012 - てぃあどろっぷ・ろーず -
012 - てぃあどろっぷ・ろーず -
「・・・」
「・・・」
僕はヌコーニ様とお茶を飲んでいたコヴァーン家の中庭から場所を移してお屋敷の中にある居間に連れて来られた。
当主のゴンザレス様が仕事先の王城から帰って来るまで待っていたから夜になっている、途中僕のお腹が鳴って美味しい夕食も食べさせて貰った。
お部屋の中に居るのはヌコーニ様、イヌーニ様、お兄様のエンリケス様・・・お隣の屋敷から呼ばれてやって来たカヴァーニお義母様とハンニヴァルお義父様・・・。
ヌコーニ様の後ろには有能そうなメイドさん・・・ポーラさんが立っていて執事のジーノさんも居る、何だか深刻な事態になっているようで落ち着かない。
がちゃっ・・・
「待たせてしまったようだね」
ゴンザレス様が帰って来たようだ。
全員が揃ったところで重々しい空気の中、話が始まった。
じゃらっ・・・
「これはシーアさんが作ったのよね」
ヌコーニ様がテーブルの上に出したのは僕があげた雫形のシルバーネックレスだ。
「ティアドロップ・ローズ」と僕が名付けた銀で出来た雫形の本体に薔薇が絡み付いたデザイン・・・前世の僕のお店でよく売れた人気商品だ。
但し前世と違い細かな細工ができる銀粘土なんてこの世界には無いから僕が銀の塊から手作業で削り出した渾身の力作・・・。
「はい、ちゅくりました」
緊張して噛んだじゃないか!。
「ドラゴンアビス・・・」
「・・・っ!」
聞き慣れた名前に驚いて僕はヌコーニ様の顔を見る。
「ちょいワル系の男性や中二病の男の子、それからゴスロリっぽい女の子に人気のお店ね」
「ヌコーニ様何を言って・・・」
ヌコーニ様の口から中二病やゴスロリって言葉が出て僕は頭の中が真っ白になった。
「店長は金髪ピアスにタトゥーのいかつい中年男性・・・雁城龍也という名前なのだけど若い頃は「羅刹の龍」と呼ばれて地元の暴走族や不良グループから恐れられていたようね」
「あ・・・あう・・・」
僕はもう意味が分からなくなって挙動不審になっている。
何でヌコーニ様が生前の僕の姿を知ってるんだよ!・・・ってか改めて前世の容姿を言葉にされると今の僕とかけ離れ過ぎてて笑える。
僕が落ち着くのを待ってゴンザレス様が喋り始めた。
「アンブレラ王国のある大陸を含むこの世界ではごく稀に別世界の記憶を持ったまま生まれる子供が居る、「渡り人」と呼ばれ、その知識や技術は王国の発展に貢献したと言われていてね・・・」
僕の他にも転生者がいたのか・・・。
「渡り人の存在は王家と・・・政治の中枢に関わる限られた一族の間で知られているだけで基本的に秘匿されている、以前は渡り人が確認された場合、知識が悪用されないよう国が保護していた」
「それじゃぁ僕は国に・・・」
「いや、昔現れた渡り人のおかげで王国の技術も発展した、今は有用な知識を持つ者に限り国が動き、それ以外の者は監視に留めているのだ」
確かに王都の街には魔導列車が走り、上下水道も整備されていて快適だ・・・。
夜は魔道灯による光で街は明るいし馬車に使われる馬だって最近は四足歩行する馬型の魔道具に置き換わりつつある。
地球の技術を吸い上げなくてもこの世界の文明は十分に発展している・・・。
「まだ娘が幼い頃、君が渡り人である可能性があると言って来てね、それとなく我が家で監視していた」
「そんな昔から僕は見張られていたの?」
あ、また思ってる事が声に出ちゃったよ。
「その頃はまだ「可能性がある」に留まっていたがね、シーアちゃんが向こうの知識を悪用して国に危険が及ぶようなら干渉する予定だった・・・だが人畜無害だったから今は監視対象からも外されているよ」
人畜無害・・・・。
「でもどうしてヌコーニ様が僕の事を・・・まさか」
「ヌコーニも渡り人だった、だがそれ程革新的な知識も技術も持っていなかったからシーアちゃんと同じように監視対象から外された」
「そうなのよ!、異世界転生したから知識無双、チート能力で私スゲーってしたかったのにっ!」
ヌコーニ様、僕にバレたからなのかキャラ変わってない?。
「それなら向こうの世界にあるドラゴンアビスを知っていても不思議じゃないかも、ヌコーニ様はあのお店に行った事があるの?・・・あ、通販のお客という可能性も・・・」
「知ってるも何も・・・まだ気付かないの?、私はあのお店の店長、雁城龍也の娘よ」
「へ?」
僕は頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けて固まった・・・言葉が出ない、身体が震えて来た・・・。
「でも・・・全然違うし、見た目も性格も・・・」
・・・娘は背中まで伸びた黒髪、黒縁メガネを掛けたまるで古風な文学少女という見た目だった、でもヌコーニ様は腰まである美しい銀髪に翡翠色の瞳、顔立ちも整っていて気が強そうな雰囲気。
