015 - だせいじょ -
015 - だせいじょ -
アンジェちゃん達と話をして数日が経ち学園の長期休暇も残り20日程になった。
僕の日常生活にヌコーニ様とのお茶会とアクセサリー作りに加えて殿下・・・アンジェちゃん達との外出が加わった。
何度か一緒に街へ出掛けているうちにアンジェちゃんとは予想以上に仲良くなってしまった、会話していても楽しいしお互いに好きなものも似ているのだ。
「シーアちゃん!、これ可愛い!」
王都の通りにある小物店でアンジェちゃんが大きな狼っぽい謎のぬいぐるみを抱えてはしゃいでいる。
「えー、可愛いかなぁ・・・」
僕はチラリと謎ぬいぐるみを見て答える、ちなみにアンジェちゃんの姿の時は敬語ではない、2人で話し合って決めた事だ。
「ほらよく見て、可愛いよ・・・いいなぁ、欲しいなぁ・・・」
「その大きさのものがお部屋のあるのは流石にまずいのでは?」
トリスさん、冷静な判断だ・・・王太子殿下の執務室にあんなのが置いてあったら変だ。
「うりゅ・・・」
何だよ!うりゅって・・・可愛いじゃないか!。
「じゃぁ僕が買って帰ろうか?、時々僕のお部屋に来てもふればいいし・・・っていうか値段高っ!」
「もふ・・・何?」
アンジェちゃんが首を傾げて僕を見た・・・その仕草は可愛過ぎるからやめて!。
「撫で回す事だよ・・・」
最近アンジェちゃんは頻繁に僕の家に遊びに来るようになった、女装してお城を抜け出しているので街中では落ち着ける場所が少なかったらしい。
だからと言って僕のお部屋に押しかけて来るのもどうかと思うのだけど。
お義母様やお義父様にも紹介した・・・一瞬目を見開いて固まったけれど普通に娘の友人として受け入れてくれたし一緒に夕食も食べた。
「でも多分バレてると思うなぁ」
正体がバレていないと思ってるのはポンコツなアンジェちゃんだけだ。
・・・
「ごきげんようでんか」
今日は王城で開かれる定例のお茶会だ、ヌコーニ様が全く感情の籠もっていない挨拶をする。
「ごきげんよう、殿下」
ヌコーニ様に続いて僕も挨拶をする。
「ふんっ、このような茶会など時間の無駄だが陛下の命令だ、よろしく頼む」
王太子殿下が僕達を冷たい目で見下して口を開いた、僕は笑いそうになるのを我慢して手のひらに爪が食い込む・・・痛い。
男性モードのアンジェちゃんは無理をして非道な王子様を演じている、今はストレスで精神がゴリゴリ削られているだろう・・・。
「兄上っ!、ヌコーニ様やシーア様に失礼ではありませんか!、普段は優しい兄上が何故婚約者の令嬢に対して・・・」
第二王子であるアポロ殿下がアンジェちゃん・・・いや、フェリック殿下の態度を注意する。
アンジェちゃん本人から聞いたのだけど実はこの兄弟はとても仲良しだ、でもいい事を言いかけたアポロ殿下の言葉を遮るように甲高い声が響いた。
「フェリック様ぁ!、今日のドレスはこの間買って頂いたものなのですぅ!、どうですか?、似合いますかぁ?」
当然のようにお茶会の席に居る駄聖女が殿下の腕に抱きついて甘えている、僕達の表情は「無」だ、誰もお互いに目を合わせようとしない。
「あぁ、とても似合うよ、ホリー」
「きゃぁ!、嬉しいですぅ!」
駄聖女が殿下の身体に貧相な胸を押し付ける、殿下の死んだような目が僕に向けられた。
唇が僅かに動く・・・。
「(タスケテクダサイ)」
唇の動きで殿下の言いたい事が読めてしまった僕はそっと目を逸らした。
・・・
・・・
「はぁ・・・つまらぬ茶会だった、次は10日後か、面倒だな」
フェリック殿下が疲れきった表情で席を立った、ようやくこの地獄みたいなお茶会が終わる。
