021 - ちっちゃいこすきー -
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「ここだよー」
「立派なお家だね」
僕達は今、サウスウッドのお屋敷の近くに建つ石造りの古い家にやって来た、外壁には蔦が絡まり尖った屋根は吸血鬼が住んでそうな不気味なオーラを発散している。
お屋敷からは半刻・・・およそ30分くらい歩くのだけどここに来てから少し運動不足気味だからちょうどいい距離だ。
アンジェちゃんは大きな革の鞄を持っていてトリスさんは短刀を腰に下げた軽装だ。
同行している渋いスーツ姿のスタン君が荷物を持ちましょうかと申し出たのだけど・・・。
「トリスさんに持って貰ってたら師匠に怒られたんだぁ・・・自分の画材道具は自分で持てって」
師匠というのはアンジェちゃんが絵を教えて貰っているという画家だ。
名前はフィンセント・チッチャイコスキー、有名な人なのかは今ひとつ分からないのだけどアンジェちゃんによるとかなり「変わった人」らしい。
コンコン・・・
がちゃ・・・
「師匠ぉ、入りますよー」
ごちゃぁ・・・
「わぁ・・・」
扉を開けて中に入ると広いホールがあってそこに所狭しと極彩色の絵が無造作に置かれていて絵の具や溶き油の香りが漂っている・・・いかにも芸術家!といった感じの空間だ。
床に直置きの画材を避けながら奥に進むと居住スペース兼アトリエがあった。
「師匠!、この前私が片付けたばかりなのにまた物で溢れてるじゃないですかぁ!」
どうやらアンジェちゃんの師匠は片付けの出来ない人間のようだ。
「おぉ・・・来おったか・・・」
そう言ってキャンバスに向かって絵を描いていた男が振り返り僕と目が合った。
「お・・・おぉっ!、可愛らしい子じゃ、儂の絵のモデルになってくれぬか!」
まぁ、モデルくらいなら・・・と思っているとアンジェちゃんが慌てて僕の口を塞いだ。
「ダメです師匠!、シーアちゃんは貴族令嬢ですから裸に剥いたら今度こそ捕まりますよ!」
どうやらこのエロジジイは僕の全裸を描きたかったらしい!。
ふとアトリエの奥に目を向けると・・・上半身裸のアンジェちゃんが写真のような緻密さで描かれていた!、下半身は・・・残念ながら際どいギリギリのところに布があって見えない!
・・・この師匠はアンジェちゃんのお宝が無事なのか知っている!。
「何じゃ、儂の顔に何かついておるかの?、もしかしてモデルになってくれるのか?」
師匠をじっと見ていたら誤解されたようだ。
年齢は60歳半ばくらいかな・・・デロリアンのタイムマシンに乗ってそうな怪しい見た目、絵の具で汚れた白衣、でも目だけはギラギラしている・・・。
「いえ、全裸モデルはちょっと・・・僕は身体に傷があるし・・・」
「それがいいのじゃ!、何事も完璧なものが美しいとは限らんぞ、そもそも芸術というものは・・・」
「えーと、長くなりそうなのでお部屋を片付けますね、これだけ散らかってると4人も入れないし」
「あ、僕も手伝う」
「何じゃ!、儂の話を聞けぬというのか?」
「片付けながら聞きますよー、それでいいでしょ」
「うむ・・・芸術というものは・・・・」
アンジェちゃん師匠の扱いが上手いな・・・。
片付けながらお部屋を見渡すとアトリエの中にも完成品や未完成の絵が沢山置いてある。
極彩色の個性的なものの中に時々写真のような緻密なものや印象派っぽいもの、抽象的なものが混ざっていてこの師匠の守備範囲の広さに感心する。
それでもやはり目を引くのはアンジェちゃんの(ほぼ)全裸の絵だ、女の子座りをしたアンジェちゃんが憂いのある表情で斜め上を向いている、いいなぁ、欲しいなぁ・・・。
僕の様子を見ていたのかアンジェちゃんがお部屋の外にゴミを捨てに行っている時に師匠が近付いてきた。
「欲しいのか?(ぼそっ)」
こくり・・・
僕は頷いた。
「あれより一回り小さなものが別にある、金貨1枚・・・」
こくこく!
