017 - おまえとのこんやくをはきする! -
017 - おまえとのこんやくをはきする! -
王太子殿下の卒業が間近に迫ってきた。
定期的にヌコーニ様やアンジェちゃんの愚痴を聞き、駄聖女に絡まれながらも僕は学園生活をそれなりに楽しんでいる。
それから・・・僕は国王陛下と文通をはじめた。
何を言っているのか分からないと思うが僕にも理由が全く分からない。
直筆サイン入りのお礼状が陛下から届いた後で僕は返事を書いた、陛下からの手紙をそのまま放置するなんて普通はありえないから貴族としては当然の行動だろう。
友人として今後も殿下を支えますのでご安心ください・・・みたいな内容だったと思う、社交辞令みたいなものだ、これで陛下との手紙のやり取りは終わる筈だった。
でも何故か再び陛下から返事が来てしまった!。
(息子の考えている事が分からない、相談に乗ってもらえないだろうか・・・あいつは幼い頃から・・・以下略)
その長い手紙には父親としての不安と葛藤が13ページに渡り綴られていた。
そんなの僕に相談されても困る、自分で考えろ!・・・と叫びたい気持ちを抑えて無難な返事を書いた、そうして何度も手紙をやりとりしているうちに陛下に気に入られてしまったのだ!。
最近では王妃様への贈り物は何がいいだろうか、今年は北部辺境地域が不作だから来年の税率を下げた方が・・・などといったアンジェちゃんと全く関係の無い事まで相談されるようになった。
本当にいい加減にして欲しい!。
ゴンザレス様にも文句を言った、でも陛下は僕からの手紙を楽しみにしているらしい、最近は顔色がよく生き生きとしているから申し訳ないが適当に相手してやって欲しいと言われたから断る訳にもいかない。
「隣国との貿易問題を解決したいって言われても僕にどうしろと!」
こりごり・・・
かちゃかちゃ・・・
ここ数日僕は外出を控えてコヴァーン家の錬金工房に篭っている。
アンジェちゃんへ贈る卒業祝いを作っているのだ。
宝飾店でアンジェちゃんと初めて会った時に閃いたデザインはノートに描いてずっと温めていた、僕の新作「ティアドロップ・ローズ(改)」・・・まだ名前の決まっていないネックレス・・・。
大粒の「ティアドロップ・ローズ」より一回り小さな雫が3つ段違いで並んでいてそれを繋ぐ大輪の薔薇・・・制作難易度が高く、何度も失敗したけどもうすぐ完成だ。
「何とか間に合いそうだね」
壁の魔導時計を見るともう真夜中だ、早く寝ないと明日学園で眠くなる。
「お掃除ヨシ!、火元の確認ヨシ!、魔導灯の消灯ヨシ!」
僕は指差し確認の後、錬金工房の戸締りをしてユーノス家に戻った。
いよいよアンジェちゃんの卒業が3日後に迫ってきた、昨日に続いて今日も僕の部屋にはアンジェちゃんとトリスさんが来ている。
「はいやり直し、もう少し偉そうな感じで」
「あぅ・・・無理」
「偉い王太子様なんだから出来るでしょ、愚民よ平伏せ靴を舐めろ!・・・みたいな」
「・・・無理だよぅ」
「もう一回やってみよう、できるだけ悪人っぽい顔をして見下すように」
「・・・ヌコーニ、お前との婚約を破棄する!、この国の聖女でありゅ・・・あぁぁぁ・・・」
「はいやり直し、本番の時は噛んじゃダメだよー」
「うぅ・・・難しいよぅ」
「もう一回お手本を見せるね・・・ヌコーニよ!、お前との婚約を破棄するっ!、この国の聖女であるホリーに対する陰湿ないじめの数々、もはや見過ごす訳にはいかないっ!」
びしっ!
「わぁ・・・シーアちゃん上手だねー」
ぱちぱち・・・
「拍手はいいからお城に帰ったらちゃんと出来るまで練習してね、ここが一番大事なところなんだから、分かった?」
こくり・・・
・・・
今僕はアンジェちゃんに婚約破棄の演技指導をしている・・・どうしてこうなった・・・。
・・・
昨日僕のお家に遊びに来たアンジェちゃんが卒業パーティの時にヌコーニ様をエスコートすると言っているのを聞いて驚いた。
「何で?、普通は駄聖女をエスコートして一人寂しくパーティにやって来たヌコーニ様に向かって婚約破棄を宣言するよね」
「え?」
アンジェちゃんが僕を見て首を傾げた・・・とても嫌な予感がする。
「パーティの場で婚約破棄するんでしょ」
「うん、そのつもり」
「当日の段取りを教えてくれる?」
「2人でパーティに入場して、そこで美味しい料理を食べながらヌコーニさんに・・・」
「いやダメでしょ!」
アンジェちゃんが自信満々で語った計画は穴だらけだった!。
ダメなところを指摘していると次第にアンジェちゃんが涙目になる、仕方ないので僕が脚本を考えて当日の作戦を全部練り直す事になったのだ。
「これで本当に上手くいくと思ったの?」
「うん・・・ぐすっ・・・」
俯いて悲しそうにしているアンジェちゃんを見かねて僕は机の引き出しから「箱」を取り出した。
「ちょっと早いけど、卒業式の後は色々と大変な事になりそうだから渡しておくね」
すっ・・・
「え?」
泣きそうになっていたアンジェちゃんが涙で潤んだ瞳で僕を見た、相変わらず顔がいいから至近距離でそれをやられるとドキッとする!。