「ヌコーニ様、兄上が本っ当に失礼な事を言って申し訳ありません!」
アポロ殿下がヌコーニ様に頭を下げる、今日この2人はお互い会話が弾んでいてとてもいい雰囲気だった。
僕達も帰ろうと思い席を立つと・・・。
「待て、シーア嬢に少し話がある、後で屋敷まで責任を持って送るから残っていろ!」
「なぁっ!」
アンジェちゃんがとんでもない事を言い出したよ!。
「シーアさんに何をするおつもりかしら?、婚約者のいる殿下が未成年の令嬢と二人きりなんて・・・」
僕とアンジェちゃんの関係を知らないヌコーニ様が抗議する、当然だ、僕だってこれ以上問題に巻き込まれたくないし今すぐ帰りたい!。
「二人きりではない、ここに護衛が居るのが見えないのか?」
殿下が後ろに控えているトリスさんを見て答える・・・今日のベアトリスさんはいつもと違って近衛騎士団の制服を着て姿勢よく立っているから別人のように凛々しくてかっこいい。
絵に描いたような「くっ殺」騎士様だ。
・・・
・・・
今日のお茶会参加者が部屋を出て行き三人が残った。
アンジェちゃんが天井に向かって手を振っている・・・何をしてるのかな?。
「人払い・・・終わったの・・・座って」
アンジェちゃんが突然女性口調になった・・・豪華な刺繍入りのスーツにネクタイ、革靴という姿にこの口調は違和感が凄い。
おそらく天井裏には王家の「影」が潜んでいたのだろう。
ぽろぽろっ・・・
「うりゅ・・・ぐすっ・・・うっく」
アンジェちゃんが突然泣き出した、両手で顔を覆い本気で泣いている・・・ちょっと待ってよ、僕が殿下を泣かせてるみたいに見えるじゃないか!。
「よしよし、頑張ったねー、後で厨房から美味しいケーキを貰って来るから一緒に食べようね」
泣き崩れるアンジェちゃんの頭をトリスさんが撫でて宥めている、それにしてもこの二人はいいコンビだ。
「もうやだ、あの聖女怖い・・・」
「あれは完全に調子に乗ってますよねー」
僕は思っている事を口にした、確かにあの駄聖女はあざといし目つきが獲物を狙う獣みたいで薄気味悪い。
「そうなの・・・だからシーアさんが聖女の代わりに私の近くに居てくれたら・・・」
「それだけは絶っ対にお断りですっ!」
「あぅ・・・そんなぁ・・・」
僕は燃えている家の中にガソリンを被って飛び込むような真似はしたくない。
「貿易大臣からの圧力も凄いの、婚約破棄してホリーをお妃に選べって・・・」
貿易大臣というのは駄聖女の後見人でニードロップ家の当主だ、どうしてもアレを王妃にしたいようだな。
「私の卒業までまだ半年あるよぉ・・・もう無理お腹痛い」
僕達が仲良くなってから打ち明けてくれた事がいくつかある、アンジェちゃんは王位継承権を捨てて廃嫡を狙っている、理由は王に即位するのが嫌なのだとか・・・。
アンジェちゃんが言うには小心者でポンコツの自分が王になれば国民に迷惑をかける、だから可愛いがっているアポロ殿下に継承権を譲りたいと陛下に相談したら絶対にダメだと言われたそうだ。
自分の身体の事もあって結婚となると王妃になる令嬢にも申し訳ない、将来の事を悩み続けて眠れない夜が続き、頭に円形ハゲまでできた。
「だから女性にだらしない馬鹿でクズな王太子を装う事にしたの・・・相手は男でもよかったんだけどトリスちゃんに止められたから・・・」
トリスさんいい仕事をした!。
ヌコーニ様と婚約を結んだのは将来アポロ殿下が王太子になった時に優秀な令嬢をキープしておいて譲ろうと思ったのだとか・・・。
確かにヌコーニ様は同年代の令嬢の中では飛び抜けて優秀だ。
