数百人を呪い殺した怨霊
その男はとても昔に生きた人物だ。
曰く、元々は殿様だったらしい。
しかしながら、世は戦乱。
歴史の片隅で断末魔をあげた彼の末路は悲惨なものだ。
足の指先から髪の毛に至るまで一寸ずつに切り刻まれたらしい。
どれほどの恨みを買えばそのような処刑をされるのか。
私にはまったく想像がつかない。
人間の感情がそんなにも凄惨なことをさせるほどの悪行なんて――。
いずれにせよ、凄惨な末路を遂げた彼だが凄まじい恨みから現世に留まった。
いわゆる怨霊というやつだ。
怨霊となった彼は幾人もの人間を呪い殺し、これは敵わんと思った者達がどうにか彼を鎮める霊廟を建てたことでようやく全てが納まったのである。
それもまた、随分昔のことだ。
そして、今。
すっかり老朽化していた霊廟が地震によって姿を現した。
いつの間にやら地面の底に埋もれていたはずであるのに、本当に今さらだ。
故に。
私は彼の前にいる。
別にそんなことをする義理などもないが、流石に何も知らないのは可哀想だから。
「繰り返しとなりますが、私を呪い殺すことは不可能です」
「そのようだな」
事前に知っていた資料から受けた印象と比べ幾分かやわらかい言葉遣いで彼は私をじろじろと見つめる。
「それにしても貴様のような人間は初めて見る。儂は生前、数えきれないほどの者を斬殺したが、貴様のように血の気のない肌を持つ人間は見たことがないぞ」
くっくっくと笑いながら彼は刀を抜く。
一体どのような原理なのだろうか?
そもそもこの時代においてさえ幽霊というもののメカニズムは解明されていない。
当然ながらその幽霊が何故刀を抜けるのかも、そして何故その刀が実体化しているのかも。
響く金属音。
折れる刀。
本当にどうなっているのだろう?
彼は。
かっかっかっかと芝居がかった声で笑った。
「刀が折れたぞ。名刀が。貴様の体、まるで鉄ではないか」
鉄。
そうか、鉄か。
まずはそこを説明すればよいか。
「その通り。私の体は鉄で出来ております」
「ぬかせ、馬鹿者」
私の言葉が終わるか終わらないかの内に新たな刀が出現し私の目にあたる部分に突き刺さった。
より正確には突き刺さりそうになった。
「ほう。目玉も鉄のように固いな」
刀は私の目を貫けず停止してた。
しかし、気にせずに私は話を続ける。
「まず、第一に私は人間ではありません」
「馬鹿が。人間ではないと?」
「はい。あなたの思う人間はもう滅びています」
「黙れ。では貴様は何者だというのだ!」
血気盛んな方だ。
三度振るわれた刀を見つめながら私は思う。
まったく、全ての説明を終えるのにどれだけの時間がかかるやら……。
「良いですか。まず一つお教えいたします。私はアンドロイドというものです」
少なくとも私よりは人間に近そうな彼が人類が滅亡した世界に絶望するまで、あと5分ほど――。




