表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

第27話



 正式な婚約の発表は、アードラー家主催の夜会で行われた。



 公爵が近隣の貴族を招いた場で、ルッツが立ち上がり、リリスを隣に呼ぶ。



「リリス・フォン・ローゼンハイムを、正式な婚約者として発表する」



 短く、静かに。



 会場がざわめいた。「没落伯爵家の娘が」という声が、ここでも聞こえる。



 リリスは動じず、ルッツが続けた。



「この半年、リリスはアードラー領の財務改善を行い、物流改革を提案し、実績を出した。彼女の能力を疑う者は、数字を確認すればいい。数字は嘘をつかない」



 会場が、また静まった。



 リリスは、その言葉を聞きながら。



(私が言った言葉を、覚えていたのか)


(「数字は嘘をつかない」)



 卒業パーティの夜に、カトレアに向かって言った言葉。


それをルッツは覚えていて、今夜、別の場所で使ってくれた。



 胸の中が、静かに揺れる。



 夜会の後、2人だけで裏庭に行った。



 フェンとリルが月明かりの中で転がり、ルッツがその隣に立っていた。



「改めて、申し込む」


「……はい」


「今日は準備をした」


「何を準備したのですか」


「言葉を」



 ルッツが、リリスに向き直る。



「お前は、俺が知らないものを持っている。俺が思いつかないことを考える。それが好きだ。それだけじゃなく、俺の隣にいる時間が、今まで一番落ち着く」


「……」


「俺は、お前のことが好きだ。それを伝えたかった」



 シンプルな言葉だった。



 飾りも、修辞も、回り道もない。



 ただ、真っすぐな言葉だった。



 リリスは少しの間、答えられなかった。



 月が、裏庭の石畳を照らし、その傍でフェンが寝返りを打った。リルが短く鳴いた。



「……私も、好きです」



 リリスが言う。



「声が小さい」


「……私も、好きです」


「もう一度」


「うるさいです、ルッツ様」



 ルッツが、短く笑った。



 今夜で二度目の、笑顔だった。



 リリスは月を見上げた。



 胸の中が温かくて、少し泣きそうになるが泣かなかった。


ただ、月が少しだけ滲んで見えた。



(推しに告白された。推しに「好きだ」と言われた)


(これは、夢じゃないのか)


(……夢じゃない。ここは夢じゃない)



 リリスは月から視線を戻すとルッツがまだそこにいた。



 それが、答えだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