こんな優良物件をアポロ殿下が成長するまで放っておく事は出来ない、王太子と婚約していなければ今頃は国の内外で奪い合いになっていただろう。
「幸い二人の相性は良さそうだし・・・あの二人には幸せになってほしいな・・・」
弟想いのいい兄貴だ・・・ってかアンジェちゃんめっちゃいい子だよ!。
でもそこに邪魔が入った、あの駄聖女だ。
ニードロップ家が王太子と結婚させて派閥の力を強くする為に学園へ送り込んだあの女をアンジェちゃんは上手く利用できると思ったらしい。
卒業パーティの場で真実の愛を見つけたと言ってヌコーニ様に婚約破棄を突き付ける、優しいアポロ殿下がヌコーニ様を慰め二人はいい感じに・・・。
そしてアンジェちゃんは陛下から怒られ廃嫡となる。
そんな下手な恋愛小説みたいな筋書き通りに上手く収まるのかは置いておいて、アンジェちゃんには謎の自信があったようで行動に移してしまった・・・。
でもあの駄聖女はアンジェちゃんが想像していた以上に酷かった。
身体にベタベタ触り纏わり付く、甘えた声で貧相な胸を押し付ける、隙を見せると股間に手が伸びて・・・。
「これまでに3回も掴まれたの、お尻も触られたし、この前なんてお手洗いに入ろうとしたら後ろに居て・・・もうやだ怖い」
アンジェちゃんの卒業まで残り半年だから手段を選ばなくなってきてるよ駄聖女様・・・。
「お部屋で寝てる時にもベッドの下に居るんじゃないかって思ったら眠れなくて・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」
だからアンジェちゃんは駄聖女を排除して代わりに僕と真実の愛ごっこをしようと画策していたようだ・・・僕の知らないところでそんな恐ろしい計画が進んでたのか。
・・・
窓の外を見ると少し日が傾いて来てる、アンジェちゃんはようやく落ち着いたようだ、僕はヌコーニ様に理由を話して協力して貰おうと再度提案した。
決して面倒臭くなって早く帰りたいからではない!。
フルフル・・・
「・・・それはダメ」
あっさり却下された、理由を聞くとアンジェちゃんが廃嫡になった後の就職先は「ジュワイヨの宝飾店」、マダムに頼んで卒業後に雇って貰う事になっているらしい。
マダムの店のオーナーはユーノス家だけどお義母様の実家であるコヴァーン家も共同出資している、散々悪態をついて浮気までしていた元婚約者をヌコーニ様や家族が許す筈がない。
「だから宝飾店の新人従業員アンジェリカ・ラブレアの正体が馬鹿で無能な元王太子だって絶対に知られちゃダメなの」
アンジェちゃんの計画では廃嫡になったフェリック・アンブレラ殿下は王都に放り出され、行方不明になる予定らしい。
「でもその計画って上手くいくのかなぁ、アンジェちゃんは陛下が廃嫡にしなかった時の事は考えてる?、婚約破棄の後で拘束されて辺境に幽閉されるかもしれないし・・・もしかすると処刑・・・」
そこまで考えていなかったのかアンジェちゃんが僕の話を聞いて絶望的な表情をする、もう涙や鼻水で綺麗なお顔が酷い事になってるし。
「わぁ・・・わぁぁん!、やだよぅ・・・」
僕は泣いているアンジェちゃんにハンカチを差し出した、ちなみに刺繍の腕は9歳の時より格段に上達した、図柄はちいKわだ。
アンジェちゃんば僕のちEかわハンカチを見て「かわいい」と小声で呟き、隣ではトリスさんがアンジェちゃんの頭を撫でている・・・そんなに撫でるとハゲるよ。
「さて、お腹が空いたから僕は帰りたいんだけど・・・」
読んでいただきありがとうございます。
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