「商談成立じゃな、弟子に悟られずに金を持って来い、中が見えぬよう梱包してお前さんの家に送ってやろう(ニヤリ)」
「家族に中を見られるとマズいので厳重梱包でお願いします(ひそっ)」
「フッ・・・任せておけ」
僕は師匠と固い握手をした。
金貨1枚・・・前世の日本円にして約40万円・・・あれが手に入るのなら安い買い物だ。
「じゃぁ師匠、絵を見てもらえますか?」
アンジェちゃんが鞄から絵を取り出した、お屋敷の隣にある湖の絵だ、かなり上手い!。
「ふむ・・・ここの空気感が甘いのぅ、それとこの木は邪魔じゃ、それから・・・」
エロ師匠にしては真面目な指導が続いている、横で聞いているだけでも面白いし僕も絵を始めたくなった・・・忙しくて無理だけど。
「風景も良いがたまには人物も描くのじゃ、ちょうどここに良い素材が居るではないか、屋敷に戻ったら全裸に剥いて・・・」
「なっ!、何言ってるんですか師匠!」
「裸体は芸術の基本じゃぞ、特に女体は創作意欲が・・・」
「私は趣味で描いているので芸術を極めようとは思っていません!」
「才能があるのに残念じゃな、まぁ服を着ておってもよいから一度描いてみるのじゃ、師からの命令じゃぞ」
「・・・はい」
どうやら僕はアンジェちゃんの絵のモデルになるらしい・・・。
「画材を出して今ここで描いてみよ」
「ここでですか?」
アンジェちゃんが戸惑っている、でも僕は騙されないぞ、このエロ師匠はアンジェちゃんをダシにして自分も描きたいのだ。
そして僕は1刻・・・一時間ほど絵のモデルをする事になった。
「下書きですが出来ました・・・」
「うむ、初めてにしては良いではないか、屋敷に帰り彩色して仕上げるのじゃ」
アンジェちゃんの絵を見てそう言った師匠の絵は既に彩色まで済ませて完成していた、速い!それに上手い!・・・エロ師匠のくせに腕は確かだ。
「色々と凄い人だったねー」
師匠の家からの帰り道、僕はアンジェちゃんに言った。
「でも絵の腕前はすごいから尊敬してるんだぁ」
あのエロ師匠、普段は極彩色の個性的な絵を描く人なのに写実的な絵も得意という凄い人だった。
若い頃は幼女の全裸姿を写真のように緻密に描いて捕まった事もあるのだとか。
「私達が生まれる前の話だね、一部の人の間で売れまくったみたいだよ」
「えぇ・・・」
元々は王都にアトリエを構えていたのだけど、幼女好きの危険人物という噂が広まり20年ほど前にこの辺境の地に引っ越してきたそうだ。
サウスウッド家の当主様とは友人であり、彼を通して貴族や裕福な平民に絵を販売、生活費を稼いでいるらしい。
僕はお屋敷に戻り、旅行鞄に入れておいた皮袋から金貨を1枚取り出した、スタン君にお願いしてこの金貨と僕の家の住所を書いた紙を渡して貰うのだ。
「これは何のお金です?」
不思議そうな顔をしてスタン君が僕を見る。
「ちょっと気に入った絵があったの、師匠が売ってくれるって言うからそのお金だよ、お願いできるかな?」
「はい、馬を借りて行けばすぐですので・・・では今から行ってきます」
「うん、お願いね」
そう言って客間を出て行くスタン君を僕は見送った。
・・・
「まだ手も繋いだ事が無いってどういう事?」
サウスウッド領で10日間の滞在を終え明日王都に帰るという夜にアンジェちゃんが叫ぶ。
お部屋の中にはアンジェちゃん、僕、トリスさんの3人だ、すっかり親密になっていると思っていたスタン君とトリスさんの恋は全く進展していなかった。
いや、本当にどうしたんだよ・・・3日前にも2人で森に行ってたよね、偶然狼っぽい獣に襲われたって大きな死体を楽しそうに担いで帰って来たじゃないか・・・。
「・・・私がスタン様の手を握ろうとしたら襲い掛かってきてね、邪魔されて腹が立ったから私が剣で串刺しにしたの、それを見たスタン様が首を落としてくれて・・・あれはカッコよかったなぁ」
「トリスさんはスタン君が好きなんでしょ、僕達はもう明日帰っちゃうのに」
「・・・王都に戻ってもお手紙は交換しようって」
「それなら僕とアンジェちゃんの文通に混ぜてやり取りすればいいよ、僕の方はスタン君の手紙を預かって送るからアンジェちゃんはトリスさんの方をお願い」
「うん、わかった」
色々あったけれどこの10日間は本当に楽しかった。
お屋敷の周りを散歩したり森の入り口まで野鳥を見に行ったり・・・今までよりもっとアンジェちゃんと仲良くなった、もう大親友だ。
・・・
夜も遅くなってきた、田舎な事もあって窓からは星が綺麗に見える・・・サウスウッド領は本当にいい所だった。
「また来たいな」
僕の呟きにアンジェちゃんが反応する。
「私も来年王都に戻るけど、また絶対一緒に来ようね・・・」
そう言って僕に笑いかけるアンジェちゃんに僕の胸がトクン・・・と音をたてた気がした。
読んでいただきありがとうございます。
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