013 - あんじぇりか -
013 - あんじぇりか -
学園が長期休暇に入って15日が過ぎた、学生の中にはこの期間を利用して遠方の領地に戻る者も多いから休暇は約60日と結構長い。
僕は相変わらず毎日忙しい、ヌコーニ様とのお茶会は4日おきの午後・・・これを断ると拗ねて泣くからどうしても行かないといけない。
普段は気が強くわがままな彼女も僕が元父親だとバレてからは時々雁城真理の口調に戻って甘えてきたり・・・正直可愛い。
これまでは王太子殿下の愚痴ばかり聞かされていたお茶会にも前世での話題が混ざり始めている。
「あのアニメの続きが気になる!」
「国道沿いにあるダメダ珈琲のデカノアール食べたい」
一度は死んでしまったのにまた娘と話ができるようになるなんて・・・。
「人生何があるか分からないなぁ」
ヌコーニ様とのお茶会が無い日はコヴァーン家の錬金工房でアクセサリーを作り、夜はユーノス夫妻と楽しく過ごす、僕の日常生活は最近とても充実している。
錬金工房では時々ヌコーニ様のお母様、イヌーニ様が僕に錬金術を教えてくれる。
別に錬金術師になりたい訳じゃないけれど素材を調合して新しい金属を生み出したり謎の液体で金属の色を変えたり、色々と興味深い。
毎日がこんなに忙しくなければ本格的に錬金術の勉強をしてもいいかもしれない。
今日僕は早朝からコヴァーン家の離れにある錬金工房で作業をしている。
僕の作ったアクセサリーが飛ぶように売れているのだ、マダムが僕を待っている!。
「さて・・・遅れてた商品がやっと出来た、早く梱包して・・・」
がさがさっ・・・
つめつめ・・・
「これくらいならカバンに入れて持って行けばいいかな」
とてとて・・・
「水回りのお掃除ヨシ!火元の確認ヨシ!魔導灯の消灯ヨシ!」
がこんっ!
かちゃかちゃ・・・
指差し確認の後、僕は工房の重い扉を閉めて鍵をかけた。
イヌーニ様が不在の時の火元責任者は僕だ、いい加減な管理をして火事にでもなったら冗談じゃ済まない。
「納品はお昼からにしよう・・・」
僕は納品予定のアクセサリーを抱えてユーノス家の食堂にお昼を食べに戻った・・・。
・・・
お昼ご飯を食べた後、新商品の打ち合わせと納品を兼ねて僕は「ジュワイヨの宝飾店」に馬車で向かう。
お店の裏手には豪華な馬車が2台、それから粗末な馬車が1台停まっている・・・それを見て僕は違和感を感じた。
小汚い馬車の外観に似合わず馬は本物ではなく馬型四足歩行魔道具「アイヴォゥ」・・・最近馬の役割を奪いつつある高価な魔道具だった。
「綺麗な馬車が壊れたから代わりに農作業用のやつに乗って来たとか?」
そんな独り言を呟きながら店の裏口から中に入る。
カウンターには品よく着飾ったマダムが立っていてお客様と話をしていた、相変わらず躍動する筋肉が眩しい・・・他の店員達も皆接客で忙しそうだ。
マダムの話が終わるのをただ待っているのも退屈だったので僕は自分の作品が展示されているショーケースに向かった。
やはり人気があるようで、お客様が5人ほど集まっている、その中に注文用のデザインが描かれたイラストを熱心に見ている女の子2人組が居た。
高級そうな服を着て僕より少し年上に見える、一人は背中まである艶やかな黒髪でシンプルなフレームのメガネをかけている、思わず見惚れてしまうほど綺麗な子だ。
もう一人は茶色い髪をした短髪の子・・・従者か護衛かな?、一歩下がって周りの様子を警戒している・・・あ、僕と目が合った。
短髪の子が黒髪美少女の肩をつついて合図する・・・注文用イラストに夢中だったその子も僕に気付いたようだ。
