010 - どらごんあびす -
010 - どらごんあびす -
「荷物は本当にこれだけなの?」
僕が両手に持っている鞄を見て義母となったカヴァーニ様が驚いている。
「はい、最初から持ち物はあまり多くなかったので・・・」
「そう・・・」
僕は今、引っ越しの最中だ。
学園の寮を出て今日からユーノス家のお屋敷に住む事になったのだ、義両親・・・ユーノス夫妻は養子縁組が決まると屋敷に僕の部屋を用意してくれた。
ユーノスのお屋敷はコヴァーン家の隣だ、だから朝はヌコーニ様と一緒に馬車で学園に向かう事になるだろう。
僕のために用意された部屋に入る、落ち着いた内装・・・家具は高級感のあるもので統一されていて上品だ。
日当たりも良く王都の大通りからは広い庭で隔てられていてとても静か・・・。
「こんなに広くて綺麗なお部屋を用意してもらって・・・本当にいいのですか?」
僕はお部屋に案内してくれたカヴァーニ様に聞いた。
「気に入って貰えると嬉しいわ、これからは沢山お話ししましょうね・・・私、娘と一緒に暮らすのが夢だったの」
本当は寮で生活を続けるつもりだったのだけど、ここまで良くして貰ったら断れないよ・・・。
荷物の整理はメイドさんじゃなくカヴァーニ様が手伝ってくれた。
衣類は学園の制服が4着、食費を浮かせて買った私服が3着と下着が数着だ、元々持っていた服やドレスはオースター家に全部置いてきた。
あの元両親の事だから既に捨てているか売り払って金に換えているだろう。
ぱさっ・・・
本棚に入れようとしていたノートが足元に落ちた。
これは幼い頃から僕が趣味で書き溜めていたもので既に10冊を超えている、実家から逃げ出した後はこれで食い繋ごうと考えていた。
「これは?」
カヴァーニ様が興味を持ったようだ。
「僕が考えた装飾品を絵にしたものです」
「見てもいいかしら」
この流れだと断れないし!。
「・・・どうぞ」
ぱらぱらっ・・・
「まぁ、素晴らしいわ、綺麗ね!」
「・・・ありがとうございます?」
僕の前世での職業は宝飾デザイナーだった、得意分野はシルバーアクセサリー。
ストリート系ファッション誌にも取り上げられて結構人気があった・・・最初は趣味で始めたものだけど専門の学校に入り、気付いたら自分の店を持っていた。
店の名前は「ドラゴンアビス」・・・。
いわゆるお洒落なものではなく、ストリートキッズやいかつい系の野郎達が好む指輪やバングル、ピアスなどのメンズ向けが主力商品・・・。
ドラゴンの指輪や髑髏をモチーフにしたピアスは自分でも驚くほど売れた。
・・・そういえばショッピングモールに構えた店を残して「私」は死んでしまったのだ、従業員やアルバイトの子にも迷惑をかけただろうな。
カヴァーニ様はまだ僕のノートを熱心に眺めている、3冊目を見終わって4冊目に手を出した、まさか全部見るの?。
ノートにはドラゴンや禍々しい怪物のデザインが満載なのだけどカヴァーニ様の美的感覚は大丈夫なのか?。
「あの・・・恥ずかしいので返してもらえるとありがたいのですが・・・」
ノートのページを捲りながら「凄い」「素敵ね」などとはしゃぐカヴァーニ様、本当に恥ずかしいからやめて!。
・・・
「そうなの・・・素敵な夢ね、お義母様にも手伝わせて貰えるかしら?」
カヴァーニ様の「圧」に負けて僕の思い描いていた人生設計を全部喋った。
素材を集めてアクセサリーを作り庶民を相手に販売する、いずれは小さなものでいいから自分のお店を・・・。
「私の持っている宝石店の一部を使いましょうか、材料や道具はお義姉様の持っている物を借りればいいわね」
ダメだ、お義母様・・・娘ができたのが嬉し過ぎて人の話を最後まで聞かずに暴走し始めてるよ!。
「ちょっ・・・ちょっと待って下さい!、まだ僕のアクセサリーが売れるかどうかも分からないし、学園の授業もあるから準備する期間が・・・」
「もうすぐ長期休暇が始まるでしょ、時間はあるじゃない!」
お義母様は「これから忙しくなるわぁ!」などと言って、ハンニヴァル様にも見て貰うのだと僕のデザインノートを持ってお部屋を出て行った。
お義母様は人の話を最後まで聞かない、行動力のお化け・・・うん、覚えた。
