第37話
王都からの正式な裁定が届いたのは、事件が起きてから三週間後だった。
内容は、リリスの予想通り。
水路権はローデン旧領に属する。
東の山林の帰属も同様。
ゲスナー子爵に対しては、不法な妨害行為についての調査が開始されるとの事であった。
そして、それだけではなかった。
裁定書の最後に、一文が付記されていた。
「本件の調査において、ローデン旧領・アードラー管轄地より提出された書類の精度と網羅性は、王都の記録局においても高く評価された」
クラウスがその文を読んで言った。
「……お嬢様、王都に褒められましたよ」
「書類が適切だっただけです」
「褒められたことをもっと喜んでいいと思うのですが」
「喜んでいますよ。内心では」
クラウスは苦笑した。
ゲスナー子爵の調査の結果、水路の不法転用について過去の賠償が命じられる事となり、その額は決して金額は小さくなかった。
その賠償金の一部は、ローデン旧領に入る。
リリスはその金を、三つに分けた。
一つ目は水路の修繕費。
上流の詰まりを取り除き、適切な分配システムを整える工事費用。
二つ目は藍染め工房の設備費。
道具の修繕と、新しい染め桶の購入。
マルガが指定したものを揃えた。
三つ目は村の道の整備費。
荷車が通れるように轍を直すことで、収穫物を効率よく運び出せるようになる。
この配分を、リリスは村長と副村長の前で説明した。
「賠償金をどう使うかは、村の方々の意見も聞いた上で決めたいと思います。私の提案はこれですが、変えるべき点があれば言ってください」
カスパー村長が、クラウスと顔を見合わせた。
「……お嬢様は、いつも私たちに聞いてくださいますね」
「この土地を一番知っているのは、長く住んでいる方々ですから」
「前の領主は……何も聞かなかった」
「それは、間違いだったと思います。実際に暮らしている人の意見を聞かなければ、的外れな計画になります」
村長が少しの間、黙った。
「……このままでいいです。お嬢様のお考え通りに」
「ありがとうございます。何かあればいつでも」
外に出ると、ルッツが村の入口に立っていた。
フェンとリルが村の子どもたちに囲まれて、じゃれ合っている。
「どうだった」
「村長が承認してくれました。工事の手配を始めます」
「俺に手伝えることは」
「水路の工事で、上流部の測量に同行していただければ。万が一のことも考えて」
「わかった」
「あと、フェンが子どもたちに遊ばれすぎています。太ります」
「……フェン、戻れ」
フェンが不満そうな顔でルッツを見ていると、子どもたちが「もっと!」と叫んだ。
ルッツが少しだけ困った顔をする。
リリスは、その顔を初めて見た。
(困った顔も、する人だったのか)
(新しい表情、記録確定)




