第30話
カスパー村長の話は、二時間かかった。
夕暮れの館の一室に、村長と副村長のクラウスという四十代の男、それにリリスとルッツの四人が向かい合う。
ルッツはほとんど黙りリリスが質問をする。
「水不足の原因は何ですか」
「上流に、ゲスナー子爵様が新しい水路を作られまして。そちらに流れが変わってしまいました。十年前からです」
「十年前」
「はい。その頃から、こちらの水量が減り始めまして。農業に支障が出て、収穫が落ちて……前の領主様は、ゲスナー様に何度か交渉されたようですが、うまくいかないうちに、その……」
「逃げた、ということですか」
村長が少し黙ってから、頷く。
「村の収入は、現在どの程度ですか」
「麦の収穫だけで言えば、最盛期の三分の一以下です。あとは、この村の東側に少し山がありまして、そこで木材を切り出していますが……それも最近、ゲスナー様の方から、あの山はうちの管轄だという話が出まして」
「山の帰属についての公的な記録はありますか」
「昔の地図と、伯爵様の時代の書類があるはずなのですが、前の領主様が持って行かれてしまいまして」
「王都の公文書には残っているはずです。確認します」
クラウスが、初めて口を開いた。
「……あの、お嬢様は、本当に確認できるので?」
「できます」
「前の領主様も、そう仰ったことがあって……」
「私は書類を作る前に、書類が実在するかどうかを確認します。先に確認して、あればご報告します。なければ、別の方法を考えます」
クラウスが、ルッツを見た。
「……アードラー様は、こちらのお方をお連れになったのですね」
「連れてきた」
「頼りになりますか」
「俺より頼りになる」
ルッツが短く答えクラウスが、リリスを見る、その目の色が、少し変わった。
「……では、信じてみましょうか」
その夜、リリスは夜明けまでノートを書き続けた。
水路問題の法的根拠の確認方法。
山の帰属問題の調査方針。
収入を回復させるための優先施策の仮案。
一つ解けば次が見える。
次が見えれば手が動く。手が動けば前に進む。
ランプの光の下で、ページが埋まっていった。
隣の部屋で、フェンとリルが眠っている音がする。
ルッツもそろそろ眠っているだろう。
(一つずつ、やる)
リリスはノートを閉じ、窓の外を見ると星が出ていた。