僕は抵抗するのを諦めてふかふかのベッドに寝転がった。
「まぁ、可愛いお嬢ちゃんねっ」
「そうでしょ、うちの娘はとっても可愛いの!」
きゃっきゃっ・・・
わいわい・・・
ここは王都のシャンテ大通りに店を構える「ジュワイヨの宝飾店」、学園がお休みの日にカヴァーニお義母様に連れられてやって来た。
「こんにちは・・・この度は無理を言ってしまって申し訳・・・」
「まぁまぁ!、礼儀正しい娘だわぁ、私はこのお店の店長でジュワイヨっていうの、よろしくねっ!」
お義母様同様、異様に「圧」が強くてキャラが濃いマダムはこのお店の店長、ジュワイヨ・チュールーさんだ。
ここのオーナーはお義母様で、この人は雇われている店長だけど宝飾品を選ぶセンスの高さと素晴らしい接客で貴族や裕福な平民の間でこのマダムのファンは多いらしい。
「早速だけど見て貰える?」
「えぇ、拝見するわ」
ささっ・・・
ぱらっ・・・
「まぁ・・・まぁまぁまぁっ!、素晴らしいわぁ!、これはどうやって彫ったの?」
「あ・・・はい、自作の道具を使って大まかに彫った後、動物の皮や舌を使って磨き上げています」
「全部シーアちゃんが彫ったのよね?」
「そうよ!、図案から制作まで全部私の娘が作ったの!」
「こっちは腕輪だったわね・・・」
ぱらっ・・・
「きゃぁぁぁ!、これも凄いわぁぁぁっ!」
わいわい・・・
きゃっきゃっ・・・
僕はお義母様に言われて試作品をいくつか作った。
一つは銀の指輪、表面にバラを浮き彫りにした、もう一つは銀の棒を削り出して2匹の蛇が絡んでいるように見えるバングル・・・どちらも僕が得意としていたデザインだ。
素材や器具はコヴァーン家の工房を借りた、ヌコーニ様のお母様、イヌーニ様は有名な錬金術師なので自宅に工房があるのだ。
道具に関しては前世で使っていた自作道具を再現した・・・こちらの世界に無いものもあったので結構苦労した。
僕はマダムとお義母様が楽しそうに戯れているのを眺めている。
この世界には上品で繊細な装飾品はあるのだけど、ワイルド系やちょいワル風のものは見た事が無いから僕の作品が通用するのか正直不安だったのだ。
「あの・・・どうでしょう?」
僕は興奮して鼻息が荒いマダムに恐る恐る尋ねた。
「凄いわぁシーアちゃんっ!、これ絶っ対に売れるわぁ!、こんなに綺麗で細かい装飾見た事が無いもの!」
がしっ!
僕はマダムに抱きつかれ頬ずりされた、お髭があたってじょりじょりするっ!、毛深くて逞しい腕が僕の首を締め付けて・・・。
ぱん!、ぱんっ!・・・
「苦しい・・・し・・・死んじゃう」
「きゃぁぁぁ!、シーアちゃんごめんなさい!、私興奮すると抱きつく癖があるのぉ!」
危うくマダムに絞め落とされそうになったけど、どうやら僕の作品はこの世界で通用しそうだった。
マダムと話し合って契約もした、商品は定期的に補充、僕とお店の取り分比率は売り上げを見て決める事になった、お店の一番奥の商品棚を一列使わせて貰えるようだ。
その後お義母様は僕に・・・。
「ここにある宝石で欲しい物は無いかしら、お母様からのプレゼントよ」
などと超高額な値札の付いたアクセサリーを執拗に勧められたけれど丁寧にお断りした、でも・・・。
「棚の値札がついているものは安物よ?・・・そうだわ!、奥の保管庫に素敵な指輪が・・・」
そう言ってジュワイヨさんがお店の奥に行こうとするのを僕は必死で止めた!。
このお店は上級貴族や王家も利用する高級店だ、その保管庫にある商品なんて恐ろしくて持ち歩けない!。
僕は周りを見回して一番安い値札のものを探した。
「お義母様っ!、このイヤリングが欲しいなぁ!、一番手前にあるやつ!」
僕の言葉を聞いてジュワイヨさんが棚から商品を取り出す、値段は僕の昼食およそ200日分だ!。
「これかしら?、このお店で一番安いやつよ、遠慮しないで・・・」
「これがいいの!、僕凄く気に入ったの!」
「そう?、他に欲しいものは・・・」
そう言ってお義母様の視線は奥の高額品に・・・。
「これだけでいいですっ!」
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