「え・・・」
黒髪美少女の様子が明らかにおかしくなる、挙動不審になり短髪の子の影に隠れた。
僕は黒髪美少女に見覚えがあった・・・でもどこで会ったのか思い出せない、学園の生徒だと思うのだけど・・・。
「あらぁ!、トリスちゃんとアンジェちゃん、注文してくれていたネックレスが入荷してるわよぉ!」
お客様との話が終わったのかマダムが満面の笑顔で2人組に近付いて来た、あの2人はトリスとアンジェと言うらしい、聞いた事の無い名前だ。
だらだら・・・
黒髪美少女の顔色が悪い、冷却の魔道具のおかげで店内は涼しいのに額から汗が流れている。
そわそわっ・・・
「じゅっ・・・ジュワイヨさんっ、おっ・・・お店の奥で話せませんか・・・」
僕を横目で見ながら黒髪美少女がマダムに言った、本当に挙動不審過ぎる。
「えぇ、いいわよ、そこの商談室に入りましょうか・・・シーアちゃんも居るからちょうどいいわぁ、アンジェちゃんが一目惚れした銀のネックレスはこの子が作ったのよぉ!」
「ひぃっ・・・」
黒髪美少女が僕を見て小さく悲鳴を上げる、僕この人に何かしたっけ?。
がしっ・・・
マダムの逞しい手が僕の肩を掴み、2人組と一緒に商談室に連行された。
そわそわっ・・・
もじもじっ・・・
商談室の高価そうなテーブルを前にして僕はマダムの隣に座り、目の前には2人組が居る、やはり黒髪美少女の様子がおかしい・・・。
「じゃぁ頼まれていたネックレスを用意するわねっ!、それと隣国から取り寄せた美味しいお茶があるの!、淹れるから少し待ってて貰える?」
そう言い残してマダムは商談室から出て行った、待って!、この気まずい雰囲気の中で僕にどうしろと!。
ちらっ・・・
ふいっ・・・
僕が黒髪さんの顔を見ると目を逸らされた。
「あの・・・」
黒髪さんに声をかける。
「ひゃぃっ!」
やはり様子が変だ、でも綺麗な子だなぁ・・・え?。
黒髪さんと目が合った・・・光に当たると黒にも銀にも見える不思議な瞳、どうして気付かなかったのだろう、この人って・・・。
「もっ・・・もしかして・・・でっ・・・殿下?」
「ひっ」
僕の言葉に黒髪さんは違うと言いたいのか首を横にフルフルと振っている、でも身長も同じくらいで髪や瞳の色、ホクロの位置まで同じだ。
でもヌコーニ様に暴言を吐いていた王太子殿下と目の前の黒髪美少女・・・雰囲気が違い過ぎる。
「はぁ・・・もう諦めましょうよ、殿下」
「ち・・・違うもん!、私は殿下じゃないもんっ!」
「改めましてごきげんよう、シーア・ユーノス様、私は王太子殿下の専属護衛でベアトリス・クッコローと申します、お気付きのようにこちらはアンジェリカ・ラブレアことアンブレラ王国、王位継承権第一位フェリック・アンブレラ殿下にあらせられます」
僕は慌てて立ち上がり挨拶をしようとした、ここは学園の外だから王族を前に無礼な態度は出来ない。
「お忍びですのでそのままで」
ベアトリスさんに止められて僕はまた椅子に座り直す、そして無言でフルフル震えている殿下を見た。
「おっ・・・お願い、誰にも言わないで・・・」
やはり挙動不審だ・・・。
「えと、それは殿下が・・・」
「殿下がこの姿の時はアンジェリカと呼び捨て、またはアンジェちゃんでお願いします」
ベアトリスさんから殿下の呼び方を指摘された。
「あ、はい・・・それはアンジェちゃんがここに来た事を秘密にするのでしょうか、それとも女装して・・・」
「両方でお願いします」
僕の質問に被せるようにベアトリスさんが答えた。
「・・・はい」
