとした騒ぎになったのだけど・・・僕は知らないと言ってサウスウッドの商会の連絡先を渡しておいた。
「僕からのささやかな仕返しだ・・・忙しくなって悲鳴をあげればいい」
アンジェちゃんの絵は僕のお店で売れに売れている、もう趣味じゃなくて副業になりつつあって、その収入はお屋敷の修繕や食費の大きな助けになっているそうだ。
今アンジェちゃんのお屋敷はちょっと前まで廃墟だったのが信じられないくらいの大変貌を遂げている。
トリスさんやサルサさん、それからスタン君の騎士仲間がよく遊びに来るようになった、家の惨状を見かねて修繕を休日に手伝っていたら皆が本気になってフルリフォームを始めてしまったのだ。
スタン君の友人の知り合いだという職人さん達まで引っ張り出して来ての本格的大改築は家主のアンジェちゃんを置き去りにして今も工事が続いている。
「帰る前にお肉とお酒を振る舞ったらみんな頑張ってくれるんだぁ、知らないうちにお部屋が4つも増えてたよ」
「いつ完成するかって?、そんなの分かんないよ、前のお家の面影が全然無いし・・・」
僕のところに来てそう言ったアンジェちゃんは諦めの境地に達しているみたいだ。
あと、今年の長期休暇にはサウスウッド領に行こうと思っていたのに忙しくてそれどころじゃなかった、卒業後はアンジェちゃんと絶対に行こうと話し合っている。
それから・・・僕の家には婚約の申し込みが殺到しているようだ、少し調べれば僕が超優良物件である事はすぐに分かる、お金目当てか権力か・・・。
顔も見た事の無いような男と結婚なんて絶対にお断りだ、僕の事を理解してくれている義両親が全部断ってくれているようだけど日を追うごとに増えているのだとか・・・。
・・・
僕は17歳になり、今日で6年間過ごした学園を卒業する。
本当に色々あった・・・入学した時には元両親から逃げる事で頭が一杯だったのに今は優しい義両親と友人達に恵まれて自分の商会まで持てた。
学園を卒業したら義両親に親孝行しつつ商会の勢力拡大を本格的に始めるつもりだ。
目標は王都のプァルコというお洒落なお店が並んでいる通りにヴテック・シーアの2号店を出す事、あくまでも目標だけど成功する自信はある。
退屈な卒業式が終わり、次は卒業パーティだ、婚約者の居る生徒はエスコートしたりされたりして会場に入場する。
僕は居ないから一人だしヌコーニ様はアポロ殿下と一番最後に入る事になっている。
次々と生徒が入場していくのを見ながら去年の料理は美味しかったとか、上級貴族達に商会の宣伝をしておかないと・・・そんな事を考えている僕の隣で誰かが立ち止まった。
「お嬢さん、ご一緒しても?」
「え・・・」
声を掛けて来た人物を見て僕は固まった。
「あ・・・アンジェちゃん?」
人差し指を口に当てて僕に微笑むのは男装・・・いや、男の姿に戻ったアンジェリカ・ラブレアこと・・・フェリック・アンブレラ第一王子殿下だった!。
「あの日、私の晴れ舞台に協力してくれたお礼だ・・・微力ながら君の晴れ舞台に華を添えよう」
何だよそのキラッキラな笑顔!、こんなの反則だ、女なら全員惚れてしまうだろ!・・・僕は惚れないけどね。
「・・・思った事が口に出てるよ・・・さぁ、行こうか親友!」
フェリック殿下の差し出した腕に戸惑いつつ、僕は自分の腕をそっと絡めた・・・心の奥が少しざわついたのは秘密だ。
ざわっ!
「きゃぁ!」
「あのお姿は・・・フェリック殿下よ!」
「辺境で謹慎されていると聞いたが!」
「何て事・・・美しさに磨きが掛かってるわぁ!」
僕はフェリック殿下にエスコートされてパーティ会場の中央に進む・・・。
「見られてる・・・みんなに見られてるよ(ぼそっ)」
「あぁ、見られてるね、注目の的だ(ぼそっ)」
「後で覚えてろよ(ひそっ)」
「私は頭の悪いバカ王子だから忘れてるだろうね(ひそっ)」
最後に入場したヌコーニ様達より注目を集めてしまったじゃないか!、戸惑う僕の手にキスをしてアンジェちゃんは陛下のところに行ってしまう。
獲物を狙う野生動物みたいにジリジリと近寄っていた令嬢達は残念そうだ。
陛下を見るとニヤリと悪い笑顔で僕に手を振ってきた。
ゴンザレス様によると最近はどうにかしてアンジェちゃんと僕をくっ付けられないか企んでいるらしい・・・本当に勘弁して欲しい。
結局アンジェちゃんの股間のアレが無事なのかまだ聞けていない、一度勇気を出して尋ねてみたら微笑んで誤魔化されたのだ!。
手紙で師匠に聞いても教えてくれなかった、「裸に剥いて自分で調べればいいじゃろう」などど書かれているのを見て仄かに殺意が芽生えた。
「あのクソジジィ・・・」
・・・それに僕の中ではどうでもいい事だ、ついていてもいなくてもアンジェちゃんは僕の親友なのだから。
目の前には美味しそうな料理が並んでいて、向こうではヌコーニ様とアポロ殿下がいちゃついている、学園を卒業しても僕はまだ17歳・・・。
「僕の異世界人生は始まったばかりだ!」
2章、本編(完)
番外編、3章に続きます。
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