「シーアさんだって全然違うじゃない!、私、あのいかつい親父がこんな可愛い女の子になってるのがどうしても信じられなくて「ティアドロップ・ローズ」を貰うまで絶対そんな事は無いって自分に言い聞かせてたんだから!」
「・・・僕はこんな我儘で高慢な性格に娘を育てた覚えはありません!」
そう、僕の可愛い娘は真面目で清楚・・・趣味は読書やアニメ鑑賞、若干オタク趣味で・・・。
「わがままって・・・酷い!、でもせっかく異世界転生したんだから全然違う人生を生きてみたいと思うでしょ!、思うよね!」
「でもまだ信じられないよ・・・」
「なら教えてあげましょう!、お父さんのエロ本の隠し場所はベッドの下、でもそこは偽装で巨乳本ばかり、本命は押入れの奥が二重になっていて幼女ものやロリコン、百合漫画が沢山・・・」
「ちょっと待って!、それ以上いけない!」
「ふふふ・・・信じてくれた?」
「ぐぬぬ・・・それなら「俺」も言わせて貰う、お前の本棚に並んでいた少女漫画や百合ものは偽装、その奥に隠されたハードゲイ写真集やかなりマニアックで濃厚なBL物が・・・」
「いやぁぁぁ!、何で知ってるのぉぉぉ!」
「更に言わせて貰うならお前が最後に寝小便をしたのは15歳の時で・・・」
「うわぁぁぁ!、だってそれはお父さんが絶対面白いからちょっとだけって、私に無理矢理スプラッター映画のDVD見せたからでしょ、あれ本当に怖くてお手洗いに行けなくて・・・」
・・・
・・・
「秘蔵の遺品・・・どうなったかなぁ・・・」
「明子おばさんや従兄弟の隼人くんに見られたかも・・・わーん!、恥ずかしいよぅ!」
もう死んでしまったのだから恥ずかしい遺品を妹や甥に見られるのはいいとして・・・どうやら間違いないようだ、僕の目の前に居るヌコーニ様は・・・。
娘が9歳の時に妻が病気で亡くなり「私」は男手一つで娘を育てあげた、そして通販から始めたドラゴンアビスはショッピングモールに大きな店を構えられるまでに成長する・・・。
「私」が40歳、娘が18歳の時、妻の命日に墓参りに行こうと娘を後ろに乗せたハーレーダヴィッドソンが中央車線を超えて来た暴走トラックと衝突して・・・。
「真理も死んでしまったのか」
ぽろっ・・・ぽろ・・・
「うっく・・・ごめんなさい、守れなくて・・・死なせちゃってごめんなさい、トラック避けられなくて・・・」
僕は最愛の娘を守れなかった悔しさと悲しさで涙が止まらない・・・。
泣いていた僕が落ち着きを取り戻すのを待ってコヴァーン家とユーノス家関係者で話し合いが始まった。
ゴンザレス様に聞かれて一通り前世の知識を披露したけれど特に有用なものは無く、当初の予定通り監視対象からは外れてこれまで通りの生活が出来るようだ。
ヌコーニ様との関係も人の目がある場所ではこれまで通りの付き合いになる、正直僕はこの外見で生前のようなおっさん口調に戻りたくない。
彼女も筆頭貴族家のわがままお嬢様という立場が気に入っているらしく王太子殿下との婚約は円満解消を目指し、お金持ちで優しい旦那様と結婚して幸せになってやると豪語している。
義両親、ユーノス夫妻は事前にゴンザレス様から僕が渡り人の可能性があると聞かされていた、かなり前に姪が渡り人だという事も既に知らされていたようだ、でもヌコーニ様の生前の父親だとは思わなかったようで驚いていた。
「お父さんは私が18歳になるまで自分の全てを犠牲にして育ててくれたの」
そう誇らしそうに自慢する元娘の言葉に僕はまた泣いてしまった。
「いつから僕が渡り人だと気付いていたの?」
「最初に違和感に気付いたのは私の名前を笑った時かしら、「猫に小判」で笑ったからおかしいと思ったわ、それから・・・」
ヌコーニ様は後ろに控えているポーラさんを見た、この人は下級貴族ながら莫大な資産を持っているギノール家の次女で、ヌコーニ様の専属メイドだ。
すっ・・・
ポーラさんが差し出したのは見覚えのあるハンカチだ、家庭教師に刺繍を教わっていた時に練習で刺したやつ・・・そういえばこの人が鼻水を吹き出した時に渡した気がする。
「これってミッXィーちゃんでしょ」
そう、絵柄は何でもいいと言われてどうせ誰も知らないだろうと思いXッフィーちゃんにしたのだ、こんな些細なことからバレるなんて迂闊だったな。
ポーラさんは僕にハンカチを返そうと思いながらも刺繍の絵柄をとても気に入り、そのまま愛用していたそうだ。
確かギノール家から僕宛で高級そうなハンカチが届いた事があって・・・開けてすぐ姉様に奪い取られて泣いた記憶がある。
「他には独り言でポロッと呟いていた悪役令嬢とか・・・王太子殿下をロリコンって言っていた事もあったわね、あとはカアトお祖父様の事を27歳で死にそうな名前だって小声で言ってたのを私は聞き逃さなかったわ」
「・・・」
「ずっと前から出会っていたけれど・・・再開できて嬉しいわ、お父さん」
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