僕は殿下が何故女装しているのか気になったのだけど・・・これ以上詮索して王国の闇を知ってしまうと消されるかもしれないので考えるのをやめた。
「お待たせー!、あらシーアちゃん、2人と仲良くなったのねー」
いや仲良くなってないですけど!。
僕はマダムの淹れてくれたお茶を飲みながらアンジェちゃんが商品を確認するのを眺めている。
「ふわぁぁ・・・綺麗・・・」
先程まで涙目で震えていたのに僕が作った銀のネックレスを手に取ったアンジェちゃんは目を輝かせて眺めている、本当に気に入ったから買ってくれたようだ。
「アンジェちゃんの髪色ならきっとよく似合うと思うわぁ!」
マダムの言葉は社交辞令ではなくアンジェちゃんの髪の色によく映えていてとても似合っている。
「髪色も瞳も黒、今着ているお洋服も黒とグレーだから銀色が合うんだよねー、今のネックレスは大きい雫が一つだけど小さなものが3つでも可愛いかも」
アンジェちゃんの容姿は僕の創作意欲を刺激して次々と新しいデザインが頭に浮かんできた、早く帰ってイラストに起こしたい!。
ふと見渡すと3人が僕をじっと見つめていた。
「・・・声に出ちゃってました?」
3人が頷く。
「今のネックレスも可愛いけど、この指輪も一緒にどうでしょう?・・・実は同一デザインで、この3つをセットで販売しようと思っていたんです・・・お手入れ方法は黒っぽくなってきたらこの布で拭いて・・・」
僕はカバンの中から今日お店に納品する予定だったバングルと指輪を出した、元々このネックレスと一緒に身につける事を想定して作ったもので、制作に時間がかかって納品が遅れてしまったのだ。
「まぁっ!、これも素敵ねぇ!」
マダムが叫んだ。
「わぁ・・・これ欲しい、トリスちゃん買ってもいいかな?」
「私はいいけど・・・あまり散財するとお父上から怒られるんじゃない?」
「でも・・・バレなきゃいいと思うの」
ここでのお父上っていうのは陛下だろう・・・王太子殿下でも散財すると怒られるのか・・・やはり今日の殿下は学園での女好きで軽薄な雰囲気の彼とは別人みたいだ。
「はい、お買い上げありがとう!」
マダムは慣れた手つきで商品を3つとも包み、紙袋に入れてアンジェちゃんに手渡した。
「買っちゃったぁ、帰ったら早速つけてみよう!、似合うかなぁ?」
「はいはい似合う似合う、遅くなると抜け出したのバレるから帰るよー」
えぇ・・・アンジェちゃんお城を抜け出してたのか・・・。
・・・
・・・
「アンジェちゃんの事が気になるみたいね」
2人が商談室を出て行った後、マダムが僕に話しかけて来た。
「気になるというか・・・」
何で女装してるんだろうって思っただけなんだけど・・・。
「あら、アンジェちゃんが男だって気付いてたのね」
マダムが真面目な顔をして言った。
「ぎゃぁぁ!、また声に出てたぁ!」
「私と同じよ、アンジェちゃんの方がずーっと可愛いけどね・・・あの子も身体は男だけど心は女の子なのよ、お家は身分の高い貴族で家族からは後継なのだから男らしくしなさいって言われてるそうよ」
「えぇ・・・」
「私はお客様の事情を他の人に漏らさない主義だけど・・・シーアちゃんも似たような立場だしお友達になれたらいいなって思ったから話したの」
「そうなんだ・・・」
僕はマダムに転生した事は伏せて自分の身体について相談した事がある、僕の身体は女性だけど心はおっさんだ、このまま成長して結婚や出産なんて絶対に無理だから・・・。
読んでいただきありがとうございます。
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