僕はアンジェちゃんから少し目を逸らして言った。
「卒業のお祝いだよ、作るのに20日もかかった力作・・・これをあげるから元気出して」
「開けてもいい?」
「もちろん」
がさがさっ・・・
かぱっ・・・
「わぁ・・・綺麗!、シーアちゃんありがとう!、大切にすりゅね・・・」
ぽろぽろっ・・・
アンジェちゃんの綺麗な目から大粒の涙が溢れた、ここまでなら美少女の涙で絵になるところだけど鼻水も垂れているから色々と台無しだ!。
「わぁぁ!、何で泣くの!」
ようやく泣き止んだアンジェちゃんはトリスさんに連れられて僕のお部屋を出て行った。
「明日はここで婚約破棄の特訓をするからね!」
今僕が立っているのは学園内にある晩餐会場だ、今日この場所では卒業記念パーティが開催されている。
高い天井、光り輝く魔導灯、用意された美味しそうな料理、楽器のできる下級生による楽団演奏・・・毎年卒業式を終えた最上級生はここから大人の世界に羽ばたくのだ。
僕の作った脚本通り、アンジェちゃん・・・殿下は駄聖女をエスコートして入場した、少し前にはヌコーニ様が注目を浴びながら一人で会場入りしている。
僕はといえば身分の低い順に会場入りする決まりなのでそれより前に一人で入り美味しいお料理を食べていた。
殿下と駄聖女は遠くからだといい雰囲気に見える、よく見れば殿下の目は死んでいるけれど駄聖女と表面上はにこやかに会話している。
「それでは皆の者、パーティを楽しんでくれ!」
わー
ぱちぱち・・・
陛下の挨拶が終わり、会場は一段と賑やかになった、会話を楽しむ者、料理を食べる者、卒業生や在校生、卒業生の親達が入り混じり皆それぞれの方法で楽しい時を過ごしている。
「にゅっ・・・にゅこーに・・・」
アンジェちゃんがいきなり噛んだ!・・・まだ大丈夫だ、王太子殿下が奇声を発しただけ・・・殆どの参加者は気付いていない。
「ぬ・・・ヌコーニ、お前との婚約を破棄する!、この国の聖女であるホリーに対する陰湿ないじめの数々、もはや見過ごす訳にはいかない!」
言えた!、練習した甲斐があったな、セリフを言い切ったアンジェちゃんを見て僕まで嬉しくなった。
パーティ会場内に居る国王陛下や卒業生の親達の注目がアンジェちゃんと駄聖女に集まる。
駄聖女は貧相な胸をアンジェちゃんに押し付けて泣いている・・・ように見えるのだけどあれは演技だ。
たった今婚約破棄を突き付けられたヌコーニ様は無言でアンジェちゃんと向き合っている。
国王陛下は無表情だけど小刻みに身体が震えている、あれは笑うのを我慢しているのだろう、昨日お手紙で今日の計画は全部伝えてある。
僕は予定通りヌコーニ様の背後にそっと歩み寄る。
アンジェちゃんによる長いセリフはまだ続いている、チラチラと断罪内容の書かれた手のひらを見ているから他の人に怪しまれないか心配だ。
昨日は王城内にあるアンジェちゃんのお部屋に呼ばれて徹夜で最後の練習をしたからとても眠い。
「ふわぁぁ・・・」
思わずあくびをしてしまった・・・それに気付いたアンジェちゃんが僕を睨む。
勝利を確信したのか、殿下の話に加わっていた駄聖女も饒舌になった。
「シーア様も酷いですぅ!」
僕を指差して非難する。
「・・・醜い傷物女のくせに!」
勢い余って話題が僕の容姿に関する事にまで及んでしまった。
ピキッ・・・
今まで何を言われても平然としていたヌコーニ様がキレた、高位貴族の令嬢がしていい顔じゃなくなっている。
このままアンジェちゃんがヌコーニ様に婚約破棄を宣言して断罪を終えたら筋書き通り全て丸く収まるのに僕があくびをしてしまったせいで計画が狂い始めたようだ。
「ヌコーニ様、落ちついて・・・」
そう言いかけた僕を残して1歩、また1歩と聖女様に近付くヌコーニ様・・・こうなってしまうと彼女は押さえが効かない。
僕は仕方なく背後から彼女の首に腕を回して・・・。
がしっ!
「・・・っ!」
きゅっ
ガクッ・・・
締め落とした・・・
力が抜けて崩れ落ちそうになるヌコーニ様を僕が後ろから支える、顔を覗き込むと白目を剥いていたから瞼に触れて目を閉じさせた。
他のパーティ参加者目線だと断罪された悲しみのあまり気絶しそうになっている可哀想な令嬢に見える・・・よね。
「とっ・・・とにかくヌコーニよ!、お前は罰として国外追放とする!」
予定外の事態にセリフが飛びかけていたアンジェちゃんが持ち直した、徹夜で頑張って練習した成果だね、この茶番が終わったら頭を撫でてあげよう。
「鎮まれぃ!」
国王陛下が椅子から立ち上がった・・・急遽お願いしたにも関わらず予定通りのタイミングでセリフを言ってくれた、口元を見るとムニムニ動いているからやはり笑うのを我慢しているのだろう。
これで僕の役目は終わりだね、さて、ヌコーニ様をどこかに寝かせて美味しい料理を堪能しよう。
読んでいただきありがとうございます。
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